北京と上海の科学館で中華ロボットに会う山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)

» 2006年10月11日 11時11分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
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中国で実用化済みのリニアモーターカー

 中国ではリニアモーターカーが上海の上海浦東国際空港と上海市の中心の近くの間で営業運転を行っている。「中国の高速鉄道」というとリニアモーターカーを想像する中国人も少なくない。

 上海のリニアモーターカーはドイツのシーメンスと中国の共同で研究施工を行っており、中国も独自のリニアモーターカーの研究を以前から行っている。そんな中国独自開発のリニアモーターカーが、中国科技館の入口近くでゆっくりとした速度で無人往復運転を行っている。人が乗れるほどの大きさではないので乗車体験はできない。

 上海万博開業にあわせて、上海と上海のお隣の淅江省の省都杭州市間175kmを時速450kmで走行し20分で結ぶリニアモーターカーが2010年に開業する予定になっている。こちらもドイツ企業が絡むそうだが、中国メディアによると、ドイツは中国に技術を吸い取られるのを危惧しているため、両国の交渉は難航しているようだ。

見た目のインパクトは十分な指揮者ロボット

 中国科技館の入口では指揮者ロボットと演奏ロボットからなるロボットオーケストラが来場者を歓迎してくれる。その指揮者ロボットの風貌を例えるなら銀色のスターウォーズの3PO。ちょっとレトロなところでは「変身サイボーグ1号」「ミクロマン」をほうふつさせる。体全体を見ると、肩や腕を動かし指揮棒を動かすほか、頭部では頭を回したり傾けたり、眼球が動いてまばたきをしたり、口が動いたりと上半身は様々な部位が動いている。体が透明なため、後ろからは頭部の各駆動部のモーターのケーブル束が首や背中を通して電源に繋がっているのが観察できる。

 定期的に行われるパフォーマンスでは、最初に指揮者が周囲を見渡しつつ中国語の金属音のいかにもロボットな音声にあわせて口を開閉させる。その後指揮棒を振るう。ただし、音声に口があっているか、指揮は正しいのかと言われれば微妙ではある。オーケストラには、バイオリンやピアノから中国琴まで演奏者がいるものの、実際音を鳴らしているわけではなく、音が鳴ると動くおもちゃの花のように、音にあわせてそのロボットがうねる動きをするだけだ。

リニアモーターカーが自動徐行運転
ロボットオーケストラの指揮ロボットの雄姿

中国とロボット

 北京でも上海でも科学博物館で「ひょっとしてあれ?」の先行者に出会えなかった。「中国が誇る二足歩行ロボットじゃないの?」という疑問とともに、中国とロボットについて触れておこう。

 現在、中国で開発されている実用的なロボットは産業用に集中している。ただ実際のところ現場で活躍する工業用ロボットは中国も例外なく大半を日本を中心に海外から輸入しており、中華産業ロボットの活躍は少ないようだ。

 中国独自の産業ロボットの研究開発は1972年より始まり、1986年に中国政府の「863計画」と呼ばれるハイテク計画にロボットの項目が加わり、この年より工業用ロボットの研究開発が国家規模で重視された。中国企業が工業用ロボットを作るのは、中国のハイテク化や中国市場に向けた低価格機の提供だけが理由でないようだ。「(日本を含む)海外企業の工業用ロボットは操作が難しく、中国においては現場で働く労働者には操作できず、労働者にフィットしないという問題がある。そのため、操作を中国の労働者でもできるようにローカライズした中国のための工業用ロボットが中国企業により作られる必要がある」と、ある中国メディアで中国のロボット専門家は語っている。

 一方でASIMOやQRIOのような人型の2足歩行ロボットは中国で作られたかというと、先行者が登場した6年後の今にいたってもまだない。ただ人型ロボットがすべて先行者に似たり寄ったりかというとそうでもないようだ。ときどき中国国内で「ロボット誕生!」のニュースがあるが、その画像を見るかぎり「結構動くかも?」と想像するようなものも出ている。ちなみに先ほど単語を紹介した中国政府の「863計画」の最新版では、劣悪な環境の中でも活動できる、五感センサーと人工知能を搭載したインテリジェンスなロボットの研究開発を公表している。

 9月17日から中国上海で行われたCebit Asiaで北京の中関村にある北京漢庫科技有限責任公司(HANGOOD)が国産ロボットを展示した。展示されたロボット群(1種類だけではないのだ)はWebサイトで見ることができる。これらのロボットは中国全土で近く販売予定とのことだ。

 ところで先行者の発表に中国のロボット愛好家たちはどのように反応したのだろうか。中国にはロボット愛好者のWebサイトが多数ある。そこでは、中国産の新作ロボットの話題はもちろんのこと、日本のASIMOやQRIOやAIBOなど比較的著名なものから、日本のニュースをマメにチェックしないと知ることのできないマイナーな日本製ロボット、LEGOのMINDSTORMSやRobocupなど世界中のロボットやロボットにまつわるニュースを細かく中国語で紹介している。

 それらのサイトで先行者も当然紹介されている。「先行者によって中国のロボット技術は最先端の日本に追いついた!」と書かれた先行者の記事は写真の有無でコメントが大きく分かれている。写真がないトピックでは「中国はよくがんばった!もっとがんばれ!」というロボット好きネットユーザーのコメントがあるが、写真を掲載したトピックでは「道化か?」というほど酷評だ。

 むしろ中国メディアの先行者の紹介よりもロボット好きネットユーザーが食いついたのは日本における先行者評であった。これも同様にコメントがいくつかついている。その反応はおおかた似たようなもので、日本語が読めない人でも、「どうやら先行者がバカにされているらしい」ということに気づいており、それに対しては「先行者がそれ相応の風格をしているため致し方ない、中国がんばれ!」というコメントがついていた。コメントの中には「あれ(先行者)、うちの研究室に転がっているよ、電源はドイツ製のものだった」という意味深なものも確認されている。

 ともかく先行者は日本では一部に先行者はよく知られているところだが、残念ながらあれは、科学博物館に紹介されないどころか、中国ロボット愛好者の中でも不評だったようだ。あのときの先行者ブームは、どうも中国の思惑とは別のところで、日本側で派手に騒いでいたといえるだろう。

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