──量販店における個人向けPCの販売を、約6年ぶりに開始されるそうですね。
菊池 PCの販売において、流通というのは、実に重要な要素です。個人の8割が量販店でPCを買っているのが現状ですから、彼らを無視するわけにはいきません。ずっとダイレクト販売でがんばっていたのですが、シェアが数%と伸び悩んでいました。だから、流通の力をどのように使って、消費者に訴求していくかが今後の重要なテーマです。
コンパックを含めて、HPを以前から知っているユーザーには、質実剛健、壊れにくくていい製品というイメージを持っていただいています。そこにプラスして、デザインをアピールすることで、デルやレノボとは違った印象を持ってもらおうと考えています。この展開をうまくスタートさせるためにも、今回、新たに提案するHP 2133 Mini-Note PCは成功させたいです。
──HP 2133 Mini-Note PCは、大手ベンダーが7万円を切る価格で発売するノートPCとして、話題になっていますね。
HP 2133については、すでにPC USERでもレビューを掲載しているが、CPUにVIA C7-M ULVシリーズ(ハイエンドで動作クロック1.6GHz)を搭載し、グラフィックスコアはVIA Chrome9 HCを採用するスペックとWindows Vistaとのバランスが気になるところであった菊池 HP 2133の販売方法ではどこのリージョンも迷っているんです。製品は同じでもマーケティング戦略は、各リージョンごとにまったく違いますから。日本HPとしては、どのPCベンダーもまだいない、まったく新しい市場を作っていこうと考えました。これまでのHPでは、日本独自の市場を作るという試みをやってこなかったので、期待と不安が入り交じった心境です。
フォームファクタとしては、8.9インチワイドの液晶ディスプレイを搭載するミニノートPCですから、リージョンによっては、UMPCに分類しているところもあります。日本HPでも、製品をよく検討しながら日本スタッフで議論しました。
まず、「低価格」という特徴だけで訴求するには、コストや素材の点で無理があります。これだけの質感と将来的なロードマップを持つ製品で、原材料のコストなどと相談すると、5万円以下のPC市場で競合していくのは不利です。そこで、ディスプレイ解像度の高さ、素材の堅牢さ、質感の高さ、ギガビットイーサネットの対応など、HP 2133が持つ付加価値を検討していき、どのような市場で、どのようなユーザーの期待に応えられるかを議論したところ、「既存の市場には、このカテゴリの製品はない」という結論に達しました。そこに、誰もが購入できるな価格をつければ、フル機能でなくても、十分に使えるPCとして、評価していただけるはずだと判断したのです。
──ワールドワイドヘッドクォーターは、どのような位置づけを考えてHP 2133を開発したのでしょう。
菊池 もちろん、法人向けの製品としてです。そういうスペックを持ちながら、日本HPとしては、コンシューマーユーザーも狙っていくわけです。これは、各リージョンと共通するアイデアだったため、ブランドから「コンパック」をとりました(ワールドワイドのHPでは、価格を重視したビジネス用とのPCに“COMPAQ”ブランドを付加している)。このように、ブランド戦略だけでなく、デザインなどもコンシューマー市場で売りやすいようになっています。これは、各リージョンの考えに沿ったものといえるでしょう。ワールドワイドのHPとしては初めての試みかもしれませんね。ただ、実際には、北米で教育市場、欧州では国ごとにバラバラ、南米は法人向けというスタンスをとるようです。
──フル機能の高性能PCではないという点は懸念されていませんか。
菊池 実際には、7割くらいのユーザーがセカンドマシンとして使うでしょうね。それなら十分です。でも、買い換えのタイミングで機種を選定するときに、これ1台で大丈夫という判断をするユーザーもいるはずです。だから、ほかのセカンドマシン用PC、いわゆるサブノートPCと違いを出すために、これ1台でも十分使えることを積極的にアピールしていきます。
極端な言い方をすれば、ASUSのEee PCと競合するのはもったいないと判断したんですよ。スケールメリットでコストを落とすことはできますが、彼らと同じ土俵で同じ戦い方をしていると、共倒れになってしまいます。だから、彼らにはできないことをやってみようとして、スペックを妥協することなくハイエンドを目指しました。だから、Eee PCより数万円高くなりましたが、この判断は正しかったはずです。
たぶん、Eee PCを購入したユーザーは、最初のうちはともかく、すぐに不満を感じるようになるはずです。あの市場は、あまり長続きはしないはずですよ。もちろん、ある程度はいくでしょうけど、それがどのくらいの大きさなのかというと疑問も残ります。だから、HPはまったく同じ市場は目指しません。
新しい提案をしなければ、市場は縮小する一方だと菊池氏は断言する。このことは、新しい使い方の提案により、最新のPCを使ってもらう環境作りにHPという巨人が乗り出したことを意味する。それが、現在における個人のデジタルライフスタイルに、どのような影響を与えるのか興味は尽きない。個人的には、HPが考えるように、より多くのユーザーが、本気でPCを持ち歩く市場が形成されていくのは、とても望ましいことだと思う。それが本人にとって唯一のPCであろうが、自宅に戻ればバリューラインのデスクトップPCがあろうが、プライベートでPCを使う時間が増えることには間違いないのだから。
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