GPUをあらゆる分野で使えっ――CUDAで攻勢をかけるNVIDIANVISION 08(1/2 ページ)

» 2008年08月28日 13時30分 公開
[鈴木淳也,ITmedia]

“もうゲームだけじゃない”――GPU技術をあらゆる分野へ

キーノートを行ったNVIDIA共同創業者でCEOのジェン・スン・フアン氏

 NVIDIAといえば、ハイエンドグラフィックスカードのベンダーとして、1990年代後半以降、ゲームユーザーやオーバークロッカーに熱く支持されている。すでに揺るぎない地位を確立したNVIDIAだが、そのGPUの役割がここに来て大きく変化しようとしている。それが、CPUとGPUの融合に向けたシフトだ。

 コンピュータの処理単位を示す指標の1つである「IPC」(Instruction Per Cycle:1サイクルあたりに処理可能な命令数)の効率化が限界に近づくなか、単一コアあたりの性能向上に力を注ぐのではなく、むしろ、コアの数を増やしてシステム全体の処理能力を高める並列化の手法に注目が集まっている。近年ではデュアルコア、クアッドコアのCPUが当たり前となり、2008年末に登場するIntelのNehalemではオクタコアのデザインが登場する。このように、CPUのメニーコア化は避けられない状況だ。Intelが概要を発表した「Larrabee」も、こうしたメニーコア時代の到来を予感させる。

 Intelの説明によれば、Larrabeeが最初にターゲットとするのはグラフィックスカード市場になるという。そして次の段階として、並列化技術を応用した科学技術計算など、さまざまな分野への採用を進めていくことになる。だが、このようなアイデアを持っているのはIntelだけではない。むしろ、先駆者として早くから動きを見せているベンダーが存在する。それが「Torrenza」というプラットフォームでGPU技術をグラフィックス以外の分野へ応用しようと考えるAMDであり、そして、NVISION 08の主役であるNVIDIAだ。

 NVIDIA共同創業者でCEOのジェン・スン・フアン氏はNVISION 08のキーノートスピーチで、同社が考えるビジュアル・コンピューティングを語っている。ゲームやデザイン処理など、パワーゲーマーやクリエーターといった一部のユーザー層を対象にしているハイエンドのGPU技術は、NVIDIAが考えるビジュアルコンピューティングにおいて、さらに多くの分野へと広がることになる。パーソナルコンピューティングの分野以外では、映画産業などのCG技術が分かりやすい例だ。このような用途以外にも、GPUに内蔵された並列で膨大な小数点演算能力を活用することで、高度な風洞計算や資源探索などの科学技術シミュレーション、金融市場向けの膨大なトランザクション処理など、さまざまな分野へ応用できると、フアン氏は説明する。

 この構想を支えるのが、GeForce 8シリーズやGeForce 9シリーズ、そして最新のGeForce GTX 200シリーズでサポートされている、C言語ベースの「CUDA」開発プラットフォームだ。CUDA対応のGeForceには“General Purpose Core”と呼ばれる汎用コアが多数内蔵されており、CUDAを用いてプログラムすることで、並列プロセッシングによる膨大な処理能力をGeForceシリーズから引き出せるようになっている。GeForce以外にも、上記の科学技術計算市場を狙った「Tesla」というブランドをNVIDIAは立ち上げている。こうした技術は「GPGPU」(General Purpose Graphic Processing Unit)と呼ばれ、GPU技術を応用した次の市場として注目を集めている。

 会場ではSETI@Homeから続く分散コンピュータプロジェクトの1つで、スタンフォード大学が主催する「Folding@Home」において、CUDAとGeForceの組み合わせが多大な成果を挙げている事例が紹介された。

NVIDIAが提唱するビジュアルコンピューティングの応用分野。PCやゲーム、デザイン分野だけでなく、バイオや医療、科学技術、金融まで、幅広い分野をNVIDIAのGPU技術でカバーしていく
NVIDIAが推進しているCUDAベースのGPU技術。大量の汎用コアをGPU内に配置し、C言語をベースにしたCUDAで超並列コンピューティングによる膨大な演算処理能力を引き出す
並列コンピューティングの活用分野が広がることで、総合的な演算能力の上昇カーブにおいてGPUはCPUを追い抜くことになると、フアン氏は主張する

ビジュアルコンピューティングは“バーチャル”から“リアル”へ

独RTTは車体デザインのためのソフトウェアをGPU+CUDAで強化し、光の反射などにおいてより精密で質感のある描写を実現する。画面の例はランボルギーニの車体だが、クライアントからのカスタムデザイン要望をCGで再現してすぐに提示できる

 これまでNVIDIAが取り組んできた映像表現技術を高めていくと、より“現実”に近い“仮想”世界に到達する。例えば、3Dオブジェクトのポリゴン数を増やしたり、陰影処理やライティング処理を緻密に行うことで、現実世界により近い映像表現が可能になる。先日紹介したAMDのセッションでは、こうして実現した世界のことを「眼球がリアルに表現できる世界」という意味から「Eye-Def」クォリティと名づけていた。NVIDIAもまた同じ考えを持っており、高度にレンダリングされた映像は、仮想世界を現実世界の代替として使えるだけのポテンシャルを引き出すと訴える。

 こうした仮想と現実を結びつける事例の1つとして紹介されたのが、独RTTの開発するデザインソフトウェアだ。このソフトウェアは車のデザインなどで利用されているが、高度な描画能力を活用することで、設計だけでなく仮想ショウルームのようなものも実現できる。例えば、ユーザーが車の購入を考えたとき、カスタムデザインをすぐに車体へ反映したり、車を好きな場所で走らせて、その見栄えや細部のディテール、質感を体験できる。ほかにも、Google Earthにおける都市の緻密な描写やストリートビューで利用される景色の描画などがキーノートスピーチで紹介されている。

描画能力が向上することで、仮想世界もより現実的で身近なものに感じるようになる。東京都庁の周辺もGoogle Earthでリアルに再現された(写真=左)。これにストリートビューを組み合わせることで、実際に街の中を散策しているような気分が味わえる(写真=右)

SportVisionの開発したグラフィックス合成技術では、カメラやGPSなどを利用して対象人物などの識別や現在位置の確認を行い、その結果を出力画面に投影する。キーノートスピーチのデモでは仮想のフットボールフィールドに壇上の講演者を投影した(写真=左)。合成しない状態では、ただの人工芝の上に立っているだけだ(写真=右)。合成画像では、フアン氏の動きに合わせて青い軌跡が描画されている

SportVisionの技術を活用した例では、フットボールのリアルタイム中継に合わせてタッチダウンまでのボールの軌跡をCGで描き出したり、NASCARレースで個々の車体を識別してその軌跡をリアルタイムで画面に描画したりする処理が紹介された

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