ノートPCも「MADE IN TOKYO」――日本HPの昭島工場見学ツアー世界シェア首位のPCを“日本の心”で

» 2011年08月30日 07時39分 公開
[ITmedia]

「MADE IN TOKYO」でノートPC市場のシェア拡大を目指す日本HP

東京都昭島市にある日本ヒューレット・パッカードの昭島工場

 「私たちの自信作に、ノートPCが加わりました」――2011年8月8日、日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)がノートPCの国内生産を東京の昭島工場で開始した。世界のPC出荷台数でトップシェアを持つHPは、そのスケールメリットを生かすために、生産拠点を海外(主に中国)に置いている。しかし、昭島事業所の清水所長が「世界トップシェアのPCを“日本の心”で作り上げる。顧客に求められるPCベンダーを目指していきたい」と語るように、ここ日本においては古くから「MADE IN TOKYO」にこだわってきた。

 “ユーザーに最も近いITカンパニー”をスローガンに掲げるこの取り組みは、旧Conpaq時代の多摩事業所(あきる野市)で法人向けデスクトップPC製品の生産を開始した1999年までさかのぼる。その後、2001年にはワークステーション製品を、2003年には今の昭島事業所に拠点を移転して、個人向けデスクトップPCや一体型デスクトップPCの生産も手がけている。「HP Pavillion」シリーズのユーザーは、誇らしげに張られた「MADE IN TOKYO」のラベルを見たことがあるだろう。

 なぜ海外ではなく、国内生産にこだわるのか。確かにコスト面では不利になるが、その一方で品質の向上や納期の短縮化、サービス面でのきめ細かいカスタマイズを顧客に提供できるという利点がある。また、物流の拠点を東京に置くことで、完成品を空輸する際の輸送費や販売パートナーの在庫を削減できるため、トータルコストで見た場合のメリットも少なくない。そして何より、短納期を求める顧客に対する機会損失を最小化するのが狙いだ。

日本HP昭島事業所長の清水直行氏

 実際、ローカルに生産拠点を持つという、HPにとっては稀なケースでありながら、日本国内のデスクトップPC事業は順調に伸びているという。今回ノートPCの一部で「MADE IN TOKYO」が可能になったのは、これまでの取り組みが米HPに認められた結果でもある。

 今後日本HPが注力していくコンシューマー市場、特に国内PC総出荷台数の7割を占めるノートPC市場でさらなるシェア拡大をめざすには、この“東京生産”は重要な戦略の1つになる。例えば「これまで2週間かかっていた納期が5日に短縮されれば、(月内での納品を求める顧客に対して)一カ月のうちの9日間、3分の1に相当する期間を営業チャンスに当てられる」(岡副社長)ことになる。

 日本HPのノートPC市場シェアは現在14%で第4位につけているが、単純に納期を短縮したぶんの成長が見込めるとするならば、市場シェア18%前後のトップグループに続く道が見えてくる、というわけだ。

“東京生産”は1999年に始まった(写真=左)。拠点を東京に構えることで、短納期や信頼性の向上に加えて、きめ細かいサービスが可能になるという(写真=中央)。ユーザーが希望するイメージファイルのロードや、企業導入の際に手間を省く管理タグの発行など、顧客の細かい要望にあわせてカスタムインテグレーションサービスを提供している(写真=右)

 なお、現段階で国内生産されるノートPCは法人向けの2機種のみだが、今後段階的にコンシューマーモデルも拡充していき、将来的にはカスタマイズの余地がないNetbookのようなモデルを除いてすべて東京生産を目指すという。日本HPが先日実施した昭島工場見学ツアーの模様をリポートしよう。

1日6000台の生産能力を持つ昭島事業所

生産ラインは建屋内の3階にある

 昭島工場では300人強のスタッフが6つのラインを稼働させている。工場の1階を入荷/出荷エリアにあて、4階を生産部材の保管場所に、3階でPCの組み立てからシステムインテグレーション、梱包までを行う。

 PCの製造ラインは、部品の組み立てに始まり、対話式のテストによる初期動作試験とシステムに高い負荷をかける連続動作試験、ネットワーク経由によるOSとアプリケーションのインストール、そして抜き取り検査および梱包と進む。

