「予告編詐欺」な製品が増えているワケ牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2014年02月21日 12時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

増加する「予告編詐欺型」セールス

 画期的もしくはお買い得として発売前から注目を集めたガジェットが、出荷された途端「その域に達していない」ことが判明して大炎上するのは、この世界では日常茶飯事といえる。過去1〜2年を振り返っても、アレとかアレとか、さらにアレとか……具体名はここではあえて挙げないが、すぐに思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。

 もちろん作る側も、望んでそのような「地雷」アイテムを世に送り出そうと企図したわけではないだろう。高尚なコンセプトを掲げて企画開発をスタートしたが、どこかのタイミングでそれがひん曲がってしまい、納期に押され、周囲からまだかまだかとプレッシャーをかけられ、最終的に不完全なままリリースせざるを得なくなり、炎上するというのが、多くに共通するパターンだと考えられる。

 最近こうした例が増えた(かつ、炎上力が増した)ように見えるのは、ネットの影響が大きい。発売と同時にゲットしたアーリーアダプタ層が、SNSやブログ上で同時多発的に不満をぶちまければ、話題になって当然であり、炎上していること自体がさらにニュース化することも、その是非はともかくとして、成り行きとしては不自然なものではない。

 もっとも、完成度の高い製品が同様のプロセスを経て評判が広まり、ファンサイトが次々と作られ、それが製品の大ヒットにつながるケースもあることを考えると、「ネットが諸悪の根源である」という見方は短絡的だろう。ネットによって増したのは拡散力であり、そこに乗っかるのがよい評判か、悪い評判かというだけだ。

 しかしそもそもの問題として、これだけITリテラシーの重要性が叫ばれるようになり、意識がむしろ高いとみられるアーリーアダプタ層のユーザーが、満足に動作するサンプルすら出来上がっていない製品の予約にこぞって押し寄せ、盛大に地雷を踏んでいるのは、むしろ自身にも非があるように見える。これが仮に、ショールームで動作している実機を見て購入を決意し、送られてきた製品がまったく別物であれば、怒って当然だ。

 前述のようなケースでは、まだ実機が存在しないプロダクトに勝手に期待を膨らませた挙句、自ら地雷原に突入していっているわけで、「メーカーはこう言っているが、本当にこうした機能が実現できるのだろうか」「実現できたとして、どこか別の落とし穴はないだろうか」と慎重になれば、100%は無理だとしても、回避率は上げられる。

 ただし、最近のケースを見ていると、発売前から期待感をあおって予約販売を行うセールス手法そのものの増加が、こうした炎上の土壌になっていることも否定できない。予告に期待したが現物はまるで違ったという、映画さながらの「予告編詐欺型」とでも呼ぶべきセールス手法の急激な増加に、これまでであれば慎重に見極めることに成功していたユーザーですら、つけこまれる状態になっているのではないか。

 今回は、こうしたセールス手法の裏事情を見ていこう。

地雷を踏んでおきながら「あれはお布施」と強弁する人々

 「予告編詐欺型」セールスのパターンは大きく分けて2つある。1つは、開発段階からそのコンセプトや試行錯誤の開発ストーリーをユーザーと共有し、まだ完成していない現物に共感させ、「あなたは製品立ち上げ段階から見守ってくれていた大事なファンです」という待遇を与え、それと見返りに予約を受注し、一気に売り切り、そして炎上するというパターンだ。ここでは「ストーリー共有型」と呼称する。

 もう1つは、製品が作り出す輝かしいライフスタイルをイメージ写真を使ってこれでもかと盛り上げ、かつ他社製品と比べた価格のリーズナブルさをアピールしつつ、さらに数量限定といった従来型プロモーションの文句を織り交ぜて予約を受注し、以下同文、というパターンだ。呼び名は「ライフスタイル提案型」とでもしておこう。

 この両者は、作り手が前面に出るか出ないかといった違いはあるが、きちんと動作する製品が姿を見せないまま話が進行し、出荷に向けて予約を積み重ねるというパターンは酷似している。繰り返しになるが、もちろん最初からユーザーをだます前提で話が進行していたわけではなく、どこか途中でネジが外れておかしなことになるのだが、出荷を止めずに強行してしまっている時点で、やはり責められるべき面はある。

 こうしたケースが発生した際、ユーザーがみすみす受け入れてしまうのには、いくつかお決まりのパターンがある。例えば、セカンドロットで予約を待つユーザーによくあるのが、いち早く入手したユーザーから悪評を聞いたにもかかわらず「せっかくここまで待ったのだから」といった意識が邪魔をして、キャンセルの機会を逸してしまうパターンだ。お祭りに参加している感覚なので、途中で抜けるという選択肢を持たず、分かっているのにあえてダメージを受けるという、自虐的なケースといえる。

 そしてもう1つ、これは前者の「ストーリー共有型」によく見られるケースとして、地雷を思い切り踏んでおきながら「あれはお布施なので」と言い訳をするパターンがある。まったく新しいジャンルの製品開発には試行錯誤がつきもので、失敗するかもしれないことは最初から薄々感づいていた、ゆえにギャンブル的に投資したのであって、今回は残念ながら地雷だったが、次期製品の開発に役立ててくれればいい。今回はいわばお布施だ、そう公言するユーザーだ。

 メーカーがもう少し検証期間を延ばして完成度を高めれば地雷でなくなったかもしれないのに、その可能性を考慮せずに「お布施なので」の一言で済ませる、実に太っ腹な人々である。

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