第3回:直販サイトよ、どこへ行く後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方

» 2006年09月08日 08時00分 公開
[後藤重治,ITmedia]

販売店からの反発は少なくなったが

 インターネット通販の本格化を受けてPC周辺機器メーカーがWeb直販サイトの運営に乗り出したのは、おそらく1997から1999年あたりではなかったか。そのころ、まだほとんどのメーカーが、販売店の顔色をうかがいながら“ひっそり”と運営を行っていた。販売店との競合を恐れるあまり、自社サイトから直販サイトへのリンクを控えたり、ほとんどの製品が定価販売という「全品これ見せ筋」のWebショップも珍しくなかった。

 この枠組みが崩れるきっかけとなったのは、2000年の「ソニースタイル」のオープンを皮切りとして続々と登場してきた、PC本体メーカーによる直販サイトやBTOサイトだ。このことになると、販売店からの圧力も弱くなり、メーカーが堂々と直販サイトを運営できる雰囲気になってきた。販売されるアイテムも、メーカー直販サイトならではの製品が登場しただけでなく、価格的にも販売店とわずかしか変わらないレベルとなり、現在に至っている。

 とはいえ、メーカー直販サイトの売上が全社の数%にすら満たないのが現状だ。だから、メーカー直販サイト運営サイドは、いまでも「販売店をなるべく刺激したくない」というのが本音である。それでなくても、PC周辺機器とサプライの多くは、消費者の購買行動上でいうところの「買回り品」に相当するPC本体と違い、単価的にも「最寄り品」に相当するため、注文してすぐ手元に届かず、送料もかかるWeb通販ではむしろ不利になってしまう側面がある。このような事情から、PC周辺機器メーカー各社は、販売店を刺激せず、かつ最寄り品であるハンデを克服するため、さまざまな取り組みを行ってきた。

 しかし、新しい販路を開拓し、売上をアップさせるはずだったそれらの取り組みは、必ずしも成果を上げているといえないのが現状である。メーカー直販サイトの賢い使い方も踏まえつつ、「なぜ成果をあげられないのか?」という事情を詳しく見ていくことにしよう。

メーカー直販サイトの柱は「アウトレット」

 現在、PC周辺機器メーカーの直販サイトで主流となっているのが「アウトレット」である。それ以外の通常製品は、いわゆる「見せ筋」であり消費者からすると価格的にメリットがない場合がほとんどだ。

 「アウトレット」の定義は幅広いが、(その1)再生品、(その2)パッケージ破損品、(その3)過剰在庫または不動在庫、といったパターンが考えられる。よくあるのは、定番外れで販売店から引き上げた不動在庫をそのまま転用している(その2)のケースだ。

 これらは本来、パッケージ交換だけで新品再生できる「上物」だ。しかし、交換作業のコストだけで軽く製品の利益が飛んでしまうため、そのままの状態でアウトレットに回されるわけである。パッケージングを国外で行っているメーカーが、国内で再生するノウハウを持たないためにアウトレットに回さざるを得ないケースもある。ただ、返品だけに、値引きしても販売店から反発が出にくいというメリットもある。

 これと異なり、(その3)は完全な新品を値引きして販売するパターンである。主に過剰在庫品が対象となるが、既存販売店との兼ね合いで値引きしづらい製品を、「難あり」としてこちらに回すことも少なくない。サイト上で「限定○個」と書かれているにもかかわらず、長期間にわたって売られている製品が“それ”である。製品そのものに魅力があるかどうかはともかくとして、新品なのでお買い得感は高い。

 かつて、(その1)の再生品はメーカー直販サイトの集客と売上の主力であった。しかし、いまや直販サイトも「換金できれば儲けモノ」ではなく、きちんと売上ノルマが課されている。そういった現状では、かかる手間の割には台数が確保できないため、あまりメジャーな手法とはいえなくなってきている。

 これらの手法に共通して組み合わされるのが「お買い上げ○○円以上は送料無料」のトリックである。アウトレット品の販売価格を「送料無料」となるボーダーの価格よりすこし下げておくことでまとめ買いを誘発するのだ。

 仮に2000円以上のお買い上げで送料が無料になるとしよう。この場合はアウトレット品の価格を1800円に設定しておき、「送料無料」の条件に足りない分はほかの製品を買わせようとするわけだ。いわゆるネットショップでは常套手段とも言える手法だが、「最寄り品」であるPC周辺機器をネットで買わせるには格好の方法である。

オリジナル型番にモニター販売と多様化する手法

 アウトレット以外にも、メーカー直販サイトならではの販売方法がいくつかある。

 その1つが、メーカー直販サイト限定のオリジナル型番を用意する手法だ。これは仕様そのものがオリジナルというわけではない。販売店に流しているモデルを異なる型番で展開することで直販サイトにおける実質的な「値引き」に対する販売店からの批判をかわす「技」である。型番を変えることが目的なので、既存モデルのバーコードにシールが貼られているだけだったり、納品書記載の型番以外はまったく同じ場合も多い。

