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» 2014年06月04日 12時00分 公開

本田雅一のクロスオーバーデジタル:iOS 8は「箱庭の解放」でさらに支持を高めるか (2/3)

[本田雅一,ITmedia]

デベロッパーとともに未来を創る路線へ

 アップルはiOS 8で、大きく分けると3つの方向で話をした。このうち、筆者が最も印象深いと感じたのは3つ目だが、順に話を進めよう。

 1つめは従来からのiOS改良路線だ。

 iOS 7で大幅に変えたユーザーインタフェースのデザインを磨き込み、機能的に充実させようとしている。個々の機能は魅力的だ。写真加工は、これまで単体製品として提供してきたアプリ「iPhoto」の一部を切り取ったかのような優れたユーザーインタフェースで簡単に行えるようになる。

グループメール機能が強化され、位置情報のシェアや、音声や動画の添付が手軽に行える新しい「iMessage」(メッセージ)

 メッセージ交換機能の「iMessage」は文字や写真に加え、音声や動画を録音・録画して返信したり、地図アプリ上の場所を埋め込むことが、タップとスワイプ操作で簡単に行える。電子秘書機能の「Siri」はより賢く情報を取捨選択し、検索機能はその幅を広げて情報へのアクセスを容易にする。

 iOS 8には非常に多くの機能が追加されているため、その1つ1つについては触れないが、iOS 7からのフィードバックを元に、丁寧にユーザーインタフェースや機能のブラッシュアップをしてきたことは容易に想像できる。どの新機能、改良点も、アップルオリジナルのアイデアではなく、世の中で評価された機能の集大成に見えるが、それも使いやすくなるのであれば、悪いことではない。

 全体の印象を言えば、iOS 8は、初めてフラットデザインを採り入れたiOS 7のときほど既存ユーザーを戸惑わせることなく、使いやすさを引き出せるのではないだろうか。とはいえ、あくまでもこれは表面的なものだ。

エンタープライズ向けに端末管理機能も強化する

 2つめは、今ある強みを生かして取りこぼしを減らす“足固め”とも言えるプランだ。

 iOS 8には、大企業向けの端末管理機能が用意される。これまで企業向けを得意分野としてきたBlackBerryが凋落(ちょうらく)しており、その顧客をマイクロソフトがWindows Phoneで受け止めている状況がある。Windows Phone 8.1ではWindows Serverを中心とした企業システムとの親和性、端末の集中管理やBYOD対策が大幅に強化されている。このまま放置すれば、Windows Phoneはある程度の地盤を得られるだろう。

 これに対し、iOS 8にも会議スケジュールの管理や不在時の自動返信機能、任意のクラウドストレージサービスを介したビジネスドキュメントの共有、端末機能の集中管理やセキュリティ設定管理などを強化することで、企業ユーザーとの結びつきを強めようとしている。まだ未評価のため結論は下せないが、妥当なプランだと思う。

「Health Kit」と「Health」は、ヘルスケア/フィットネス系デバイスの集中管理を実現

 「Health Kit」は、近年特に盛り上がっているセンサー付きヘルスケア用品との連動性を高め、iOSでデータの集中的な管理を行うための基礎となる機能を提供する。iPhoneを持ち歩いているだけで、一部のヘルスケアデータを取得できるようだが、他のiPhoneとつながるヘルスケア、フィットネスとの連動する仕組みが提供される。

 これと対となる標準アプリ「Health」は健康管理の総合アプリとして設計されている。盛り上がりを見せているヘルスケア/フィットネス系のウェアラブルデバイスだが、それらを活用するには、それぞれに異なるアプリを使いこなさねばならない。アップルはiOSの中にそれらセンサーからデータを受け取る窓口を作ることで、このトレンドをiPhoneの新たな魅力の1つへと育てようとしているのだろう。

 同様の機能としてアップルは「Home Kit」もiOS 8に盛り込んだ。これはネットワーク制御が可能なさまざまな家電製品(電磁ロックやインターフォン、照明などあらゆる家電)とiPhoneをつなぐためのインタフェースになる。昨年発表された位置検出が可能なiBeaconとの組み合わせで提案されることになるはずだ。

