この連載の第1回目で購入したエントリークラスのレノボ製デスクトップPC「家悦」をパワーアップすべく、中国のパーツショップに持っていったら、パーツを買ったついでにショップのスタッフがパーツの交換作業までしてくれるという、中国のPCパーツ購入事情をこちらとこちらの記事で紹介した。おかげで、「家悦」は見た目そのままでデュアルコアCPU搭載マシンに生まれ変わった。
PCが生まれ変わったのだから、液晶ディスプレイもアップグレードしたくなると思うのは人の性(人の柱ではない)。そこで、筆者のお買い物アドバイザーとしてコノ連載で登場することが多くなってきた“知りあいの中国人”に、またまたヘルプの依頼をかけた。しかし、彼は「今度は液晶ディスプレイを購入するぞっ」と聞いたとたんに易しい中国語でこういった。「まだ使えるじゃないですか」
「だって、大きい液晶ディスプレイなら表示画面も広いし仕事もはかどるし」といっても理解してもらえない。ちなみに、彼は、PCショップで筆者の代わりにあれこれ質問できるほどPCに関する知識は持っている。そういう彼でも「使える液晶ディスプレイを買い換えるなんておかしいよ」と買い物に付き合おうとしてくれないのだ。
このあたりの事情にも、実は「所得水準」という理由が影響している。ASUSが価格の安さをアピールするEee PCが都市部で働く若い公務員の給料2カ月分となる状況において液晶ディスプレイの価格は給料1カ月に相当する。壊れていない液晶ディスプレイを「使いやすいものに買い換える」という行為は、周囲の中国人から「もったいない!」と非難されてしまうのだ。
そのためか、中国のIT関連メディアでは、マルチディスプレイや大画面高解像度ディスプレイのメリットを訴求する記事は見かけない。これは、電脳街でも同様だ。「デュアルディスプレイにして仕事の効率アップ!」とか、「大画面高解像度ディスプレイで表示される情報量はこんなに増えます」といったプロモーションは見たことがない。
この事情は、液晶ディスプレイだけでなくキーボードやマウスといったほかのマンマシンインタフェース機器でも同じだ。心地よい打鍵感を訴求する高級キーボードはまず見かけない。辛うじてマウスでロジクールの「MX Revolution」などのハイエンドモデルが売られているが、中国IT系メディアのレビュー記事で取り上げられることはない。筆者が中国の滞在先で使っている「RealForce」も周囲の中国人には「なんでこんなに高価なキーボードを使っているの」とその価値を理解してくれない。
周辺機器は動くかぎり使いつづける中国で、いったんはあきらめた液晶ディスプレイの買い替えだが、うまくしたもので液晶ディスプレイのバックライトが壊れてしまった。件の“知り合いの中国人”も「壊れたのならしょうがない」と重い腰を上げてくれた。ようやく中国の電脳街で液晶ディスプレイを購入するチャンスが到来したのであった。
省都クラスの電脳街には中国の液晶ディスプレイ市場で人気のあるメーカーの製品がずらりと並ぶ。ただ、そのメーカー名は日本とだいぶ異なっているようだ。ViewSonic、ASUS、Philips、BenQ、LG電子、Samsungといった海外メーカーのほか、日本では聞きなれない、「AOC」「長城」(GreatWall)といった中国企業の名前も確認された。レノボ、ファウンダー、神舟といった中国のPCメーカーも、少量ながら液晶ディスプレイを販売していた。
これが上海や北京の電脳街になると、販売されている製品が少し変わってくる。前述のメーカーに加え、EIZOやNECなどの日本メーカーが加わる。またデルのリアルサイトやアップルの代理店もあるので、これらメーカーの液晶ディスプレイも入手可能だ。
この連載でも紹介しているように、中国の“電脳街”はIT関連ショップが集まった雑居ビルでフロアごとに販売する製品が異なっている。液晶ディスプレイを販売する店はパーツショップフロア(多くの“電脳街”で3階か4階である)にあるが、メーカー製PCが販売されるフロア(こちらは1階か2階になる)でも売られている。ブランドによってフロアが異なるので、液晶ディスプレイだけを捜し求めるのは少々面倒だ。
中国の「液晶ディスプレイ売り場」でも、日本と同じように数多くの製品を並べて、サンプル画面を表示している。しかし、多くのショップで表示されているサンプル画面は、店員が現在進行形で遊んでいるフリーセルであったり、ゲーム機“NEOGEO”のエミュレータ(それも格闘ゲームの“ザ・キング・オブ・ファイターズ”シリーズに、ほぼ限定される)のゲーム画面であったり、DVDで再生中の映画であったり、国民的チャットソフトのQQであったりと、展示製品が店員の娯楽用と化しているところが中国らしいといえば中国らしい。日本の液晶ディスプレイ売り場でありがちな、いくつかのサンプル画像をスライドショーのように表示させる「真面目な」ディスプレイショップは少数にすぎない。そんな、少数派ショップでも、流れているスライドショーの多くは2頭身キャラ画像やアイドル画像(男のアイドルを含む)であったりすることが少なくない。
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