 最近では、新製品の「モニター販売」という手法も見られるようになってきた。これは、新製品を限定○個、定価から1〜2割引で販売する代わりに、新製品開発にフィードバックするための感想を求めるというものだ。言うまでもなく「限定○個」は見せかけの数字で、オーダーが集中すればその何倍もの数を売り上げることは珍しくない。実際にいくつ売れているかは当事者以外は分からないため、販売店としても文句をつけにくいのがポイントだ。メーカーによっては、購入者がブログで製品を評価することをうながしているケースもある。「検索エンジン最適化」的にも一石二鳥だ。

 これらとまったく違った手法として、ハードウェアメーカーを中心に、製品に組み込む部材の一部を単品販売するケースもみられる。例えば、「仕入れ力」を生かして大量にドライブを購入し、自社HDDユニットに組み込んだ残りの一部をそのままの形でバルク品として販売するパターンだ。HDD以外ではメモリでもこうした例が見られる。ただ、リテール品そのものが底値に近いいまとなっては、バルク品として販売されたとしても価格的に見るべきところはあまりない。

 いずれにせよ、これら多様化する販売手法の裏側にあるのは、販売店からの反発を回避しつつ売上ノルマを達成しなければいけないという、メーカー直販サイト担当者のジレンマであることは間違いない。

安く買いたければメルマガ登録は必須

 これらを踏まえ、消費者がメーカー直販サイトを利用して欲しいモノを安く手に入れるようにするためには、どうすればよいだろうか。

 1つは、メーカー直販サイトのメールマガジンには必ず登録しておきたい。というのも、販売店に販売価格を逐一チェックされることなく短期間で大量の製品を売り抜くには、メールマガジンによるプッシュ型のセール告知が最適だからだ。現在、ほとんどのメーカー直販サイトが、メールマガジンによる告知を行っていると考えていい。検索エンジンに価格を拾われるようなスパンで、特価情報をのんびりと掲載しているメーカー直販サイトは存在しない。メールマガジンには確実に登録しておこう。

 同じ理由で、メーカー直販サイトのブログは、RSSリーダーに登録しておくことをお勧めする。ブログというメディアは過去の履歴が残ってしまうため、価格が入った特価品の告知には向かないが、「○月○日の18時からセールを開催します」といった告知に使われるケースは、今後増えてくると考えられるからだ。

 もうひとつ、ユーザー登録が可能な製品は極力行うこと。というのも、ユーザー登録リストを利用して、割引販売のアナウンスを行うメーカーが存在するからだ。販売店関係者も含めて誰でも登録できるメールマガジンと違い、購入実績のあるユーザーに対してのみ配信されるメールであれば、メーカー側も「お得な情報」を配信しやすい。すべてのメーカーもこうした手法を採っているわけではないが、ユーザー登録可能な製品が手元にあるなら、登録して損はないだろう。

 いずれにせよ、販売店を通さずにメーカーが直接アプローチできるルートを押さえるのが、「コツ」だと言えるのだ。

メーカー直販サイトは「がんじがらめ」

 かつては、PC周辺機器メーカーが大手のWebショッピングモールサイトに直営店を出店するのがひとつの流れだった。まずは大手モールを利用してWeb直販に関するノウハウを蓄積し、その後自社運営に切り替える、というわけだ。

 しかし、多くのメーカーは、貯まったノウハウを基に自社ドメインの中に直販サイトを立ち上げた後も、大手Webショッピングモール内のサイトは継続して運営していることが多い。なぜか。

 これは、大手Webショッピングモールの規約が大きく関係している。これらのショッピングモールでは、契約解除時にユーザー情報を持ち出せないようになっているので、モールを解約してしまうと運営中に蓄積されたユーザーの購入履歴はもちろん、メールマガジンの配送リストをまるごと失ってしまうことになる。そのため、どれだけシステム利用料やバックマージンがかかったとしても、過去からの顧客を手放さないために、維持費を払い続けざるを得ない状況になっているのだ。

 ちなみに、これらの大手Webショッピングモールでは、メーカーサイトへのリンクすら認められていない。訪問販売法に基づく表示のページを見ても、メーカーサイトへのリンクは一切貼られていない。中には、URLの記載はあるのにハイパーリンクが設定されていない例すらある。大手の集客力を、自社ドメイン内にある直営サイトに生かすことは一切できないのだ。

 結果的に、自社直販サイトと大手Webショッピングモールサイト内ショップの両方を持つメーカーは維持費に苦労し、自社直販サイトだけを運営しているメーカーは逆に集客に苦労するという、どちらにしても厳しい運営を強いられる。しかも、販売店を刺激することは避けなくてはならないという、まさに、がんじがらめの状態なのである。

 このことが、PC周辺機器メーカーの直販サイト=アウトレット中心の地味なスタイルの一因となっていることは否定できないだろう。結局、リアルな店舗であろうが直販サイトであろうが、集客力が何より優先されるという事実は変わらない。既存の販売店の顔色を見ながら、アウトレット品を中心に細々と販売を続けていくメーカー直販サイトのスタイルは、今後もしばらく変わることはなさそうだ。

後藤重治氏のプロフィール

大手PC周辺機器メーカーでマーケティングや販促・広報を担当したのちフリーに。現在は製品レビュー記事の執筆のほか、メーカーに対するコンサルティングを手掛ける。自身が買い物をする場合は、メーカー直販サイトよりも既存販売店のWebショップを利用するほうが多い。だってやっぱりポイントがつくし。


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