中国におけるソフトウェアビジネスを金山軟件に聞く:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2006年02月07日 15時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

 中国では海賊版PCソフトが中都市クラス以上なら店舗で容易に安価に購入できる。そんな状況でコンシューマー向けソフトウェアビジネスは成り立つのだろうか? そんな中国で1988年から15年以上中国市場向けのソフトウェアを開発し販売してきたのがキングソフトだ。同社日本法人の社長広沢一郎氏をはじめとするキングソフト幹部に「成功への道」を伺った。

中国でソフトウェアビジネスを成功させる秘訣は?

 中国広東省珠海。ここで中国の旧正月前の1月末に、とある会社の年次総会が行われた。そこでちょっとした興味深い寸劇が行われた。海賊版の業者がそのソフト会社の社員に殴る蹴るの暴行を加えて、「おまえたちのせいで海賊版が売れなくなったじゃないか!」とどなりつける、という内容だ。

 この年次総会を行っているのが、去年9月に中国から日本市場に参入し、100万本無償ダウンロードキャンペーンを行ったキングソフト日本法人(本文では以下「キングソフト」と表記)の親会社である、中国本社「金山軟件」(キングソフト。本文では以下「金山軟件」と表記)だ。

 金山軟件は、セキュリティソフト「金山毒覇」(キングソフトインターネットセキュリティ)、オフィスソフト「WPS office」、日中英3カ国語対応辞書ソフト「金山詞覇」に加え、オンラインゲーム数本をラインアップに持つ、中国コンシューマソフトウェアベンダー最大手である。冒頭で紹介した寸劇は、中国で過去何年も解決できなかった、コンシューマーソフトウェア市場と海賊版の問題に対して同社が真正面から取り組んでいることをアピールしている。

 金山軟件の主たる売り上げはオンラインゲームだ。オンラインゲームはIDとパスワードをサーバで管理しているため、ユーザーは課金から逃れることができない。オンラインゲームは海賊版といった不正ユーザーを許さない、まさに中国で望まれるソフトウェア形態なのだ。同社もオンラインゲームを扱う前は海賊版に相当悩まされたという。

 金山軟件にしても、海賊版が蔓延する中国のコンシューマー市場には期待していなかったそうだ。その代わりに期待をかけたのがビジネス市場だった。個人利用者には海賊版であれ正規版であれ、まずは使うことで製品を多くのユーザーに知ってもらい、企業や政府が一括導入するときに、「多くのユーザーが親しんでいる」金山軟件の製品を選択してもらい、そこでしっかりライセンスを買ってもらう。これが中国におけるソフトウェアビジネスとなっているそうだ。

 ちなみに店頭パッケージ販売は海賊版がある限り期待はできなかったけれど、それでも、セキュリティソフトでいえばシマンテック、オフィスソフトでいえばマイクロソフト、それぞれの製品よりもはるかに安い、中国人の所得でも手が届く価格帯で販売したために、中国全土のソフトショップに正規版が置かれ、それなりに売れたらしい。

 冒頭の年次総会が行われた広東省珠海には金山軟件の開発センターがあり、日本語化作業もここで行われている(金山軟件の本社は北京にある)。珠海のオフィスには「すべてをWebに!」というスローガンがあちらこちらに貼ってある。中国本社CEOの雷軍氏はこのスローガンについてこんな話を聞かせてくれた。

中国本社CEOの雷軍氏

 「中国では、スタンドアローンのソフトはゲームでもビジネス系でも、そもそも違法コピーによって商売にならない。であるならば、いっそ無料にしてしまおう、というのが我々の戦略だ。コピー版を使われるくらいなら、無料正規版をダウンロードしてもらったほうがずっといい。ダウンロードのために金山軟件のホームページにアクセスしてくれるし、ソフトをダウンロードして使う、という体験をしてもらえる」

 「こうしたことが後々ネットビジネスに寄与すると考えている。WPSはこの方法で違法コピーがなくなった。無料のものをわざわざCDに焼いて販売する業者もいないだろう。ただ将来的に、違法コピーを買うのはバカらしい、と思える程度の課金をネットで行うことはあり得る。適正価格であれば正規版を使ってもいい、と考えているユーザーは多いと認識している」(雷軍氏)

オフィスソフト「WPS OFFICE」パッケージ版

金山軟件は「すべてをWebに!」のスローガンの元、具体的にはどのような製品を投入していくのか?

「金山軟件は、確実に海賊版が出現する辞書ソフトやWPSオフィスを、WEB上のサービスにするか(辞書ソフトがこれに当たる)、無料、または超低価格(WPSオフィスがこれに当たる)にする方針です。すでに辞書は、パッケージからWeb無料サービスへ移行中です」

 「これらのソフトのビジネスモデルは“広告”です。どうせ違法コピーされてほとんど市場がないなら、無料公開して広告モデルにしてしまえ、ということですね。このあたり、中国ならではかもしれません。我々の大きな方針として、数年前よりマーケティング重視からテクノロジー重視にシフトしていますが、今後はさらに加速させる予定です。その意味でgoogleは非常に参考になる、と雷軍CEOは言っています」(広沢氏)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年10月24日 更新
  1. “置き場所に困る”大容量ポタ電の壁を打破! 冷蔵庫を3日動かすEcoFlow「DELTA Gen4」シリーズが日本上陸 (2026年10月23日)
  2. 若者向けのカラフルな新「Dell 14S」が日本上陸 11月1日まで4.5万円引きの14万9800円から (2026年10月22日)
  3. FCCLが「FMV Keyboard X」の一般販売を開始 ハイスペックマウス「FMV Mouse X」も同時発売 (2026年10月22日)
  4. 「Galaxy Watch9」を1週間使って分かったこと Pixel Watchと比べた使い勝手は? (2026年10月23日)
  5. 折りたたみ型から薄型まで! スマホやタブレットで“本気”の文字入力に使える持ち運び用キーボードを選ぶコツ (2026年10月23日)
  6. 「iPhone Duo」を1週間使って分かった、全部盛りではない“上質さ” 心地いい開閉ヒンジの内部を見るために“非破壊検査”してみた (2026年10月21日)
  7. 天空が12月25日に発売する「GPD WIN Max 3」国内正規版 実機に触れてきた (2026年10月23日)
  8. 約22万円の新型「Mac mini」で初めてのローカルAI体験 ストレージの価格高騰対策にピッタリかも (2026年10月20日)
  9. スマホは「バッグの中」から「外」へ AULUMUのスリングバッグ2種で移動時のプチストレスを解消した (2026年10月22日)
  10. PFUから33万円キーボード「HHKB Professional Elite」登場! 英語配列のみで有線特化の“原点回帰” 全世界300台限定 (2026年10月22日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー