HTCは、PDAや携帯電話向けのWindows Mobile端末を全世界規模で手がけている台湾のメーカーだ。日本でもソフトバンクモバイルのX01HT、X02HT、そして最新のX03HTをはじめとするスマートフォンのメーカーとして知られている。
そのHTCが、2008年の春に発表したノートPCがHTC Shiftだ。HTCが発表したノートPCということと、ちょうどIDF 上海でインテルがAtomプラットフォームの正式発表をしたのと時期的に重なっていたため、「ついにMIDの登場か」と思ったユーザーも少なからずいたようだが、重さ800グラム、PC側のCPUはA110(動作クロックは800MHz)というスペックから考えるとUMPCに近い性格を持ったノートPCといえる(ただし、HTC Nipponは「言葉がひとり歩きするのは困る」として、HTC ShiftはUMPCではないという考えを示している。HTC Shiftの価格が16万4800円であることを考えると、確かにUMPCというカテゴリーにいれるのは難しいかもしれない)。
HTC Shiftは、スレート形状から液晶ディスプレイをスライドさせるとキーボードが現れるだけでなく、スライドさせた液晶ディスプレイをチルトさせることで、クラムシェルタイプノートPCのように卓上で使いやすい形状に変化できる。液晶ディスプレイをスライドさせてキーボードを収納したり使えるようにしたりする方式は、W-ZERO3やVAIO type U(UXモデル)など、小型端末でキーボードを搭載したデバイスではおなじみの手法だ。
スライドさせた状態でよく採られるキータイピングが両手の親指を使う方法だが、キーボード幅が135ミリのAdvanced/W-ZERO3[es]や150.2ミリのVAIO type Uでは何とかなった親指タイピングも、207ミリのHTC Shiftでは困難に感じた。筆者も何度となく挑んだが、ホールドした手の位置を変えることなく親指だけですべてのキーをタイピングすることはできなかった。キーボードを利用したいなら、HTC Shiftを卓上において液晶ディスプレイをチルトさせた状態が基本形となる。
キーピッチは実測12.5ミリで、キーレイアウトはアルファベットや数字キーなど、入力でよく使うものに関しては均等ピッチとなっている。最下段に並ぶ「Ctrl」「Del」や矢印キーはやや狭く、実測9.5ミリ。なお、スペースキーは36ミリ、Shiftキーは左右同じで19ミリの幅が確保されている。
体重80キロに近い中年男性の指には、通常の「5本指タイピング」は不可能で、自然と「3本指」程度の変則タイピングとなってしまうが、1週間程度の評価期間で慣れたためか、文字入力のスピードは、最初の「ポチポチ」からだいぶスムーズになった(客観的な測定データがないので、主観的な感想にとどまってしまうのが申し訳ない)。
ただ、日本語入力では横に並んだ隣接するキーを同じ側の手でタイピングする機会が少なからずあるが(「Y」「U」「I」「O」「P」や、「A」「S」、「W」「E」「R」など)、そのときに、指が「擦れて」ストレスを感じた。例えば、このようなレビューや、まとまった1本の報告書など、長文原稿を仕事として抱えている場合、そのすべてをHTC Shiftで作成するのは現実的でないように思える。短文のアイデアや文章が思いついた時点でHTC Shiftに少しずつ書きためていき、それらのパーツを後から1つの原稿にまとめるのがストレスのたまらない、HTC Shiftの活用法となるのではないだろうか。
なお、先ほど「キーボードを使うなら、卓上で使うのが基本」と述べたが、液晶ディスプレイをスライドさせ、片手で本体を持ち、もう一方の手でキーをタイピングする使いかたは当然できる。ただ、ここで「800グラム」という重さが問題になってくる。日常的にスポーツで鍛えていない中年男子としては、片手で10分持っただけでつらくなってきたのは否めない。やはり、立って使うときはスレート形状が基本で、検索ワードや短文のメールを作成するときの「サブデバイス」としてキーボードを使うのが自然な使い方であるように思えた。
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