ナナオが報道関係者向けに液晶ディスプレイの技術セミナーを開催するのは今回が2回めだ。2007年2月28日に開催されたセミナーの第1回では、液晶ディスプレイの基本的な原理と特徴、そして同社の独自技術など、広範な解説がなされたが、セミナーの第2回は打って変わって、液晶ディスプレイの「色域」のみにフォーカスした内容となった。
同社が色域をセミナーのテーマに掲げた理由は、昨今の液晶ディスプレイ市場において「広色域」が1つのトレンドになっているものの、広色域の意義や表現方法、数値の意味が誤解されやすく、ユーザーの混乱を招きやすい状況になっているからだとしている。
セミナーは2部構成で実施され、第1部は同社マーケティング部 商品技術課 課長 森脇浩史氏が、液晶ディスプレイの色域に関する基礎知識を解説した。
現在、液晶ディスプレイのスペックを語る際に用いられる色域には、Adobe RGB、sRGB、NTSCの3つの規格がある。Adobe RGBはアドビシステムズが1998年に提唱したもので、sRGBに比べて緑の色域が広く、代表的なインクの色域を含むことから、印刷などへの適合度が高い。sRGBはIEC(国際電気標準会議)が1998年に定めた国際規格で、現状で最も一般的なディスプレイの色域だ。NTSCはアメリカの国家テレビ標準化委員会が制定したアナログTV方式の色域で、Adobe RGBに近いものの、青と赤の色座標が多少異なる。
このうち、デジタルカメラで撮影した画像の表示や編集など、静止画を液晶ディスプレイで扱う場合に重要な指標となるのはAdobe RGBとsRGBの対応状況だ。NTSCはAdobe RGBに近い色域を持つが、そもそもアナログTV方式の色域なので、静止画を扱う液晶ディスプレイの色域を評価する規格としては意味をなさないという。
デジタルカメラで撮影する画像は当然、人間の目で判別できる色の範囲をすべて写せるわけではなく、Adobe RGBやsRGBの色域に色表現範囲を圧縮して写す。この際、どのように色を圧縮してキレイに加工するかは、カメラメーカー独自のノウハウがあり、カメラの個性を形成するポイントになっている。本来はより鮮やかな色の被写体だったとしても、色の圧縮範囲として設定したAdobe RGBやsRGBの色域を超える色域については表示対象外となり、液晶ディスプレイなどの出力デバイスがAdobe RGBを超える色域を持っていても正確に表現できない。
デジタルカメラは、撮影時に設定された色域(Adobe RGB、sRGB)を十分活用し、最適な色圧縮、色加工を行う。その際、選択した色域の情報はカラープロファイルとして画像ファイルに埋め込まれる。カラーイメージング機器はこのカラープロファイルを読み込むことで、画像がAdobe RGBの色域なのか、sRGBの色域なのかを判断することが可能だ。
液晶ディスプレイと印刷物の色を比較する場合にも、カバーする色域の違いに注意する必要がある。液晶ディスプレイと印刷物の色を合わせようとしても、「ディスプレイでは表示されるが、印刷物では表示されない部分」と「印刷物では表示されるが、ディスプレイでは表示されない部分」があり、厳密に色は一致しないからだ。
そのために重要なのが、アドビシステムズのPhotoshopなどカラーマネジメントに対応した画像処理ソフトウェアだ。これを利用すれば、入力された画像がAdobe RGBの色域なのか、それともsRGBの色域なのかを判別したうえで、ディスプレイ上で印刷結果の色域もシミュレーションして表示できる。デジタルカメラで撮影した画像(入力元)は、カラーマネジメントエンジンが持つ作業用領域に基づき、撮影された画像の色と出力画像(ディスプレイやプリンタなど)の色がなるべく合うように色変換が行われる仕組みだ。
「デジタルカメラの写真は、メーカーが意図した画像の加工状態のままで表示できて、初めてその画質が分かる。カラーマネジメントは、カメラで撮影した画像の入力と、液晶ディスプレイへの出力の橋渡しを行うものとして非常に重要」(森脇氏)。
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