中国シニア層がインターネットの主役になる日山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2008年05月14日 11時30分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

 CNNIC(中国インターネット情報センター)が半年ごとに発表する中国におけるインターネット利用者の状況を見ると、調査開始から2006年までの長期間にわたって、中国のインターネット利用者は35歳以下がほとんどを占めていた。ところが2007年になってからその傾向が変わってきている。2008年4月に中国は米国を抜いて、世界で最も多くのインターネット利用者を抱える国と(統計上では)なったが、その大量増加をもたらしたのが、農村とシニア世代の新規利用者だ。

 以前、この連載でも少し紹介したように、中国のシニア世代は過去の国内事情もあって、PCユーザーが極端に少ないとされていた。そういう「デジタルディバイド」世代だったのにこの1年間で“大量発生”した中国のシニア世代は、インターネットを使って何をしているのだろうか?

中国流PC入門は「金もうけ」

 シニア世代が、PCを使ってインターネットにアクセスするようになった理由を調べてみると、この1、2年にわたって急増していた「中国株の取引でひともうけ」するため、というのが多い。実際、筆者の知り合いの中国人でもオンライントレードでインターネットデビューを果たしたシニア世代が少なからずいる。

 もともと彼らは教育の投資として月給数カ月分もかかるPCを購入して子どもに与えていて、子どもが独立して家からいなくなると、スペック的に時代遅れとなった旧式PCはそのまま家に残されることになる。以前なら、ごく一部の“マニアックシニア”か会社の経営者クラスのシニアを除き、ほとんどの親世代が家に残って使う人がいなくなったPCを放置していたという。

 中国の株が上がり調子となってから、仲間の1人がオンライントレードをやって大もうけしたらしい、と聞いたシニア世代は、「証券会社での待ち時間が長すぎるから」「手数料が安いから」といった理由で子どもを呼び出して、株取引ソフトのインストールや株関連Webページのブックマークを登録させて、あとは連日PCのディスプレイをにらみ続けるようになる。にわかに増えたシニア世代のインターネットユーザーは、こういった「金もうけのためにPCを始めました」というケースが圧倒的に多いのだ。

 ただ、シニア世代のトレーダーがすべてPCを使うようになったわけではない。ある中国人の男性は、以前から株取引をしているが、彼の娘が残していったPCを触ることは「最後まで」なかった。彼は、行きつけの証券会社にいるなじみの担当者と、取引のついでに世間話をするのが楽しみだったと聞いている。

 2007年10月まで上がりつづけ、ピークには6000を超えた上海株市場指数が、半年後の2008年4月にその半分の3000台前半まで下がった。筆者が取材したシニア世代は、ファンドや株などをキープする人、投売りした人と、その対応は分かれていたが、共通しているのは、株価が上がり調子だったころほど、PCにかじりついていないことだ。株価が下がり続けた時期には、シニア世代のオンライントレーダーがPCの前で倒れたというニュースがしばしば報じられていた。

 2008年7月に発表される、CNNICによる中国のインターネット利用者数の次回定例報告では、2008年の前半まで続いた株価急落の影響でシニア世代の新規利用者が急減し中国のインターネット人口の上昇ペースが減速するのではないかと関係者は予想している。

過去の国内事情もあって極端なデジタルデバイド状態だったシニア層も、最近では「金もうけ」のためにPCを始めるケースが急増しているという
2007年はオンライントレードに関する話題が頻繁に報道されていた

PCを使い始めた中国シニア世代

 中国のインターネットサービスは、他国に比べても若者向けの娯楽に特化した内容になっている。言い換えれば、中高年のユーザーのことはあまり配慮されていないことになる。これは、百度 CEOの李彦宏氏をはじめとする中国インターネット業界のキーバーソンも口をそろえている。日本人の筆者が見ても、中国のインターネットで配信されているコンテンツは日本よりもエンターテイメント色がかなり強いと感じる。

 ただ、株価が下がり、オンライントレードの熱気がひと段落ついた今でも、PCに向かっているシニア世代がいる。まだまだ「多くの」とは形容しがたいが、それでも、オンライントレードをきっかけにPCを使い始めたシニアユーザーたちは、ニュースを読み、オンラインゲームに興じ、デジカメで撮影した画像をライブラリ化することを始めている。日本であれば、メールを使いこなすシニアは珍しくないが、中国ではコミュニケーションツールとしてPCを利用するシニアユーザーはまだ少ないようで、筆者の周りでもメールを使いこなしている人はいない。

 PCを利用するシニア世代が増えているためか、彼らを対象にしたPC入門本がここ最近、書店で出回るようになった。シニア向けのPC入門本では、ファイル操作やオフィススイートを使った文書作成、デジカメで撮影した画像の加工方法、オンラインでできるテーブルゲームの遊び方、中国の国民的チャットソフト「QQ」の操作方法などが紹介されている。

 55歳になる中国人女性は、孫の面倒を見る合間に、暇があればPCのオンラインゲームで遊ぶ。彼女がいま夢中になっているのが、中国人ならだれもが知っている「トラクター」という4人対戦型のトランプゲームだ。筆者もトラクターのルールを調べてみたが、なかなか難しく奥が深くて慣れるまで時間がかかった。ただ、中国人の多くが慣れ親しんだゲームをいつでも「人を相手に」遊べることから、彼女は時間があればトラクターのためにPCの電源を入れるそうだ。中国全土や在外華僑が老若男女問わず、国民的トランプゲームで対戦できるというのは、インターネットならではといえる。

 彼女の面白いところは、トラクターでPCを頻繁に利用しているのに、ニュースは毎日欠かさず読む新聞に依存しているところだ。PCはまさに「トラクター専用機」となっていて、「デジカメで撮影した画像の整理」にもまったく興味を示していない。

孫の面倒を見る合間にトランプゲーム「トラクター」で遊ぶ定年間近の中国人女性

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