 そして3つめ。iOS 8において最も重要な点が、デベロッパーとって、より魅力的なスマートフォン用基本ソフトであろうとしていることだ。開発者の視点から見て、より魅力的な、新たなアプリを作りたくなる基本ソフトとすることで、iPhone/iPadの進化を加速させようとしている。一般ユーザーからは、直接的な利点として見えにくいが、実はiOS 8で最も進化しているのがこの部分だと思う。

 まず、アップルはアプリ間の連携を高める機能を追加した。これまで複数のアプリを組み合わせ、1つの作業を進めるといったパソコン的な処理フローには大きな制限があったが、iOS 8ではセキュリティを高めながら連携する仕組みを提供する。

写真を水彩画風に変換するフィルターのデモ。アプリ間の連携強化により、アプリの実装方法にも変革をもたらそうとしている

 こうすることでアプリの応用範囲は広がり、連携することを前提にした、より専門性の高いアプリの登場も期待できる。デモでは人気の水彩画変換ソフト「Waterlogue」と思われる画像加工プログラムを用意するシーンがあったが、アプリ間の連携がスムーズになれば、完全なアプリとしての実装ではなく、ユーザーインタフェースやデータ管理は既存のデファクトスタンダードとなっているアプリに任せ、得意な機能に特化することで差異化できるようになるだろう。個々のアプリが、別のアプリの部品のように動作できるとするなら、iOS向けアプリ市場に大きな変革をもたらす可能性がある。

 パートナー企業にソフトウェアキーボードの開発を許した点も大きなトピックだ。これまでアップルは、セキュリティ対策に絡んで文字入力用プログラムの追加、差し替えをアップルは許していなかった。

 しかし、今回の変更で、例えば日本語ならばジャストシステムが参入し、iPhone、iPadに対してATOKを提供可能になる。アップル側の審査は厳しいと想像できるが、しかし言語ごと、国ごとに異なる文字入力の作法に最適化し、パートナー企業によるイノベーションを取り込むには必要なことだ。

従来はOpenGLを用いてGPUを使っていたところを、より薄いレイヤーでアプリケーションとGPUをつなぐ「METAL」

 「METAL」と呼ばれる新しいグラフィックスライブラリも興味深い。これはいわば、iOS版のDirectX(マイクロソフトがゲーム向けに提供している機能。ゲーム以外でも広く使われている)のようなものだ。従来はOpenGLを用いてGPUを使っていたところを、より薄いレイヤー(すなわちハードウェアとしてのGPUに近い。基調講演ではアップルのプロセッサA7が示されていた)でアプリケーションとGPUをつなぐ。

 それをそのまま使いこなせるならば、それでもよし。必要ならば……ということで、UnityやUnreal Engine、CryEngine、Frostbiteといった主要なゲーム用ライブラリセットがMETAL向けに提供されることが発表されている。もっとカジュアルにグラフィクスを使いたい向けに対しても、Splite Kitという2次元ゲーム用のより簡単なライブラリなどが用意される。

 METALを用いることで、今後も強化が続くスマートフォン向けGPUの能力を、より効率よく活用可能になる。これは流麗な3Dグラフィックスを用いたソフトウェアを、より低消費電力で開発できることを意味しており、これまで諦めていたタイプのゲームや3Dアプリケーションが、iOS向けに開発しやすくなる。

アップルの独自プログラミング言語「Swift」は、開発者にとって目玉とも言える発表だ

 そして開発者中心の来場者が最も興奮したのが、「Swift」というアップルオリジナルのプログラミング言語の紹介だ。アップルによれば、Swiftを用いることでフル機能のiOSアプリを、より簡潔に記述可能になり、また端末のパフォーマンスを高めることが可能になる。

 筆者はその後の開発者向けセッションを見てないため、Swiftがどれだけ従来の開発言語(Objective-C。設計が古くメモリ管理なども煩雑。記述も簡潔とは言えない)に対して優位性があるかは未評価だ。

 しかし、開発者会議であるWWDCでは、このSwiftを中心に多様なセッションが組まれるだろう。Swiftの発表を最後に持ってきたということは、開発者に向けて最も強いメッセージとして出したのがSwiftだったことは間違いない。

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