PC世界シェアNo.1を支える京都発の「表現力」HP Imprintが世界を制する(2/2 ページ)

» 2008年04月17日 11時11分 公開
[田中宏昌&前橋豪,ITmedia]
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HPとNisshaの出会いは必然だった

日本写真印刷のブランドステートメントである「Trend Meets Technology」

 米国のHP本社からZEN-Designの話が日本写真印刷に来て、実際に製品を生産し始めたのは2006年だ。2008年1月に開かれた日本HPの発表会で、「HPが要求する品質をクリアできるのは、日本写真印刷しかない。Nisshaとの出会いは必然だった」とコメントしたHPとの取り組みは、日本写真印刷のブランドステートメントである「Trend Meets Technology」を文字通り具現化したものだという。

 これは、日本写真印刷が持つ技術をオレンジ、世の中のトレンドを青いサークルで表現したもので、同社のカタログやホームページ、名刺に至るまでさまざまなところで目に入る。Nisshaの持つ適応能力に優れた独自のテクノロジーと顧客のニーズ(トレンド)が出会うことで具体的な製品サービスを提供し、新しい価値と高い顧客満足を生み出すことを意味する。

柴田 以前に比べて、ZEN-designのフィルム生産量は倍以上に増え、要求されるデザインレベルもより高度になってきています。特に難しいのは、半透明で濃淡差があるデザインですね。色のムラが目立ってしまうからで、これを感じさせない技術がわれわれの持ち味であり、他社にまねができない部分です。

 昔を振り返れば、ウォークマンなどのオーディオ関連で多く採用されたデザインであり、今では金属の質感を感じさせる携帯電話、よりサイズが大きいPCで導入されています。塗装では難しい表現であり、細かいパターンが入れられません。まさに、われわれの工法にぴったりの意匠表現と言えるでしょう。

 このような金属調の質感は、蒸着機と呼ばれる潜水艦のような機械を使ってフィルムにメッキを蒸着させることで実現します。蒸着機では真空状態の中で金属を蒸発させ、そこにフィルムを通過させることで、透明なフィルムに金属被膜ができます。

フィルムへの印刷工程

 この工法を端的に生かしたのが、4月11日に発表された「HP Pavilion Notebook PC dv3000/CT」だ。新たにVM(Vacuum Metallizing) Finishと名付けられ、金属的な風合いを前面に押し出すことで高級感を演出している。しかも、dv3000/CTでは従来の液晶ディスプレイ天板とパームレスト面に加え、側面部分にまでHP Imprintが施されているのが特徴だ。

金属的質感を強調したZEN-design grid採用の「HP Pavilion Notebook PC dv3000/CT」(写真=左と中央)。VM Finish処理を両側面にまで行っているのが特徴だ。dv3000/CTから天面部分のロゴが光るようになった(写真=右)

海外メーカーだからこそ実現できたデザイン

柴田 特に雪景のデザインは日本の感覚ではできないものですね。こういうデザインもありかと思いました。これまで、さまざまなデザインパターンを見てきたので、イメージを伝えてもらえればある程度は想像ができるのですが、HPのZEN-designはまったくの予想外でした。そもそも、ZEN-designは日本の感覚ではないですし、仮に企画ができたとしても製品化までは持って行けないと思うのです。HPは海外メーカーだからこそ、このデザインを採用でき、そして実用化できたのではないでしょうか。

 4月11日に発表された「HP Pavilion Notebook PC dv2800/CT Artist Edition」は、2007年に行われたデザインコンテストで最優秀賞に決まった作品を製品化したモデルだ。作者は20歳のポルトガル人であるジョアン・オリヴェイラ(Joao Oliveira)氏 で、作品名は「Asian Odyssey」(アジアへのいざない )だ。詳細は別記事に譲るが、西洋人から見た東洋とも言える独特なイラストが描かれており、色使いもカラフルだ。塗装では難しい、和紙をイメージした「汚れ」にも見える細かい質感を表現するなど、Nissha IMDだからこそ実現できた製品だ(関連記事:HP Pavilion Notebook PC dv2800/CT Artist Edition フォトレビュー)。

デザインコンテストの最優秀作品を採用した「HP Pavilion Notebook PC dv2800/CT Artist Edition」。柴田氏いわく、dv2800/CT Artist Editionのような多色刷りよりも、芽生え(mebae)のような半透明のデザインのほうが、色の再現性などで難しいという。また、個人的には砂紋(samon)や雪景(sekkei)のデザインパターンが好みだそうだ

春モデルの液晶ディスプレイ天板部分(写真=左)。丸みを帯びた部分で、フィルムにしわが付かないよう成形するのも独自のノウハウが必要だ(写真=中央と右)

何の変哲もないフィルムに多くのノウハウが凝縮している

柴田 われわれのもう1つの特色は、フィルムや金型の製造と供給といったことだけでなく、成形品の設計から生産までのあらゆるプロセスをコーディネートして、クライアントの要求に適したソリューションを提供できることにあります。いくら高品質なフィルムを製造しても、金型やその後にある成形工程まできちんとコントロールできなければ、結果として満足のいく製品が生み出せません。HPの場合も、金型の設計や樹脂の射出など細かい点を含めてサポートしており、海外の工場に多くの人員を派遣して“Nissha クオリティ”の維持に努めています。世界的に見ても、設計から供給までトータルのソリューションを提供できるのは、今のところ当社だけと思っています。

 柴田氏は「一見すると何の変哲もないようなフィルムですが、一朝一夕で作り出せるものではありません」と自信をのぞかせる。「フィルムの材料、印刷の技術、樹脂の設計技術、製版の技術、それらすべてのバランスが必要です。日本やアジアをはじめ、北米やヨーロッパ各地に拠点があり、グローバルでネットワークを構築しているのも強みと言えるでしょう」と強調する。

 「HPさんから、次にどんなデザインが来るんやろうか」と心配する柴田氏。冒頭で述べたNissha IMDの採用とHPのコンシューマー向けPCの顕著な伸びがリンクしている点について聞いてみると、「ベースとなるPCの基本性能と優れたデザインがあったからこそですよ。言ってみれば、われわれは塩コショウであり、ただデザインを具体化しただけです」と謙遜(けんそん)するが、まさにそこに匠(たくみ)ともいえる、強いこだわりと誇りを感じ取ることができた。

世界各地に営業/生産拠点を展開している日本写真印刷(写真=左)。2008年のHP Pavilion製品テーマ「速さは美しさの中に。」(写真=右)

 HPの2008年製品メッセージは、「速さは美しさの中に。」だ。PCの世界シェアNo.1を背景にしたスケールメリットを「速さ」という総合的パフォーマンスで表現し、Nissha IMD=HP Imprintによる光沢感にあふれたデザインが「美しさ」を表現する。まさに言い得て妙のメッセージであり、今後登場するであろうHPの新製品に注目していきたい。

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