PC世界シェアNo.1を支える京都発の「表現力」HP Imprintが世界を制する(1/2 ページ)

» 2008年04月17日 11時11分 公開
[田中宏昌&前橋豪,ITmedia]

世界シェアNo.1の原動力となった「HP Imprint」

 ここ数年、ヒューレット・パッカード(HP)はコンシューマーPCのデザインに注力し、砂紋(samon)、雫(shizuku)、雪景(sekkei)、芽生え(mebae)、響き(hibiki)、息吹き(ibuki)など、「ZEN-design」という独特のデザインパターンを採用している。いずれも「HP Imprint」と呼ばれる技術を使うことで、光沢感のある美しいボディでありながら、傷に強く塗装はげの心配が少ないという特徴を持つ。

ZEN-Designを採用したHP Pavilion Notebook PC。左の写真はZEN-design mebae(芽生え)だ。HP Imprintを導入した2006年第2四半期から、HPのコンシューマー向けPCが急成長を遂げているのが分かる(写真=右)

 HP Imprintは米国で2006年5月(日本では2006年9月)投入のモデルから導入されたが、これは同社がPCの世界シェアNo.1に登り詰めた時期と重なる。上のグラフを見てもらえると分かるように、HP Imprintを採用した2006年第2四半期から、特にコンシューマー向けPCが急激に伸びている。つまりZEN-designを取り入れたPCが、「ワールドワイドでは絶好調という言葉を使っても差し支えない」(日本HP パーソナルシステムズ事業統括 モバイル&コンシューマビジネス本部 本部長 山下淳一氏)という現在のHPを支えるエンジンとなっているわけだ。

左から砂紋(samon)、雫(shizuku)、雪景(sekkei)のデザインパターン

左から芽生え(mebae)、響き(hibiki)、息吹き(ibuki)のデザインパターン

日本の技術力で実現した「HP Imprint」

 このHP Imprintだが、中核となる技術を提供しているのは驚くなかれ、この日本だ。2009年で創業80年を迎える日本写真印刷(NISSHA)が持つNissha IMD(In-mold Decoration)がそれにあたる。

 一口にNissha IMDといっても、さまざまなタイプに分かれるが、HPに採用されたのは「成形同時加飾転写システム」(Nissha IMD Type-TR)だ。これは、ボディ成型時にデザインを加えたフィルム(IMD転写箔)を金型にはさみ、樹脂を流し込むことで、ボディの成形とデザインの転写、表面塗装という3つの工程を1度に行う。そのため、時間やコスト、工場スペースを削減できるのがメリットで、ひいては自然環境への負荷も軽減してくれる。このNissha IMDは、これまでに自動車の内装品、携帯電話、家電、オーディオ、文房具、化粧品などわれわれの身近な幅広い分野で使われているが、ノートPC全体に採用されたのはHPが初めてだという。

Nissha IMDを採用した製品(写真=左)。Nissha IMD-Type TRの成形工程(写真=右)

 ここでは、HP Imprintの故郷である日本写真印刷を訪ね、同社 産業資材・電子事業本部 産業資材生産担当 柴田卓治常務取締役とともにNissha IMDの現場を見ていく。

デザインパターンを印刷したフィルムはすべて国内で生産

日本写真印刷 産業資材・電子事業本部 産業資材生産担当 柴田卓治常務取締役

 日本写真印刷の本社は京都にあるが、ZEN-designのフィルム(IMD転写箔)を製造しているのはグループ企業であるナイテック工業の亀岡工場(京都府亀岡市)だ。

柴田 日本写真印刷は、本や雑誌、ポスターなどを扱う印刷情報事業、加飾フィルムを扱う産業資材事業、タッチスクリーンなどを扱う電子事業という3つの事業体で成り立っています。実際に産業資材の製造を行っているのはグループ会社で、フィルムの製造はナイテック工業、金型の設計や製造、マッチングなどはナイテック・モールドエンジニアリングが担当しています。

 ナイテック工業では、主に携帯電話とPC関連、化粧品や文具といった消費財のフィルムを生産しており、工場は亀岡と京都、甲賀(滋賀県)にあります。この亀岡工場はPC関連と携帯電話、そして自動車の内外装部品用のフィルムを生産しています。

 HPに納めているフィルムはすべて日本国内で生産しています。材料調達を含め、アナログ的な工程が多いので海外生産は難しいからです。その後の成形などは海外で行っています。

フィルム印刷を行うナイテック工業のマザーファクトリーである亀岡工場

柴田 フィルムは、主にグラビア印刷によりPETフィルムに絵柄(インキ層)を印刷した後転写箔(はく)と、成形と同時に転写を行うIMD箔(はく)があります。どちらの転写箔(はく)も基本構造は共通で、フィルムからはがれて機材の表面保護を兼ねる層、絵柄の層、接着剤で構成されますが、材質は異なりますね。

 また、IMD箔の対象はプラスチックですが、後転写箔は金属やガラス、木材などにも転写が可能です。表面のコーティングは、光沢だけでなく非光沢も可能です。

 1回の印刷厚は1〜2ミクロンで、全部足しても10ミクロン前後と、髪の毛(約100ミクロン)の10分の1程度にしかなりません。ですので単に印刷といっても非常に精密なものになります。HPのZEN-Designは12層前後でしょうか。つまり同じフィルムに12回の印刷を重ねているわけで、その精度が問われます。

 工場で使用しているグラビア印刷機は、いわゆるラーメンやアメの包装紙を印刷しているものが基本形で、印刷機の性能としては約200〜250メートル/分の速度で刷ることができます。しかし、細かい精度が要求される転写箔の印刷では、転写箔印刷向けに設計を見直して最適化を行い、印刷速度もその何分の1というスピードに落としています。

 最終的にできあがった製品では、最大500ミリ幅、最小で15ミリ幅の仕上げ幅が可能です。HPさんのZEN-Designは、われわれが定める基本サイズよりも1〜2割り増しほど大きいですね。

転写される前のポリエステルフィルム(写真=左)。春モデルで登場した「芽生え」の天板部分(写真=中央)とパームレスト部分(写真=右)

「息吹き」の天板部分(写真=左)。右の写真は厚さが10ミクロン前後という極薄のIMD箔だ

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