4つのGPUを連動させてパフォーマンスを向上させるNVIDIAのマルチGPU技術「Quad SLI」は2006年1月に行われた2006 International CESで発表され、3月にはQuad SLIを組み込んだPCが出荷されるなど、その市場投入は意外と順調に始まった。当初、対応する電源ユニットの問題などでOEM向け限定とされていたQuad SLI対応のグラフィックスカードも、GeForce 7900 GX2の登場でパーツが入手可能となりForceWare 91.45がQuad SLIをサポートしたことで、ようやく自作PCユーザーでもQuad SLIを使えるようになってきた。
しかし、製品とドライバの環境が整ったとはいえ、そう簡単には踏み切れない。いまQuad SLIを構築するならばGeForce 7950GX2を2枚用意するのが常套であるが、1枚あたりの実売価格が7万円台後半から8万円台、2枚あわせて16万円台となってしまう(ITmedia ShoppingでGeForce 7950GX2の価格を調べた結果はこちら)。これだけの購入コストをかけて得られるパフォーマンスはレビュー記事などでも紹介しているように、1024×768ドットや1600×1200ドットという標準的な解像度において、Quad SLIとGeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI構成には劇的な差がでていない。
NVIDIAは、Quad SLIの真価は1600×1200ドットという「低解像度」ではなく、より高解像度でフィルタリングを十分にかけた重い負荷条件で発揮されると説明している。NVIDIAがマルチGPU技術の必要性を語るときによく登場するのが「X-HD」(エクストリームハイディフィニション)ゲームというキーワードだ。AVの世界ではフルHDに対応できる「1920×1200ドット」という解像度が大画面液晶ディスプレイに求められるスペックの指標とされているが、X-HDゲームの環境ではそれよりもさらに高解像度となる「2560×1600ドット」がサポートされる。現時点におけるこの解像度をサポートする液晶ディスプレイの数と価格を考えると、2560×1600ドットでPCゲームをプレイするというのはまだまだ一般的でない。しかし、その一方で、PCゲームには2560×1600ドットをサポートするタイトルが着実に増えてきている。これまでも高解像度による画面描画の美しさをゲーム機タイトルに対する差別化としてきたPCゲームは、次世代ゲーム機が「ハイデフ」なグラフィックスでゲームプレイが可能になることで、さらなる解像度が求められるようになるだろう。そうなると、近い将来に2560×1600ドットを想定したゲームタイトルが主流になるというのはあながち「妄想」ともいえない。
そういう超高解像度におけるゲーム環境においてQuad SLIは「GPU4つ分」のメリットをユーザーにもたらしてくれるのだろうか。今回は「ちょっと先のゲーム環境」でQuad SLIがどれだけパフォーマンスを向上させてくれるのかを、ゲームベンチを中心に見ていきたい。
Quad SLIの構築には、GeForce 7950 GX2を搭載したリファレンスカードを2枚使用した。最初に登場したQuad SLI対応のGeForce 7900 GX2搭載リファレンスカードよりサイズが短くなり、シングルGPU搭載のGeForce 7900 GTXのリファレンスカードとほぼ同じサイズになっている。GeForce 7900 GX2で2つ必要だった4ピンのPCI Express外部電源は1つに減り、Quad SLI構築で2個必要だったNVIDIA SLI用のブリッジコネクタも1つになるなど、その取り回しは自作PCユーザーの一般的な環境とそう違わない。
コアクロック500MHzにメモリクロック600MHz(転送レートして1.2Gbps相当)と動作クロックはGeForce 7900 GX2と同じ、そしてGeForce 7900 GTXより遅く設定されている。GeForce 7900 GX2と同様の1つのGPUを搭載した基板を2枚重ねる構造を採用しているので、グラフィックスカード全体でGPUを2つ載せていることになる。1つのGPUに実装されるPixelShader、VertexShaderのユニット数はそれぞれ8個に24本とGeForce 7900 GTXと同じになる。
GeForce 7950 GX2 | GeForce 7900 GX2 | GeForce 7900 GTX | GeForce 7800 GTX 512 | RADEON X1950XTX | RADEON X1900XTX | |
