PFUからHappy Hacking Keyboardシリーズの新モデル「Happy Hacking Keyboard Professional BT」(以下、HKKB BT)が登場した。2011年の「Happy Hacking Keyboard Professional Type-S」以来、実に5年ぶりの新製品となるHHKB BTは、シリーズ中初めてのワイヤレスモデルだ。PFUダイレクト価格は税込み2万9700円。25日より順次出荷される。
大きな盛り上がりを見せるHHKB BTの登場だが、その熱狂の理由をひも解く前に、まずはHappy Hacking Keyboardの歴史を振り返っておこう。
東京大学名誉教授、和田英一氏の提唱する個人用小型キーボードを製品化した初代モデル「Happy Hacking Keboard」(以下、HHKB)が発売されたのは1996年。1990年代前半まで広く利用されていたサン・マイクロシステムズ(2010年にオラクルに吸収合併)のワークステーション、SPARCStation用キーボード「Sun Type3」をモデルにしている。
変形キーなどで打ちやすさを犠牲にした省スペースキーボードが多い中、UNIXでの利用実態に合わせてキーを厳選することで「使いやすいコンパクトキーボード」を実現した。バリエーションやマイナーチェンジを除くと実に20年間、ほとんどモデルチェンジをしていないことからも当初からの完成度の高さが分かる。
その数少ないモデルチェンジの中で、特に重要な製品が2003年に発売された「Happy Hacking Keyboard Professional」(以下、HHKB Pro)だ。HHKB Proはそれまでのメンブレン方式から東プレ製静電容量無接点方式に変更した初めてのモデルになる。
静電容量無接点方式はHHKBシリーズと並ぶ高品質キーボード、東プレ「リアルフォース」の代名詞とも言える方式。静電容量の変化によってキーが押し下げられていることを検出する仕組みで、接点を接触させる必要がない。そのため原理的にチャタリングが起こらないほか、広く利用されているメンブレン方式で言われる底打ち(キーがそれ以上下がらないところまで叩くこと。手を痛める原因になる)せずにキー入力ができる。
メンブレン方式のHHKBは、打ち心地では静電容量無接点方式のリアルフォースにはかなわない、というユーザーは少なくなかった。そのため、HHKB Proの静電容量無接点方式の採用は当時、かなりの衝撃であり、リアルフォースからHHKB Proに流れたり、状況に応じて両方を使用するユーザが一気に増えた。
今では、HHKBとリアルフォースの関係はメンブレン vs.静電容量無接点方式ではなく、コンパクト vs. フルサイズ、クセのあるキー配列 vs. スタンダード配列、という構図になっている。
その後、USBハブ機能を備えたHappy Hacking Keyboard Professional2(以下、HHKB Pro2)、HHKB Pro2からUSBハブ機能を削ってカーソルキーを追加した日本語配列Happy Hacking Keyboard Professional JP(以下、HHKB ProJP)の2モデルが現行機として販売されている(原稿執筆時点)。また、メンブレン方式を採用した廉価なHappy Hacking Keyboard Liteシリーズも並行して販売中だ。
だが、いくら何年も先でも使える先進的な設計であっても、まわりの環境は変わっていく。初代モデル設計時には20年後にはスマートフォンやタブレットが普及し、若年層やシニア層ではPCよりも広く利用されるようになる、という未来は想定されていなかっただろう。そして、それらモバイルデバイスが周辺機器とのインタフェースとして広くBluetoothを採用するようになることも想定外だったはずだ。
HHKBは自分自身のモデルチェンジは行わなかったものの、2014年にCerevo社とのコラボ製品、EneBRICK HHKB Editionを発表した。EneBRICKは6000mAhのモバイルバッテリー、USB-Bluetooth変換アダプタ、スマートフォン/タブレット用スタンドが一体化したガジェット。これによってHHKBに給電しつつ、USBをBluetoothに変換して無線化することが可能になった。
ただし、EneBRICKの重量は200グラム程度あり、HHKBと合わせると700グラムオーバーになる。EneBRICKは汎用的に利用できるモバイルバッテリーでもあること、スマートフォンやタブレット用のスタンドとして利用可能であることを考えると、HHKBのためだけに携帯するわけではないものの、かさばることは否めない。コンパクトで持ち運び可能なHHKBだからこそ、本体自身での無線化が望まれていた。
そんな待ち望まれている中で登場したのが今回のHHKB BTだ。熱狂をもって迎え入れられたのも無理からぬことだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.