東芝、電子書籍専用端末「BookPlace DB50」リリースの理由

» 2012年01月26日 19時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
デジタルプロダクツ&サービス社 デジタルプロダクツ&サービス第一事業部の長嶋忠浩事業部長を中央に、ゲストとして招かれた作家の井沢元彦さん、タレントの三浦奈保子さん。手にはこの日発表された電子ブックリーダー「BookPlace DB50」が

 東芝が1月26日に発表した電子ブックリーダー「BookPlace DB50」。スペック周りについては速報でお届けしたこちらの記事を参照いただくとして、本稿では同日開催された記者発表会で明らかになった点などを紹介する。

高い? 安い? 類似スペックの製品と比較したBookPlace DB50

 まずは基本的なスペックの確認から。BookPlace DB50の特徴を「電子書籍にコミットしている7インチの液晶タブレット」とし、競合製品に当たるものをピックアップしていくと、Amazon.comのKindle Fire、Barnes & Nobleの「NOOK」、Koboの「Kobo Vox」、パナソニックの「UT-PB1」などがある。それらの主要なスペックを並べたものが以下の表だ(いずれも画面解像度は600×1024ドットで、通信方式はIEEE802.11b/g/n)。

  BookPlace DB50 Kindle Fire NOOK Tablet Kobo Vox UT-PB1
メーカー 東芝 Amazon.com Barnes & Noble Kobo(楽天) パナソニック
本体サイズ(※最厚部) 120(幅)×190(奥行き)×11(高さ)ミリ 120×190×11.4 127×205.7×12.2 193×129×12.7 133×206×13.9
重量 約330グラム 約413グラム 約399.7グラム 約404グラム 約400グラム
内蔵ストレージ 8Gバイト 8Gバイト 16Gバイト 8Gバイト 8Gバイト
価格 2万2000円前後 199ドル(約1万5500円) 249ドル(約1万90000円) 199.99ドル(約1万5500円) 2万9800円
BookPlace DB50とスペックが近い製品とを比較したもの

 上記スペックで比較すれば、DB50はほかの製品と比べ軽量で本体サイズも薄く仕上がっているが、価格面では高い部類に属する。ただし今回、東芝はBookPlace DB50の購入者にBookPlaceで使える5000円分のポイントを付与するとしており、これを加味すると実質的な価格差はかなり狭まる。日本でサービスが展開されているかどうかという観点に立って考えれば、専用機としては堅実な作りで、登場時期に見合ったスペックと価格帯だといえる。

本体底面にはMicroUSB端子とヘッドフォン(3.5ミリピンジャック)端子、外部スピーカー(写真=左)/本体上部。電源ボタンのほか、CONTINUE、BACK、MENU、VOLUMEなどのボタンが(写真=中央)/本体左側面。左側面のフラップを外すとMicroSDカードスロットが(写真=右)
Kindle Keyboardとの比較

なぜ専用機?

BookPlace DB50

 東芝は2011年4月に映像事業とPC事業を統合し「デジタルプロダクツ&サービス社」を発足している。BookPlace DB50は同社のAndroidタブレット「REGZA TABLET」などと同様、ここから世に送り出される。

 ところで、液晶と異なる特性を持つ電子ペーパーを搭載した電子書籍専用端末は、その特性の違いから国内でも一定の支持を受けているものの、液晶を搭載した他社の電子書籍専用端末は汎用機への路線変更が発表されたり、汎用タブレットの陰に隠れがちだったりと、いずれも厳しい状況にあえいでいる。BookPlace DB50はAndroidベース(東芝はLinuxベースと表現)で、設定画面で確認する限り、Android 2.3.4ベースだったが、なぜ東芝は(汎用の)Androidタブレットだけでなく、電子書籍専用端末の投入を決めたのだろうか。ここからは、デジタルプロダクツ&サービス社 デジタルプロダクツ&サービス第一事業部の長嶋忠浩事業部長の言葉を基に考えてみたい。


長嶋忠浩事業部長 デジタルプロダクツ&サービス社 デジタルプロダクツ&サービス第一事業部の長嶋忠浩事業部長

 同社の試算によると、現在、国内の世帯PC保有台数は5600万台。これまでは「一家に1台」という感じで普及が進んできたPCだが、Ultrabookやタブレットの登場により東芝が次に来ると見込んでいるのは「一家に1台」を超えた「ひとり1台」の時代。その潜在需要は5200万台と上述の数字に比肩するポテンシャルを持つ。しかし、そうした層に訴求するには、通り一遍のものではなく、それに応じたマーケティングアプローチが必要だというのが同社の基本的な考えだ。

 そして、タブレットの主な利用用途で電子書籍の閲覧がインターネット閲覧に次いで上位に来ているという事実と、国内の電子書籍市場の成長率が見込まれるという予測を併せて考えると、汎用機ほどのリッチな機能は備えないものの、価格が安く、設計を目的に特化させることができる専用端末にも一定の需要が見込めると東芝は考えている。

 ではなぜこれまでの電子書籍専用端末は波に乗れなかったのか。長嶋氏が電子書籍市場拡大のポイントとして挙げたのは、「コンテンツ数」「端末の価格」「使いやすさ/読みやすさ」の3点。つまり、端末が高い上に(専用機なのに)使い勝手が悪く、そしてコンテンツが少なかったのがこれまでの電子書籍専用端末が抱えていた問題だというのだ。

 このためBookPlace DB50の発売に当たっては、現時点で5万点、3月末までに10万冊まで拡大予定だという電子書籍ストア「BookPlace」のコンテンツ数はもちろん、ポイント付与という電子書籍の閲覧も促進できる策で実質的な端末価格を普及価格帯に近づけ、さらに簡便に操作できるようホームボタンや直近に戻れるバックボタン、コンティニューキーなどのハードウェアキーを厳選した。使い勝手が本当によいのかは検証も必要だが、いわゆる反転本(背景を黒、文字を白)設定や、テキストデータから音声を生成する東芝独自の音声合成機能「TOSHIBA Speech Synthesis」による作品の読み上げ機能などは、例えば高齢者が電子書籍に触れる際のハードルを下げる効果は期待できそうだ。

 長嶋氏は「最終的には汎用機の割合が高くなると見ている」と断った上で、「電子書籍を一般層に知っていただく、あるいはより多く触れていただくための起爆剤として専用機は今の時期重要」とBookPlace DB50投入の意図を語った。

 「東芝としては専用機と汎用機の両面でシェアを獲得していきたいと考えており、専用機が厳しいのでまた違う手を考えるとかということではない。また、端末とコンテンツの双方で利益を出していきたい」(長嶋氏)。

 事業目標については、「月2冊以上本を読む読書好きは1500万人」――毎日新聞社のデータを基に東芝が試算したこの数字がBookPlace DB50の具体的なターゲットであると長嶋氏は説明、その1割に当たる150万人を2015年度までにBookPlaceの会員にしたいと述べた。なお、現時点におけるBookPlaceの会員数については「(上記目標の)1%弱程度」と紹介された。また、売り上げ目標としては、端末とコンテンツ販売を合わせ、2015年度で400億円程度と見込んでいるという。

 ハードウェアデザインを見る限り、海外での販売も視野に入れていそうな印象だが、長嶋氏は当面は国内でのみ販売するとしながらも、「具体的な時期や展開地域についてはここでいえないが、海外での販売も検討している」と明かした。

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