コアクロック | 500MHz | 500MHz | 650MHz | 550MHz | 650MHz | 650MHz |
メモリデータレート | 1.20Gbps | 1.20Gbps | 1.60Gbps | 1.70Gbps | 2Gbps | 1.55Gbps |
VertexShader | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 |
Pixcel Shader | 24 | 24 | 24 | 24 | 48 | 48 |
メモリバス幅 | 256ビット |
比較データとしては、GeForce 7900 GTXのリファレンスカードを用意した。GeForce 7950 GX2のQuad SLI構成と単体構成(それでも双発GPUになる)、GeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI構成と単体構成におけるそれぞれのベンチマーク結果を比べることでQuad SLIのパフォーマンスと効率を検証してみたい。評価システムの構成は、CPUにCore2 Extreme X6800(動作クロック2.93GHz、L2キャッシュ4Mバイト)を基幹に構築している。マザーボードはnForce 4 SLI Intel Editonを搭載したASUSの「P5ND2-SLI」を使い、メインメモリもPC2-5300 DDR2 SDRAMを1Gバイトを2チャネル実装している。ForceWareは先ほども説明したようにQuad SLI対応の91.45を適用した。
ベンチマークシステム環境 | |
CPU | Core2 Extreme X6800(2.93GHz) |
マザーボード | ASUS P5ND2-SLI |
メモリ | PC2-5300/1GB×2ch |
HDD | ST3160023AS |
OS | Windows XP Professional +SP2 |
ベンチマークに使用したゲームタイトルは、「DOOM 3」「FarCry」「Quake 4」「F.E.A.R」の4つ。「DOOM 3」「Quake 4」はコンソールから、FarCryとF.E.A.Rはゲームのオプションで解像度の設定を行い、アンチエリアシングと異方性フィルタリングの設定はすべてのゲームタイトルでForceWareのプロパティから行っている。通常のグラフィックスカードレビューでは低解像度「1024×768ドット」と高解像度「1600×1200ドット」のそれぞれに「アンチエイリアシングなし」「異方性フィルタリングなし」の軽負荷状態と「4×アンチエイリアシング」「異方性フィルタリング=8」の重負荷状態で測定を行っていたが、X-HDゲーム環境の測定では解像度を「1920×1200ドット」「2560×1600ドット」に引き上げ、それぞれのパターンで「4Xアンチエイリアシング」「異方性フィルタリング=8」の軽負荷状態と「8Xアンチエイリアシング」「異方性フィルタリング=16」の重負荷状態で測定を行った。
1024×768ドット、もしくは1600×1200ドットという、NVIDIAがいうところの「低解像度」環境ではGeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI環境に歯が立たなかったQuad SLIであるが、X-HDゲーム環境といわれる「1920×1200ドット」「2560×1600ドット」という多くのユーザーにとって未知の領域といえる超高解像度において、GeForce 7950 GX2によるQuad SLIは完全にGeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI構成のパフォーマンスを凌駕している。ベンチマーク結果の「絶対値」を見るならば、Quad SLIは「購入コストに見合った性能を発揮している」と評価していい。負荷が重くなることで発生するパフォーマンス低下の傾向はゲームタイトルで変化するが、2例(DOOM3における最重負荷条件とFarCryにおける最軽負荷条件)を除けばパフォーマンスの序列は「GeForce 7950 GX2のQuad SLI」「GeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI」「GeForce 7950 GX2の単体構成」「GeForce 7900 GTXの単体構成」と一定だ。
