面白いのは、これだけ本体が巨大でも威圧感のようなものがあまり感じられないこと。他のiPadシリーズ同様、画面に表示されるコンテンツだけを強調して、本体そのものの存在感を主張しないAppleらしいデザインのせいかもしれない。それどころか写真を撮る角度や持ち方、使っているアプリによっては、iPad Proの巨大さを忘れてしまうことさえある(そしてレビュー用にうまく巨大さが伝わる写真が撮れなくて困ることもある)。
iPad Proから威圧感をなくしているもう1つの秘密は、その薄さと軽さだろう。723グラム(Wi-Fiモデルは713グラム)の重量は、初代iPad(セルラーモデルは730グラム)とほぼ同じくらいだが、巨大さとのギャップからか、むしろ軽く感じてしまう。
ただし、いくら軽く感じても実際の重さが変わるわけではないので、iPad miniやiPad Air 2よりもホールドしていられる時間は短くなる。iPadはどちらかというとデスクやヒザの上に置いて使うことが多くなるはずだ。
iPadの楽しい使い道の1つに映画などの映像コンテンツを見ることが挙げられる。iPad Proは飛行機の備え付けスクリーンより圧倒的に大きく、クリアで気持ちいい。また、iPad Proでは乗り物の移動中だけでなく家や宿泊先のホテルで映画を視聴する体験もさらに楽しくなると思う。画面が大きくなっただけではなく、音も圧倒的によくなったからだ。
まず、これまでのiPadに比べて圧倒的に大きな音が出せるようになった。20〜30人くらいの収容を想定した会議室なら、わざわざプロジェクターやスピーカーにつながなくてもiPad Proの生画面、生音で十分プレゼン映像を見せられるはずだ。
ちなみにスピーカーは、本体の上下に2つずつ、合計4つ内蔵されており、音量も大きくなったのに加え、上になっている2つのスピーカーは高音を中心、下の2つは低音が中心と使い分けることでかなり繊細な音も表現できるようになった。
筆者がこれを実感したのは、後半の動画にも登場しているサッカーゲーム「FIFA 16 Ultimate Team」(EA Sports)をプレイしていたときに、大歓声とBMGにまぎれてシュートをはずした選手の罵声のような声が聞こえたことだ(確かにこれまでもヘッドフォンでプレイしていたときには聞こえていたが、iPad Air 2のスピーカーでは聞こえたことがない音だ。残念ながら後半のムービーでは、収録時の騒音がうるさく音は消してしまったので、是非アップルストアで音質を確かめてほしい)。
ちなみにスピーカーは、iPad Pro本体を回転させると、それと同期してスピーカーの左右/上下のチャンネルも回転する。いかにもアップルらしい配慮だ。
iPad Pro本体でもう1つ大きく進化している部分といえば、第3世代の64ビットプロセッサであるA9xの採用だ。公式ページによれば処理能力は、iPad Airの2.5倍、iPad Air 2の1.7倍高速で、グラフィックス性能に関してもそれぞれ5倍、2倍高速とのこと。
これを一番実感できるのは、おそらく4K映像編集に対応したiMovieを使って最大3本の4Kビデオ映像を合成し、レンダリングの待ち時間なしで即プレビューできることだろう。
これがどのくらいすごいことなのかは映像系の仕事をしている人にしか分からないかもしれないが、そこらのノートPCではなかなか処理が追いつかない負荷の高い作業だ。新しく4Kビデオ撮影にも対応したiPhone 6sシリーズとiPad Proの組み合わせは、もしかしたら最も機動性の高い4Kの撮影/編集システムになるのではなかろうか。
ちなみに、iPhone 6sとiPad Proを組み合わせて使おうと考えている人の中には、撮影した4K動画をどうやって転送すればいいのか疑問に思っている人もいるかもしれない。筆者のオススメはAirDropを使うことだ。実際に15分9秒の映像クリップを転送し時間を計ってみたところ、途中で多少進みが速くなったり遅くなったりはしたものの7分20秒で転送が完了した。
4K映像を複数同時に編集するような負荷のかかる処理にチャレンジせずとも、これまでのiOSデバイスの中で最も解像度が高く、これまで以上に軽快な動作ができている時点で、A9xの恩恵は日々感じることになるだろう。
iPad Proは誰のものか。32Gバイト/Wi-Fiモデルが9万4800円、128GバイトのWi-Fi+Cellularモデルが12万8800円(ともに税別)という価格からも、iPad「Pro」という名前からも、エンターテインメント用途というよりは、高性能なノートPCの代わりとして、しっかりと仕事で活用しようと思って手を伸ばす人が多いだろう。多くのノートPCを上回る性能や画面の大きさ、表示画質のよさは、きっとその期待を裏切らないはずだ。
一方で、4K画質でこそないものの、フルハイビジョンを大きく上回る解像感と色表現力を持ち、これだけ美しく大きな大画面と迫力のスピーカーを備えているとなると、Webから電子書籍、動画サービス、映画まで幅広く楽しめる究極のエンターテインメントシステムとしても十分価格に見合う価値を提供しているのではないかとも感じた。
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