「雲」から降りてきたAIは「パーソナル」な存在になれるのか――開催から1カ月経過した「CES 2026」を振り返る:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2026年02月12日 17時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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AIが「物理的な身体」を持つとき

 Lenovo Qiraのように「ユーザーの文脈を持つエージェント」が成立するなら、その次に問われるのは「その“知性”が画面の外で何をするのか?」という点だ。

 CES 2026において一番未来的で、かつ筆者の興奮を誘ったのは、「フィジカルAI」の具体化である。ここ数年は画面の中にしか存在しなかった生成AIが、ついに手足を得て、現実世界で行動する能力を獲得し始めた。

 AIが情報を引き出したり、電子的な成果物を生み出すだけでなく、物理的なタスクを実行することを目指し始めた――その入口として、会場ではいくつかの方向性が提示された。

ヒューマノイドの“労働者”

 韓国Hyundai Motor(現代自動車)傘下の米Boston Dynamicsは、完全電動化された新型ヒューマノイド「Atlas」を公開した。既にHyundai Motorの工場内で稼働し始めており、2028年までに年間3万体の量産体制を整えるという。自動車部品との共通化も進め、未来の工場における中核的な労働力として位置付け、他社への販売も進めつつあるという。

  • →Atlas(Boston Dynamics)
Atlas Boston Dynamicsのヒューマノイド「Atlas」

ロボットの“民主化”と家事からの解放

 日本でも発売済みの中国Unitree Robotics(宇樹科技)のヒューマノイド「G1」は米国における販売価格は1万3500ドル(約206万円)程度で、類似製品も多数ある。現時点では実用性に疑問が残るものが多いが、数年後には「用途限定の実用機」が現れる可能性はある。

 韓国LG Electronicsが発表した「LG CLOiD」は、AIが家庭内に入り込み、日々の雑事を物理的に支援するパートナーとなるロボットのコンセプトだ。家電と連動し、洗濯や簡単な調理、衣服の準備まで担うことを狙う。

LG CLOiD LG Electronicsのコンセプトロボット「LG CLOiD」

 Atlasを除くと、ヒューマノイド(ロボット)の多くは、まだ「製品」と呼べる段階に達していない。しかし重要なのは、PCやスマホでユーザーの文脈を理解したAIが、将来的にはロボットという「身体」にログインし、デジタルの外側で家事や作業を代行する未来が描かれ始めたことだ。

 CES 2026でのロボティクス展示は、今後10年間のテクノロジーの進むべき道を描き出しているのか、それとも単なる「見せ物」なのか。――恐らく、その両方というのが率直な感想だ。

 1つの方向として、ヒューマノイド以外の生成AI応用ロボットが、自律性の高いタスクをこなす製品として出てくる可能性がある。もう1つの軸としては、人との協調性を重視したヒューマノイドの研究が進むはずだ。そして、米国や中国の国家的背景を考えれば、自律型ロボットの軍事転用(いわゆる「デュアルユース」)を視野に入れた研究開発が併走するのも、現実的な見立てだろう。

再定義される「パーソナルコンピューティング」の意味

 CES 2026では、AIが単なるネットワーク上のサービスから、私たちのライフスタイルに直接関わる基幹技術へと変わりつつあることを痛感した。

 その中で「PC」は、パーソナルAI環境における中心的なハブとして再定義されようとしている。MicrosoftやLenovoのように「本籍」がスマートフォンではなくPCにある企業にとって、PCが中心になることが望ましいのは理解できる。

 しかし同時に、「パーソナルコンピューティング」という概念をPCという箱だけに矮小(わいしょう)化できないことも、この20年で証明されてきた。スマートフォン、自動車、ウェアラブル、そして家電やロボットへと広がった「個人の情報源」全てが、AIを組み込む対象になりつつある。

 扱うもの全てがパーソナルな情報源である以上、統一されたAIエージェントとPCの関係はどうなるのか。恐らく、もはや単一の固定された中心ハブが存在するとは限らない。“私”という文脈(コンテクスト)の中心は、状況に応じてPCからスマホへ、そしてロボットへと流動的に移動していくことになるだろう。

 Lenovo Qiraが「パーソナルAIツイン」として成熟し、デジタル空間のタスクをこなし、物理空間で働き、私たちの意図を先読みして行動するようになったなら、それは単なるツールの延長ではなくなるだろう。

 人間とコンピュータ、そしてテクノロジーの関係性そのものを、設計思想ごと更新する存在になり得るが、そう簡単に次世代のプラットフォームが生まれるとも思えない。必要なのは背景情報だ。

 それが必須の要素だからこそ、この次に問われるのは「性能」ではなく、「パーソナルのコンテクストを安心して預けられるかどうか?」になっていく。

 最初に信頼を得られるのは、誰になるだろうか……?

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