「こんな打ちにくそうなキーボード、誰が使うんだろう」――記者はエルゴノミクスキーボードについてそう思っていた。つい最近まで。
エルゴノミクスキーボードは、人間工学に基づいて設計された、手首への負担が少ないというキーボード。デザインはメーカーによって異なるが、右手用のキーと左手用のキーが分離し、ハの字に配置されているものが多い。
普通のキーボードに慣れた身からすると、見るからに使いにくそうなデザインだ。記者もこれまで編集部などでたまに目にし、触ってもみたが「こりゃ無理だ」と感じていた。実際、使い始めてから慣れるまで数週間かかるものらしい(エルゴノミクスキーボードに移行するための4つのコツ)。
ところがどっこい、である。記者は今、普通のキーボードはとてもじゃないが打てない体になってしまった。エルゴノミクスキーボードでないとダメなのだ。
これには特殊な事情がある。記者は最近左手を手術し、左手首からひじまでをギプスで固めた状態になっている。手首は完全に固定されており、ひじは少し曲げた状態で固定されている。おかげで普通のキーボートがまともに打てないのだ。
手は、キーボードに対して斜めに置くのが精一杯。手首は親指側が少し浮いた状態で斜めに固定されおり、手のひらを真下に向けることができない。この状態でキーを打とうとすると、キーボードの上で手首とひじを浮かせ、ひじ全体を動かしながらキーを1つ1つ叩くような感じになってものすごく疲れる。しかも、左手が届かないキーが多く右手の仕事量が増えるため、このままでは右手も悪くしそうな勢いだ。
そしてふと思った。「エルゴノミクスキーボードなら、いけるのでは」と。「キーボードに対して斜めに手を置き、手首を浮かせる」がデフォルトの左手だが、始めからキーが斜めに配置され、手首の部分がせり上がっているエルゴノミクスキーボードを選べば、手首を固定しながら不自由なく打てそうな気がする。
というわけで、PC USER編集部にお願いして貸してもらったのがマイクロソフトの「Natural Ergonomic Keyboard 4000」。キーは右手用・左手用でハの字に分かれており、ハの字の真ん中が一番高くなっている山型のデザインだ。パームレストには「パームリフト」と呼ばれる台座を付けることができ、キーボードの手前側を高くすることができる。
早速PCのUSBポートにこのキーボードを接続し、使ってみると……すばらしい!! 手のひら(のギプス)をパームレストに固定したまま、指を動かすだけで無理なくキーボードを打て、本当に驚いた。
キーボードに対して斜めにしか置けない手は、ハの字に配置されたキーボードにちょうどいい。小指の方のキーが下に沈み、親指の方が上にせり上がった山型のキー配置も、親指側を少し浮かせた形で斜めに固定されているの今の記者の左手にぴったりで、自然な手の形のまましっくりと使えるのだ。どうしても浮いてしまうひじはクッションにのせて固定している。
パームレストに手のひらをしっかり乗せると、ギプスの重さをパームレストが支えてくれるため、重くてだるくなることもない。手のひらを浮かせたり手首を動かす必要もないため、けがをしている手首や腕への負担もほとんど感じない。
このキーボードのおかげで、ギプスの重さに疲れることもなく「けがに響かないかな」と心配する必要もなく、安心して長時間キーを打てるようになった。使い慣れてくると「普通のキーボードは手に不自然な姿勢を強いて、手に悪いのではないか」とすら思えてきた。
難点もないわけではない。おそらく男性の手に合わせた設計になっているため、ギプスで固めた女性の手では「T」や「Shift」「Ctrl」など端っこのキーが届きにくいこと。本体が大きすぎるのも気になる。上下幅は通常のキーボードの1.5倍ほどあり、かなりのスペースを取る。
だがそれも些細な問題。ShiftやCtrlは、自由に動く右手を使って右手側のキーを押すことで解決。大きさは、デスクを整頓することで解決した。
ともかくこのキーボードがなければ、記者は今でもおそらく、まともに仕事ができていなかっただろう。今働けるのは本当に、エルゴノミクスキーボードさまさまである。まぁ、つまり、このキーボードがなければ、まだ仕事せずに済んだのかもしれないが……。
そんなわけで、記者と同じように「仕事や趣味にPCが必須なのに、手をけがしてギプスが取れない……」と悩んでいる人(はあまりいないかもしれないけれど)や、手首の調子が悪い人は、エルゴノミクスキーボードを試してみてはどうだろうか。
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