「ポケットに、本棚を」――Sony Readerはユーザーの心をとらえるか

» 2010年11月25日 19時49分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 ソニーは11月25日、かねてから国内投入を予告していた電子書籍リーダー端末「Sony Reader」を正式に発表した。その詳細なスペックなどは以下に示した別記事で詳しく触れているため、本稿では、同日にソニー本社で行われた発表会および事業説明会の様子と、Ustreamで中継されなかった質疑応答について紹介する。

音楽、映画、ゲームに続く第4の領域、それが「ブック」

野口不二夫氏 「ソニーの電子書籍の歴史は1990年のデータディスクマンDD-1から始まっている。2004年にLIBRIe、2006年以降米国でReaderを展開し、急激に成長した。LIBRIeがあったからこそ今がある」と野口氏

 Sony Readerは、米国をはじめ13カ国ですでに市場投入されており、日本は14番目となる。発表会の壇上に立った米Sonyのシニアバイスプレジデントを務める野口不二夫氏は、「ソニーはこれまで、音楽、映画、ゲームと数多くのエンターテインメントビジネスを展開してきた。そして第4の領域である『ブック』を日本でも展開したい」とし、再びかじを切り始めた電子書籍ビジネスへの意気込みを語った。

 野口氏は、「電子書籍ビジネスをしていると、3つの質問がよく寄せられる」と話し、それぞれの質問について反証した。1つ目は、「電子書籍により紙出版のビジネスはどうなるか」というもの。この問いに対し野口氏は、紙の書籍市場に電子書籍市場が加わり、市場が拡大するという調査結果を示し、電子書籍市場は紙の書籍市場を食い荒らすものではなく、共生の方向に進むだろうという見解を示した。

 2つ目は、「タブレットのような汎用端末があれば(Sony Readerのような)専用端末はいらないのでは?」というもの。野口氏が示したForrester Researchの予測では、今後、タブレットの方が出荷台数は伸びるとしつつも、専用端末は汎用端末と比べて約5倍のコンテンツ利用があるとし、専用端末とコンテンツでビジネスになると説いた。

 そして3つ目は、「デジタル技術によってビジネスモデルは変わるかどうか」。これに対して野口氏は「変わる」と回答。わずか15年前に登場したデジタルカメラは今や大きな産業に成長したが、光学技術や撮影ノウハウ、撮影シーンなどのアナログな部分は消えることなく継承され、加えて、ネット共有やデジタルフォトフレームなどの新しい体験が加わったと話し、そこに電子書籍市場にも通じるヒントがあると述べた。

同社の電子書籍ビジネスに対する懸念をデータを示しながら反証した

栗田伸樹氏 ソニーマーケティング代表取締役社長の栗田伸樹氏

 一方、ソニーマーケティング代表取締役社長の栗田伸樹氏は、国内市場の3本柱として、テレビビジネスのさらなる強化と、同社の総合戦略であるカメラ、そしてニュービジネスを挙げた。このうち、テレビ、カメラは順調であり、ニュービジネスが今回の電子書籍市場参入だと話し、非常にポテンシャルのあるこの市場に対し、「作り手の思いを受け止め、読み手の期待に答えるビジネスをしていきたい」と述べた。

 続いて栗田氏は、「1カ月に消費者が購読する書籍と人数構成比を示した調査結果を見ると、月に3冊以上購読する21%の消費者で書籍全体の63%を占めているおり、週に1冊読む人が2000万人存在する」と話す。そして、まずはこの2000万人の読書好きにフォーカスし、読書を楽しむ専用機としてReaderを提供すると説明。そうしたユーザーは、本の保管スペースや可搬性といった問題を解消するものとして電子書籍に期待を寄せているとし、そのニーズにReaderで答えられるのだという。

 そして、約1400冊もの電子書籍を収録可能なReaderの特徴を際立たせるために、実際に1400冊の紙書籍を飾った巨大な本棚を披露、月3冊読むとして38年分の電子書籍を1台のReaderで持ち運ぶことができる魅力を「ポケットに、本棚を」と称し、Readerをアピールした。

