「雲」から降りてきたAIは「パーソナル」な存在になれるのか――開催から1カ月経過した「CES 2026」を振り返る:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2026年02月12日 17時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 1月初旬に米ネバダ州ラスベガスで開催された「CES 2026」を歩いてきた。そこで実感したのは、生成AIが「クラウドの向こう側にある機能」から「手元の製品が持つ前提」へと、明確に移りつつあることだ。PCやスマートフォンだけでなく、家電やロボットまで、AIは「どこで動くか」よりも「誰のために働くか」を問われ始めた。

 象徴的だったのは、PCの新製品発表はもちろん、ロボティクスに関する展示でも「ローカル(オンデバイス)で動くこと」「ユーザーの“文脈”を扱うこと」が同じ熱量で語られていた点だ。生成AIがサービスではなく、前提になり始めた、という肌感はここにある。

 ただし、AIに関して明確な“勝ち筋”はまだ見えない。巨大テック企業でさえ、パーソナルAIをどの単位で成立させ、どこまで任せるべきかの設計図を描き切れていないからだ。

 本稿では、CES 2026をレンズとして、クラウドから降りてきたAIのパーソナル化が「パーソナルコンピュータ」という概念をどう変え、デジタルライフの境界を物理世界へどう押し広げようとしているのかを整理してみたい。

CESロゴ CES 2026は、生成AIの“転換点”を見せたようにも思える

デバイスの枠を超える「パーソナルAI」は完成できるのか?

 「AI PC」というカテゴリ自体は、いまや珍しくない。Microsoftが提唱する「Copilot+ PC」を筆頭に、WindowsとAIサービスの統合は急ピッチで進み、各社はNPUを強化した新世代のCPU/SoC(Core Ultraプロセッサ、Ryzen AIプロセッサ、Snapdragon X2シリーズなど)を前提に、「オンデバイスAIをどう自社PCに組み込むか?」というポイントを差異化の軸に据え始めた。ただし多くの場合、それは「プラットフォーマー(≒Microsoft)が舞台を用意して、PCメーカーがそれに乗っかる」という形にとどまっていた。

 一方で、パーソナルコンピューティングの中心にAIが据えられる時代を見据えて、PCメーカー自身が独自のコンセプトと技術で踏み込み始める兆しもある。その筆頭として注目したいのが、Lenovoの「パーソナルAI」というビジョンだ。

 Lenovoが披露したパーソナルAIエージェント「Lenovo Qira(キラ)」は、Appleが「パーソナルコンテキストAI」として次世代Siriと結び付けようとしている方向性と近い。個人の情報(背景/状況/意図)を学習し、メールの下書きやスケジュール整理などを先回りして支援する――デモは、まさに「ユーザーと同じ認識を共有するAI」、言い換えれば「パーソナルAIツイン」の入口を示していた。

 しかし、この種のAIがノートPCに閉じている限り、価値は限定的となる。デジタルライフスタイルは、PCだけで完結しない。メールや予定表だけでなく、メッセージング、写真、決済、仕事のツール、個人の連絡と雑多な通知など、情報は複数のデバイスとアプリに分散している。

 パーソナルAIが本当に“パーソナル”になるには、ユーザーが所有するあらゆるデバイス間で、同じ文脈をシームレスに持ち運べなければならない。

Lenovo LenovoがCES 2026に併せて開催した「Lenovo Tech World 2026」の基調講演では、NVIDIAとAMDのトップも登壇した

 このことは、AppleがAIで「エコシステム」に賭ける理由でもある。デバイス間が相互接続された環境でこそ、個人情報を安全に扱いながら文脈を統合できるからだ。クラウド中心の情報スイートだけでは、現実の生活で蓄積された情報を実質的に網羅することが困難となる。

 例えば仕事の文脈(文章/スプレッドシート/プレゼンテーションなど)が「Google Workspace」に集約されていても、連絡の主戦場が「LINE」のような“別系統”にあるだけで、AIがすくい上げられない「意図」や「合意」が残る。

 Lenovoがこの難題に挑むのは、QiraをPCだけでなく子会社のMotorola Mobilityのスマートフォンを含めて、デバイスのカテゴリーをまたぐオンデバイスAIとして位置付けたからだろう。

 「OSベンダー以外がここに取り組むべきか?」と聞かれたら、答えは“イエス”だ。ただし、PC単体を「賢くする」だけではパーソナルAIの本丸には届かない。

 問題は、Qiraがどこまで実体的な価値を出せるかだ。あのAppleでさえ開発が遅れ、完成形が明確ではないジャンルである。とはいえ、目指す方向はセットされた。Lenovoが「パーソナルAIツイン」を、デバイスの枠を超えて成立させられるのか――これからが答え合わせになる。

Lenovo Qira Lenovoが子会社のMotorola Mobilityと共に展開するAIエージェント「Qira」
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