ベンチマークの結果とともに、単体構成の結果「100」とした場合のNVIDIA SLI構成、Quad SLI構成におけるベンチマーク結果の相対値も並べてみるとFarCryの最重負荷条件以外でGeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI構成の効率が優れていることが分かる。GPUを4つ使うQuad SLIのベンチマーク結果がGPUを2つ使うNVIDIA SLIの結果の2倍に遠く及ばないことと、ベンチマーク結果の値でNVIDIA SLI構成のGeForce 7900 GTXが単体構成(でもGPUは2つ)のGeForce 7950 GX2を常に上回っていることをあわせて考えると「単体GPUのパフォーマンスが劇的に向上した場合、Quad SLIがNVIDIA SLIに凌駕される可能性なきにしもあらず」ということがいえなくもない。
X-HDゲーム環境においてその実力を示してくれたQuad SLIだが、先ほど述べたようにこれは一般的なゲームユーザーが利用できる状況とはいいがたい。Quad SLIは、ごく一部のゲームユーザーのためだけの技術なのだろうか。もしくは、現在においては将来(それもGPUという非常に見通しの悪い)のための投資という意味だけに価値を見出せるのだろか。
超高解像度の測定において、フィルタリングの条件を重くすると結果がはっきりと低下する傾向がすべてのゲームベンチで確認された。ならば、低解像度においてもフィルタリングの条件を重くすれば、Quad SLIの効果が現れるのではないだろうか。この仮定のもとに「1024×768ドット」「1600×1200ドット」のそれぞれで先の行ったゲームベンチのフィルタリング条件で測定した結果が以下のグラフである。
これまでも一連のグラフィックスカードレビューで紹介してきたDOOM 3とFarCryでは、軽負荷条件でQuad SLIの優位性は認められない。その傾向はFarCryで顕著であり、最軽負荷条件では単体構成のGeForce 7900 GTXの結果が最も優れている。しかし、「8Xアンチエイリアシング、異方性フィルタリング=16」という条件ではQuad SLI構成の結果がほかを上回る。NVIDIA SLI構成とQuad SLI構成の差はX-HDゲーム環境のときより縮まっているが、絶対性能としてははっきりとした差がでている。
絶対性能という視点において、超高解像度、または重負荷条件でQuad SLI構成の導入は明らかに効果を発揮すると考えていい。それぞれの実売価格の差が1万円台後半であることを考えるとQuad SLI導入で3万円の差額となるが、その追加コストに見合った性能は発揮してくれることを今回測定したゲームベンチの結果は示している。NVIDIA製GPUでは「G80」と呼ばれる次期主力GPUの登場が控えているが、漏れ伝わってくるスペックとアーキテクチャが一新されるという予想が的中した場合、その普及にどれだけ時間がかかるかは不透明だ。
いまのところ、Quad SLIの導入については懐疑的な意見も多く聞かれるが、GeForce 7950 GX2によってカードサイズが小さくなって4ピン外部電源が1枚あたり1つになったことやForceWare 91.45によるQuad SLIのサポートなど、ゲームユーザーには十分現実的で意味のある状況になってきたのではないだろうか。
最後に「GeForce 7950 GX2のQuad SLI構成」「GeForce 7950 GX2の単体構成」「GeForce 7900 GTXのNVIDIA SLI構成」「GeForce 7900 GTXの単体構成」それぞれを組み込んだ評価システムの消費電力をワットチェッカーで測定した値を並べてみた。Core2 Extreme X6800とGeForce 7950 GX2 Quad SLI構成の組み合わせで400ワットを超えること以上に、NVIDIA SLI構成のGeForce 7900 GTXを組み込んだときと単体構成のGeForce 7950 GX2を組み込んだときのそれぞれの消費電力を比較した値に注目したい。それぞれの低解像度条件におけるベンチマーク結果の差を見ると、そのパフォーマンス以上に消費電力を削減できることになる。消費電力、ひいては騒音対策を重視するゲームユーザーにも、単体構成のGeForce 7950 GX2は一考の価値があるのではないだろうか。
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