「日本のPCが世界を席巻していたかも」──HPだからできた“デザイン主導ノート”の世界展開山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」 (1/2 ページ)

» 2008年05月28日 13時30分 公開
[山田祥平,ITmedia]

 世界最大のPCベンダーとして君臨するヒューレット・パッカード(HP)は、(少なくとも日本では)企業向けという印象が強いが、ここのところ、コンシューマー向けの製品展開にも熱心だ。日本のコンシューマーユーザーをHPはどのように見ているのだろうか。そのあたりを、日本HPパーソナルシステムズ事業統括モバイル&コンシューマービジネス本部プロダクトマネージャー菊池友仁氏に話を聞いてきた。

日本HPパーソナルシステムズ事業統括モバイル&コンシューマービジネス本部プロダクトマネージャー菊池友仁氏

ワールドワイド主導で実現したZEN-design

──かつてのIBMのような巨人のイメージが強いHPブランドですが、米国HPと日本HPとの関係はどのようになっているのでしょう。

菊池 HPはワールドワイドを北米、南米、欧州、アジア/パシフィック/ジャパンという4つのリージョンに分けています。当然、日本HPはアジア/パシフィック/ジャパンに属します。このリージョンのヘッドクォーターはシンガポールにあります。また、パーソナルシステムズグループ(PSG)に関してはワールドワイドのヘッドクォーターがヒューストンにあります。ここは、以前、コンパックの拠点だったところですね。

 1年に2回、ワールドワイドのヘッドクォーターが今後の製品に関するロードマップを公開して社内で討議します。そこでは、リージョンに所属するわれわれも意見を述べるチャンスがあります。これが、実際に製品となって出荷される2年くらい前の段階です。ロードマップのたたき台が出てきて、その場で議論し、そこで述べられた意見を製品に反映してもらうという段取りです。

 HPの最大の強みはやはりスケールメリットです。よいものをより安く提供できるという点では業界トップであると自負しています。ただ、日本独自のリクエストを反映してもらうのが難しいケースも多いかもしれませんね。最近でこそなくなりましたが、FDDの搭載などは日本市場でニーズが強かったのですが、ついに実現しませんでした。また、1キロ以下のモバイルノートPCなども同様です。だから、日本HPとしては、いかに日本市場にマッチするものをワールドワイドで開発させるかが課題となってるわけです。

 そのために、「現時点では他の国に需要がなくても、潜在的にはニーズがあるのではないか」という言い方をすることがあります。うまくロビー活動をして、韓国などと連合を組んで説得にあたることもありますね。いずれにしても、日本独自の製品というのはありえませんから、日本の動向が、将来の市場を引っ張っていることをアピールし、それにマッチした上で、ワールドワイドで通用する製品を作らせるしかないのです。

──コンシューマー向けPCラインアップの「Pavillion Notebook」では、ZEN-designと呼ばれる日本色の強いデザインパターンが使われていますね。

フィルム印刷を行うナイテック工業のマザーファクトリーである亀岡工場で稼働しているフィルムへの印刷ライン

菊池 日本写真印刷(NISSHA)の技術によるもので、デザインを加えたフィルムに樹脂を流し込み、そのデザインを転写させるというものです。最終工程で塗装する従来の手法に比べ、キズに強く塗装がはげることがありません。意外ですが、この技術を見つけてきたのはヒューストンのワールドワイドヘッドクォーターなんです。ヒューストンには米国はもちろん、南米、欧州、アジアなど、世界各地から集まったデザイナーで構成されるデザインチームがあります。彼らは、世界を常に旅して、自然や文化、建造物からのインスピレーションをアイデアとして提案します。そうした活動の中で見つけたもののようですね。一説には、NISSHAの社長がヒューストンに行って、自ら営業したという話も聞きます。日本HPは、ZEN-designがワールドワイドヘッドクォーターで選考されている段階で何も知らなかったのです。日本色の強さは日本の希望ではなかったということですね。

 技術的にはとても優れているんです。ただ、プラスチックの成型過程でプリントしますから、金型のほかに、専用の製造装置が必要で、大量に生産しないとコスト的に不利です。でも、いったんラインが稼働してしまうと、コストは下がって従来の工程と逆転します。このような事情もあって、固定費の回収ができないと導入が難しいわけです。まさに、HPがワールドワイドに調達するボリュームだからこそできることなんですね。

 ヒューストンのデザインチームは、ステーシー・ウルフという人物が率いているんですが、彼が、このチームを作ってから何かが変わったように思いますね。それまでは、ハードウェアの開発色が強かったのですが、デザイン性を重視するようになりました。

開発コストをスケールメリットで回収するデザインPCの現実

──デザイン重視は製品の売り上げに貢献しているのでしょうか。

HPが取り組む「デザインが牽引するコンシューマー市場」の典型的な例が、2008年4月に発表された「HP Pavilion Notebook PC dv2800/CT Artist Edition」だろう

菊池 もちろんです。PCとは無縁だったデザイナーたちが関わるようになり、HPが開発するPCのデザインは変わりました。2006年の第3四半期で、製品の売り上げが急激に伸びているんですが、デザインが変わったのがこのタイミングなんですね。しかも、その伸びはコンシューマー市場が引っ張ったんです。

 今、PC全体の伸び率は鈍化しています。そういう状況で売り上げを伸ばすには、新しい市場を作る必要があります。いま紹介した売り上げの伸びも、HPがPCのデザインに着目してそれが成功した結果です。

 日本にも、デザインに力を入れているPCベンダーはあります。でも、ワールドワイドで活躍している日本のベンダーはそれほど多くはありません。そのことは、ワールドワイドでデザインに特化したPCを作っているベンダーが存在しないということを意味します。そこに着目したHPは、カラーバリエーションよりも先を見通した、次の段階に進む道を選んだのです。日本のPCベンダーが、デザイン指向のラインアップをワールドワイドで展開していたら、勝負は違っていたかもしれませんね。日本のPCベンダーが、世界を席巻していたかもしれません。

 いま、PCはコモディティ化しています。そういう状況にある市場で勝負に勝つにはスケールメリットが必要です。どんどんボリュームを出す構造でしか勝てないはずです。そこに気がつくまでは、ここまで鮮明に勝負はついていなかったんじゃないでしょうか。

 差異化製品をアピールする日本のベンダーは、これから、少しずつでもやり方を変えていかないと厳しいかもしれませんね。モノが余って何でもあるような時代には、世界を相手にしてボリュームで勝負しないとダメだということです。

 もちろん、価格という要素もとても重要になります。RFIDや携帯電話など、日本独自の技術や規格に固執していて未来はありません。ただ、どのようにして市場をオープンにしていくかという舵取りは難しいことではあるのですが。

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