今から5年前、Appleは初代「iPad」を発表し、デジタル情報機器の世界に新しいカテゴリを生み出した。
世間ではただ形が似ているというだけでiPadをほかの「タブレットPC」と同類扱いする人も多かった。だが、実はiPadが持つ最大の特徴は「パソコン」ではないことだった。
iPadは米陸軍や米国トップ500企業など大企業での導入でも一定の成果を残したが、それ以上に大きな変化が起きたのは、パソコンによる情報革命に乗り遅れていた業界――例えば農林水産業やスポーツ、エンターテインメント、飲食、医療、教育といった業界の人々で、これら多くの業界ではまさに「21世紀化」とも呼べる大きな変化をもたらしていた(これは筆者が執筆した毎日新聞経済プレミアムの連載「ITが変えるビジネスの近未来」を参考にして欲しい)。
一方で、すでにパソコンの普及が進んでいた業界では、例えば事務作業をするにはハードウェアキーボードの使い勝手が悪かったり、細かな作業をするクリエイターの道具としては指を使ったタッチ操作しかできないという理由で、定型フォームの入力やプレゼンテーション、外回り時のメールやWeb利用などやや限定的な使い方にしか利用されずにきた。
今回、1週間ほどiPad Proを試用してみて、同製品はまさにこうした状況を変える、各分野のプロフェッショナルが使うためのモデルであり、全iOS製品のフラグシップとも言える製品だと実感した。
それと同時に、いまこの製品が登場したことで、世界に旋風を巻き起こした“iPadという製品カテゴリ”が再定義されようとしているのも感じた。
インターネットなどで人々がiPad Proのどの部分に期待をしているかを調べてみると、とにもかくにも真っ先に「Apple Pencil」というキーワードが浮かぶ。
その期待は正しい。まるで本物の鉛筆のような感覚で手描きできるApple Pencilを触る楽しさは、おそらくほとんどの人の想像を凌駕(りょうが)し、大いなる満足をもたらしてくれるだろう。
筆者は今回のレビューの前にもiPad Proに2度触る機会があった。字を書くのも、絵を描くのも苦手な筆者だが、そこでも十分、大きな感動を得た。そして、家でじっくりApple Pencilを使うと、純粋に我を忘れて楽しむことができた。
だが、ここではいったんその魅力は脇に置いておき、iPad Pro本体そのものの魅力を改めて再認識してみたい。
なぜなら、iPad ProはApple PencilやSmart Keyboardといった別売アクセサリなしでも十分に魅力的なiPadだからだ。
iPad Proは、とにかく巨大だ。本体も巨大なら、画面も巨大。それでいて威圧感はなく表現は繊細だ。解像度が高く、色の表現力も豊かになっている。まさに写真や映像を少しでも美しく見せたいプロフェッショナルにとって妥協のない1台となっている。
画面はMacBookと比べても大きく、精細だが、それだけにとどまらない。AppleがRetinaディスプレイを搭載するiMacを開発した際に生み出した技術――例えば、正面から画面を見たときのコントラストをより高め、色の均一性を保つ酸化物TFTをiPad Proにも採用するなど、iMac相当ではないにしても、より繊細な画像/映像表現ができるようになっている。
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