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» 2006年11月28日 08時00分 公開

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:中国IT系ニュースWebサイト事情

中国のIT系ニュースWebサイトはとにかくすごい。なぜにそんなに人気があるのか? 掲載されるコンテンツや編集部の内情を紹介しよう。

[山谷剛史,ITmedia]

IT系ニュースサイトが大人気のわけは?

 中国のITニュースを紹介するWebサイトは数多くありいままさに戦国時代だ。ITmediaのようにITを専門に報道するニュースサイトも数多いが、中国の著名ポータルサイトも1つのコンテンツとしてITニュースを必ず設けている。ポータルの一部門、といえどそのコンテンツは量質ともにIT専門サイトと比較して遜色ない。

 中国のIT系ニュースWebサイトはどれだけの人に見られているだろうか? 全世界のウェブサイト情報や利用状況を調査するAlexa Internetによると、世界のトップ500のサイトの中に、中国本土のIT系ニュースWebサイトは、太平洋電脳網(131位:2006年11月現在。以下も同様)を筆頭に、中関村在線(171位)、IT世界(266位)PCPOP(297位)、eNet硬件資訊(294位)、IT168(298位)と6つもランクインしている。ちなみに台湾ではPCHOME(59位)が、日本のIT系ニュースWebサイトではインプレス(478位)がランクインしている。

 国連貿易開発会議(UNCTAD)の世界のインターネットユーザー数についての発表によると、中国1億1100万人、日本8530万人と両国のインターネット人口で大差があるわけではないが、2005年7月の中国ネットワークインフォーメーションセンター(CNNIC)の発表によると、中国の全ネットユーザーの51.2%が普段よくPC関連の情報を見ているという。なぜ中国でIT系のニュースが多くの人に読まれるかを考えるに、中国では男女問わずPCを自作することが盛んであるのは理由の1つとして上げられる。

 ちなみに日本では、特集などの企画物が中心の紙メディアPC系雑誌にニュース中心のWebメディアと、両者の切り分けが進んでいるが、中国においては、紙のメディアもWebメディアも同じ方向性で構成されていて、日本ほどはっきりとした差別化はされていない。

 中国のITニュース系Webサイトに掲載されているコンテンツは、メーカー製PCの発表会や中国内外の展示会などのイベントリポートにIT企業のゴタゴタやITが絡む事件を紹介するニュース(中国語で“新聞”という)、発売済み製品のベンチマークや使用リポートを紹介する製品レビュー(同じくこちらは“評側”という)、携帯電話やPC、デジカメ、各パーツなどの読者人気投票や実際の売れ行きを紹介するランキング(これは“調研”)、中国各地での販売済み製品の価格相場を紹介する価格リポート(こちらはなんと“行情”)が柱。各記事には読者感想欄があり、読み手が書き込んだり、書き込まれた意見を読むことができる。このところが中国における紙のメディアとWEBのメディアの数少ない違いの1つではある。これ以外に、IT系の求職活動支援、フリーウェアのダウンロードサービス、ブログサービス、オンラインショッピングなどの付加サービスで乱立気味にあるITニュース系Webサイトとしての差別化を図っている。

 特筆すべきは「行情」こと価格リポートだ。100万都市が中国全土に分散しているため北京、上海、広州(または深セン)、重慶(または成都)のほか、中国主要数都市における製品価格の相場が掲載されている。ITmediaで例えれば、「週末アキバPickUP」「週末ポンバシPickUP」「週末オオスPickUP」が掲載されているようなものだ。札幌や福岡はもちろん、仙台や広島といった「政令指定都市」まで同じ製品の価格リポートがあると考えるといいだろう。これは、前で具体名を挙げたサイトの運営会社の多くが本社のほかに事業部を主要都市に抱えていることにある。中国は日本ほど物と人と金が1つの都市に集中していないというのも一因だろうが、筆者としては「日本のメディアも願わくばぜひ参考にして欲しい」と思ってやまない。

 その一方で、日本のメディアによくあるIntel、AMD、NVIDIA、ATIなどの最新ロードマップの紹介は紙媒体もWeb媒体もほとんどない。また日本のニュースWebサイトのようにメーカー各社発表のプレスリリースを取り上げることも少ない。中国では多くのニュースWebサイトが独自で記事を取材して執筆する(これは“原創”と呼ばれる)か、ほかのニュースWebサイトから引用元を明記した上で引用している(お互いのサイトに協力関係のあるなしに関係ないところが中国らしい)。ちなみに、引用元を明記するのは、今年7月1日より施行された「信息网絡伝播権保護条例」という「引用するなら引用元を明記すべし」という内容が盛り込まれた条例で決められているためだ。とはいえ、他媒体が作成したニュースに依存しているニュースWebサイトが、規模を問わずいまだ存在するのが実情ではあるが。

中国のニュースWebサイトの編集部に行ってきた

PCPOPのオフィス。スタッフ1人1人に仕切られたブースが用意されている

 筆者は、先のAlexa Internetでトップ500入りしたPCPOPで、日本の庶民的IT事情の連載を2006年から開始した。ITmediaの連載が「ITは知っているがアジアを知らない日本人のためのアジアIT事情」だとすれば、PCPOPの連載はその対極、つまり「ITは知っているが日本を知らない中国人のための日本IT事情」が趣旨になっている。連載の打ち合わせで中国のアキバこと北京の中関村にあるPCPOPの本社オフィスにいっているが、そのときにIT系ニュースWebサイト事情についていろいろ聞いてきた。対応してくれたのはこの記事の取材を行ったときに編集長であった張立氏だ(現在、編集長は張立氏から陳明輝氏に変わった)。

──PCPOPの設立からこれまでの経過は?

