「インマルサット」「イリジウム」で真冬の海からFacebookに入電せよ勝手に連載「海で使うIT」(4/4 ページ)

» 2013年01月03日 22時00分 公開
[長浜和也(撮影:矢野渉),ITmedia]
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時化る冬の太平洋で衛星携帯電話を使ってみた

 すでに検証したことのあるイリジウム衛星携帯電話はいいとして、これまで、大掛かりなアンテナを必要としていたインマルサットで、Isat Phone Proのようなアンテナ一体型の携帯電話が、外洋でゆれる小型ヨットでも使えるのだろうか、というのは、SEA JAPANで実物を手にしたときからの疑問だった。揺れない陸上で静止した状態で使うことを前提とする端末ということも十分ありえるからだ。

 そこで、できるだけ厳しい海象における外洋でも、Isat Phone Proで安定した通信、特にSMSによるSNSへのメッセージ投稿が可能なのかを確認するため、12月末に伊豆諸島東方海域に進出し、全長8メートル(26フィート)の小型帆船で検証した。検証したときの海象は、北東の風、風力5から6、ヘッドセイルに3番ゼノアを揚げ、メインセイルは一段縮帆の状態にて、クオーターリーで南下、クローズホールドで北上という、動揺が激しい航海で行っている。

 Isat Phone Proはアンテナを本体に収納した状態では通信できず、衛星からの電波も捉えない。通信を行うにはアンテナを展開し、赤道上空3万6000メートルにあるインマルサット通信衛星を検索し、ネットワークを確立しなければならない。このとき、衛星からの電波を捉えることができるように、上空、特に南に面したエリアには障害物がない、クリアな状態にする必要がある。

 航海で検証した結果、アンテナ展開からネットワークを確立するまでに要する時間は、港でも洋上でも約1分程度だった。船の動揺には関係なく、電波を捉えていればこの時間は変わらない。また、南下する航海において南側に広がっていたセイルは、Isat Phone Proが捉える電波の強度に影響しなかった。ただし、船の構造物が形成する壁や人間がつくる影によって、いきなり圏外になることも多く、船の針路によって、Isat Phone Proを設置する場所を変える必要があった。また、キャビンの中では、ほぼ圏外となって使えなかった。

 SMSによるデータ通信の安定性は、テキスト量がほぼ一定のGPS Fixデータの送信時間で検証したが、揺れない港では、ほぼ30秒で送信が終了するメッセージが、最も沖合いに進出して動揺が激しかった状況では、約2分かかるなど、通信時間に大きな違いが発生している。なお、GPS Fixデータの取得に要する時間は、港でも外洋でも、30秒から1分程度だ。


 従来は、個人の小型船舶で運用するのはとても無理だった衛星電話も、低価格のアンテナ一体型ハンディ端末が登場したことで、ハードウェアの購入や設置が容易になり、基本利用料も日常で使う携帯電話サービスとほぼ同じ価格帯になった。通信コストも最小課金が55円、または160円からで、さらに、SMSを使えば1回の送信で100円もかからない。PCと接続したデータ通信は、その機能を有しながらも日本では利用できないが、SMSからSNSを利用すれば、コミュニケーションだけでなく、創意と工夫次第で実用的なサービスが実現する可能性もある。2400bpspや64Kbpsという低速データレートでパケット通信を行うよりよほど実用的だ。

 陸から遠く離れた超長遠距離通信において、小型船舶ではアマチュア無線を主な手段として利用してきたが、無線機の購入費用、遠距離通信を可能にするリグの設置と運用技術、さらに、陸上側のワッチスタッフの負担などを考えると、インマルサットやイリジウムなどの全世界規模の衛星電話は、簡単確実で、応用範囲が広い通信手段といえる。消費電力もアマチュア無線機と比べて圧倒的に少なく、かつ、USB経由でモバイルバッテリーからの充電も可能だ。

 近海区域の航海のみならず、1級船舶免許が必要になる海域の航海を考えているなら、Isat Phone Pro、または、9575 Extremeといったハンディタイプの衛星電話を、標準安全備品として用意することを考えてもいい時代になった、といえるのではないだろうか。

Isat Phone Proも9575 Extremeもmicro USB、またはMini USB経由でモバイルバッテリーから充電できる

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