 1つのラインには最大10人の作業者がつき、稼働状況に合わせて人数が調整されている。短いライン構成での組み立てと、部材のバーコード管理やソフトウェアの自動インストールにより、1日6000台の生産能力を実現した。1台の生産にかかる時間はハードウェア構成によって異なるが、デスクトップPCは2.5時間から3時間、ノートPCでも6時間程度で生産が完了するという。注文から5営業日で出荷できるのは、こうした最適化が行われているためだ。

製造ライン。BTOにより仕様が1台1台が異なるため、組み立て部材はすべてバーコードで管理されている。間違ったパーツが選択されるとエラーが表示されるため、組み立て時の間違いがない

組み立てが完了したPCは初期動作試験に回される。これはネットワーク経由で検証用ソフトをダウンロードし、対話式で行われる。このときもハードウェア構成が注文と一致しているか自動的に検査される(写真=左)。続く連続動作試験では、システムに負荷をかけた状態でクーリング機能などが正しく動作しているかどうかが確認される。人の手を介さずにこれもサーバ経由で自動的に行われる。OSやソフトウェアのインストールも自動で行われる。どのソフトウェアをインストールするかはサーバで管理され、このときに顧客が設定したイメージなどもロードされる(写真=中央)。「MADE IN TOKYO」のラベル(写真=右)

出荷前に梱包済み製品からの抜き取り検査などが行われるほか、長距離のトラック輸送を想定して、1000キロ走行したときと同じ状態をシミュレートする振動テストもある。これは設計段階での負荷テストとは別に実施される日本HP独自の負荷テストだ(写真=左)。工場内では段ボール製のパレット(特許)が使用されていた。実際に持ってみると、木のパレットに比べて非常に軽い。購買・廃棄コストが削減でき、リサイクルできるエコ仕様だ(写真=中央)。フロアを貫くエレベーターでめでたく出荷されていく(写真=右)

HPのPC事業は今後どうなる?

日本HPパーソナルシステムズ事業統括の岡隆史副社長

 なお、昭島工場見学ツアーには、日本HPパーソナルシステムズ事業統括の岡隆史副社長も出席した。同氏は、昭島工場での“東京生産”が日本のコンシューマー市場で日本HPが存在感を高めていくうえで必須の戦略になると説明する一方で、8月18日(現地時間)に米Hewlett-Packard(HP)が発表した、webOSを搭載したハードウェア事業の撤退と、PC事業の“整理・確認”についても言及した。

 特に後者については「HPがPC事業を撤退するとの見方もあるようだが、これは誤り」と否定したうえで、「選択肢の1つとして事業分離や分社化もありうるが、これも明言しているわけではない」とコメント。同社パーソナル・システム・グループ(PSG)の2010年の売り上げが40billion(80円換算で3兆2000億円)に達し、営業利益も2011年3Qで5.9%だったことについて触れ、「6%近い営業利益を確保する会社はPC業界にはない。売り上げも利益も高く、非常に健全だ。また、ワークステーションやシンクライアントなどの高収益事業もある」と強調した。

 その一方で、「ただし、webOSをやめる状況でPC事業が健全だからと何もしないのであれば、個人的には逆に心配でもある。(米HPの発表は)今後PC事業をさらに強化するために、あらゆる手段を講じていくという意思表明としてとらえてほしい。仮に分社化して1つの会社になった場合でも、単独で業界のリーダーになる規模を持つ。PC事業の再構築について、検討から実行までに12カ月から18カ月の期間を設けているが、1年以内には方針を打ち出すだろう。(日本HPとしては)ビジネスを変わらず継続していく。我々が見なければならないのは顧客であり、重要なのは顧客にメリットを提供することだ。今のオペレーションをどうやって磨き上げていくかに注力していく」と語っている。

 このほか、webOSのハードウェア事業は撤退するするものの、webOS自体についてはソフトウェアを生かす選択肢を模索するとともに、スマートフォンやタブレット端末をやめると明言したわけでないことも付け加えた。

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