1400冊の書籍を並べ、これだけの量がポケットに収まるメリットを強調した

 「本の文化は何世紀にもわたって育まれてきたもの。デジタル時代の新しい読書文化の発展に寄与したい」(栗田氏)

厳しい質問が寄せられた質疑応答

 今回の発表会と事業説明会はUstreamでも中継されたが、質疑応答はカットされた。以下では、どのような質問があったのか、また、それに対する同社の回答のうち、重要度の高いと思われるものを厳選して一問一答形式でまとめた。なお、発表会終了後に記者が個別に確認した点も含んでおり、質問と回答は文意を損なわない形で再構成した。

―― 今回国内市場に投入されるのは、5型ディスプレイの「Pocket Edition」と6型ディスプレイの「Touch Edition」だが、北米市場で販売している3G+WiFi通信機能内蔵の「Daily Edition」を投入しなかったのはなぜか?

ソニー 日本でできる限り早く発売したかったのでまずは2モデルからの提供とした。正直なところ、3Gのビジネスモデルが成り立つのかどうか検討しているが、まだ答えが出ていない。今後順次検討したい。

―― 昨日、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社で電子書籍配信事業の準備会社を「ブックリスタ」として事業会社化したが、Reader Storeのコンテンツはそこから供給を受けるのか。また、ブックリスタ以外から供給を受けるのか?

ソニー 前者についてはそのとおり。後者については、現状では想定していない。

―― 機器認証はMy Sony IDとひも付けた形で行うのかどうか。また、1つのMy Sony IDに対して何台まで機器認証は可能か。

ソニー 機器認証はMy Sony IDとひも付けて行う。認証可能な機器数は検討中。My Sony IDと購買履歴をひも付けることで、コンテンツの再ダウンロードも可能にする。出版社や作家の権利問題もあり、まだ詳細は話せない部分もある。

―― 米Sonyからは、iPhone/iPad/Android向けの電子書籍ビューアアプリ「Reader Store」の提供がアナウンスされているが、こちらは国内でも提供するのかどうか。また、その場合の機器認証はどうするのか。

ソニー 電子書籍ビューアアプリ「Reader Store」の提供は、米国などでは開始するが、国内ではコンテンツのユーセージについてもう少し詰める必要があると考えており、提供タイミングは異なる。これらの機器認証については検討中。

―― Timebook Townで購入したコンテンツはどうなる?

ソニー 利用できない。

―― アップルはiPad(あるいはiPhone/iPod touch)とiBookstore(iBooks)を不可分なものとして取り扱っており、事実上ストアとデバイスを1対1で結びつけている。対してAmazon.comは、スマートフォン向けにアプリを提供するなど、ストアとデバイスが1:nのモデルで勝負している。ソニーの戦略は後者に近いように映るが、どう考えているのか。

ソニー 米国ではハードを低価格で提供するモデルもあるが、ソニーはハードでもソフトでもしっかり利益を出していく考え。つまり、ビジネスモデルとしてはハイブリッド。価格ではなく商品の魅力を訴求していきたい。

―― 海外での販売実績と国内の販売目標は?

ソニー 海外での販売実績については、2009年は30〜35%のシェアだったが、2010年はシェアが低下している。これは、全体的に価格が下落傾向にあること、新規参入が多いことが原因だが、米国でも売り切れが続出しており、評判はよいと感じている。国内では1年で30万台を販売したいという思いがある。専用機ビジネスは数年後に100万台を超えるとみているが、そこでシェア50%を目指したい。


 コンテンツ配信にレコメンド機能やテーマを設定した提案型のテイストを加味するなど、本を「見つけること」「読むこと」をエンターテインメントに昇華させたいという意欲を示したソニー。しかし、「Daily Edition」の投入を見合わせるなど、インフラ、あるいはプラットフォーム部分が(技術的ではなく)ビジネス上の問題でもろい印象もあるというのが正直なところだ。Sony Readerの国内市場投入がデジタル時代の新しい読書文化の発展を担うものになるかどうかはまだ見極めが難しいが、12月10日の発売以降、ポケットの中にその居場所を見つけることができるか注目したい。


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