Bluetooth搭載で「馬の鞍」は時代に追いついたか――Happy Hacking Keyboard Professional BTを試す5年ぶりの新モデル(3/3 ページ)

» 2016年04月19日 11時21分 公開
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2台目としてはアリ、1台目としては……?

 もともとHHKBシリーズは「理想の個人用小型キーボードとはどういったものか」という思想が色濃く出た設計であり、その根幹となるモデルからの大きな転換はないものと思われる(そういう観点からは日本語配列であるHHKB ProJの登場が最も大きなインパクトなのかもしれない)。

 そのためか、HHKB BTは良くも悪くも、HHKB Pro2/HHKB ProJのBluetooth版以上でも以下でもない。HHKBの既存ユーザーにとってはすんなり受け入れられるものであると同時に、他のキーボードからの乗り換えユーザーにとってはもう一つ後押しがあってもよかったのではないか、と感じさせられた。具体的には以下の3点の問題だ。

 一つ目はBluetooth専用という点そのもの。すでにHHKBシリーズを使用しているユーザーや、デスクトップではリアルフォースを使っているユーザーがモバイル専用として追加購入するのであればなんら問題になることではないだろうが、初めてHHKBシリーズを使おうという人にとって「モバイル端末だけ高級キーボード」というのはちょっとちぐはぐ感が強い。今以上にタブレットやスマートフォンがデスクトップPCに置き換わっていけば状況も変わるかもしれないが、モバイル端末にキーボードをつなごうというユーザーは今後もPCユーザーでもある可能性が高いはずだ。

 そういったユーザーは「PCでもモバイル端末でもHHKB BTを使いたい」と思うだろうが、HHKB BTをデスクトップPCとUSB接続して使用することはできない。この点でHHKB BTはHHKB Pro2/HHKB ProJの上位互換機ではない。では、デスクトップPCとBluetoothで接続すれば、という考えが浮かぶところだが、ここにも問題がある。それが二点目の問題、ペアリング済み端末が複数あった場合の切り替えが自動であることだ。その場合、どれに接続されるかは機器の検索状況などによって左右されるようで、何度か試してみたものの、確実にこちらになる、という方法を見つけることはできなかった。

 Wi-Fiのように自動再接続だけでなく、明示的に「デバイスに接続する」ことが指定できればよいのだが、Windows 10のBluetooth設定画面にはペアリング済みデバイスに対しては「デバイスの削除」しか行えない。デバイスを削除してしまうと再接続時にはHHKB BTをペアリングモードにした上で再度、デバイスの追加作業を行わなければならなくなる。

 そのため、運用として一番簡単なのは「一方に接続する際は他方のBluetoothをオフにする」ということになる。これで運用できるのであれば問題ないが、マウスやスピーカー、ヘッドセットなど他の機器もBluetoothで接続している場合にはちょっと手順が面倒かもしれない。

Windows10のBluetooth設定画面。接続済み/ペアリング済みデバイスに対して可能な操作は「デバイスの削除」のみ。デバイスを削除すると再度ペアリングから実行しなければならない

 三点目は自立できないスマートフォンやタブレットをどう固定するか、ということだ。直接的なHHKB BTの問題ではないとはいえ、ユーザーとしてはなんらかの対応は必要になる。そういった意味でモバイルバッテリー、Bluetooth、スタンドが一体化した上で180グラム程度のEneBRICKは秀逸なデザインと言えるが、キーボード本体のみでBluetooth通信が可能となったHHKB BTと持ち歩くのは(たとえすでにEneBRICKを所有している人にとっても)抵抗がある。

 もちろん、スタンドだけであればもっと軽量なものがあるので問題とすべきことでもないかもしれない。だが、HHKB BT自身にそういった機能があったらもっと便利だったのに、と思わずにはいられない。そうした機能を持つHHKB BT専用ケースの登場に期待したい。

複数の馬を乗りこなす現代のカウボーイにとっての「鞍」とは

 HHKBシリーズの誕生に大きく関わった和田英一名誉教授は以下のように語っている。

「アメリカ西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。」

 つまり、「PCを買い換えても、生涯キーボードが使い続けられるように」というコンセプトだ。もちろん、Android端末を買い換えても(乗り換えても)HHKB BTを使い続けることは可能だろう。しかし、現在のマルチデバイス時代においては個人が複数の機器を所有していることが一般的。和田英一名誉教授の表現にあてると「複数の馬を同時に乗りこなす」時代になっているのかもしれない。

 そのときに一つの鞍で乗りこなすことができるのか。各機器ごとに用意するにはHHKB BTは高価すぎる。しかし、複数の機器を切り替えて使うには使い勝手があまりよくない。個人的な感想だが、USB接続での利用、Bluetoothの接続先の手動切り替え、この二点ができればもっとHHKB未体験者に勧めやすいのに、と思う。

 明確な目的を持つ人やHHKBオーナーには「これぞHHKBの思想」と、諸手を挙げて受け入れられるだろうが、HHKB未体験者には「その前にHHKB Pro2/ProJを使ってみようか」とアドバイスしたくなる。やはり、良くも悪くもHHKB BTは「HHKB Pro2/ProのBluetooth版」なのだ。

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