張立氏 PCPOPは2000年にサービスを開始しました。PCPOPにおける収益源は広告のみですが、それでもうまくいっております。現在は30の頻道(ITmediaでいう、PC USER、Mobileなどの各チャンネル)があり、2万5000の製品紹介ページがあります。現在のアクセス数は1日あたり1998万です。その半数が北京、上海、広東省の3つの地域からになります。現在スタッフは北京本社に155人、上海の支社に5人います。また、河北省の石家庄の支社は約20人います。

 2000年にサービスを開始したといいましたが、ほかの著名サイトもこの前後に立ち上がっています。PCPOPの前身は個人のWebページで、それが発展したものなのです。これ以前は、中国におけるインターネットインフラ自体が整備されていなかったので、IT系メディアというと雑誌や新聞など紙媒体だけで、インターネットに流れる情報は個人が発信するものしかありませんでした。

──どのような記事が好評ですか?

張立氏 製品レビューが一番人気です。その中でも携帯電話、ノートPC、デジカメは多くの人が興味を持っています。

──サイトを見ると、低価格機種から高価格機種まで幅広い機種の製品レビューがあります。最近中国で発売されたソニーのBue-ray ドライブ搭載ノートPCをはじめとして、一般的な中国人の感覚からするとかなり価格の高い製品も取り上げていますが、そのようなレビューも好評なのですか?

張立氏 実は好評なのです。買うことができない夢の製品のレビューに多くの人が関心を持つのです。逆に低価格な製品のレビューも好評ですが、その中間の価格帯にある製品を取り上げてもそれほど人気がありません。

──ほかに人気の記事はありますか?

張立氏 オーバークロックなど改造を取り上げる記事はとても人気があります。

──企業からのプレスリリースを使った記事と、そうでない記事ではどちらが多いですか?

張立氏 プレスリリースの起こし記事はなく、ほとんどは編集スタッフがイチから書く取材記事ですね。

──IT系に限らず、中国のニュースWebサイトは、必ずといっていいほど、一見関係のないほかのニュースWebサイトと提携を結んでいるようですが、なぜですか?

張立氏 記事の転載ができるといったコンテンツ的な理由以外に、自身のサイトを広告してもらうのに必要なのです。

──PCPOPは最近車系ニュースWebサイトを立ち上げました。IT系ニュースWebサイトによる車系ニュースWebサイトはPCPOPだけでなく、いくつかのIT系著名サイトも始めているようです。このように多くの車系ニュースWebサイトを新たに立ち上げるのはなぜですか?

張立氏 われわれのCEOである李想によると、車とITには共通する部分がたくさんあるとのことです

──最近ソニーやシャープなど日本企業が、中国を含む各国のメディアを日本本社や日本の工場に招待しております。PCPOPもソニー本社訪問記を記事にしておりますが、招待を受けてどう思いましたか?

張立氏 PCPOPの実力を認めていただけたということでしょう。今後こういった機会がどんどん増えていくだろうと思います。

──そのソニー訪問記事に付帯するコメントですが、その一部に「この書き込みは編集者によって削除されました」という表記がありました。この削除はどういう判断で行っているのですか?

張立氏 政治関連、わいせつな書き込み、それに他人を侮辱するような書き込みは削除しております。

PCPOPの現編集長の陳明輝(Minghui Chen)氏。編集長は変わったがPCPOPの内容や基本方針は張立氏路線を継承している
筆者の担当編集でノートPCチャンネルの王■(■は王へんに玉。Johnny Wang)氏だ。王氏は日本語が話せる

 インタビュー前、当時の編集長である張立氏は日本のITについてのいろいろな質問を筆者にした。また日本語ができる筆者の担当編集の王ジョウ(ジョウは王へんに玉)氏や同じく日本語が分かるスタッフの全澤強氏も日本のIT事情について会うたびに質問をしてくる。彼らは非常に日本に対して好意的であり好奇心旺盛であり、そして記事においては中立的だ。

 PCPOPに掲載される筆者の記事にもコメント欄に書き込みがある。日本人が書いた記事だけにその数は多いそうだ。日本人が書く日本のIT事情だからこそ興味があるのだと張立氏や王ジョウ氏は分析する。書き込みの大半は無意味な日本たたきや筆者たたき、それに無意味な中国人の貧しさを嘆くコメントではあるものの、無意味な意見をたしなめ、真面目に質問と回答をする読者も少ないながらいる。夜に書き込まれそのまま放置され、翌朝消されるコメントは正直よく確認しているが、だいたいが筆者たたきや日本たたきが削除の対象であった。

 張立氏は「日本の読者にもPCPOPを見て知ってもらいたい」という。幸いにも中国語は漢字でできているのでなんとなく日本人でも読める。しかもIT関係の固有名詞ばかりでここの読者にとっては読みやすいだろう。日本のIT系ニュースメディアと中国のIT系ニュースメディアはデザイン、コンテンツ、考え方がかなり違い見るだけで新鮮で面白いので、興味があれば好奇心をもってぜひ見ていただきたいと思う。

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