多くのユーザーに親しまれている「Evernote」(エバーノート)は、PCはもちろん、スマートフォンやタブレットといったデバイスからユーザーが作成したノートブックや簡単なメモ、ToDoリスト、プレゼンテーションのスライド、PDFファイル、名刺まで、ユーザーが必要とする情報を一カ所にまとめられるクラウドノートサービスだ。
利用プランには無料の「Evernote ベーシック」と、有料の「Evernote プラス」「Evernote プレミアム」という3つが用意されている。それぞれ利用できる機能に差をはあるが、無料のベーシックプランであっても月間でアップロードできる総データ量が異なる程度の差なので、十分実用的に利用できる。Evernoteを使いこなしているユーザーにとっては、もはや無くてはならないサービスになりつつあるのではないだろうか。
ところが、6月29日に価格プランと内容の改定が発表された。無料のベーシックはアプリで同期できるデバイスが2台までに制限され(Web版は制限なし)、プラスは“月額240円または年額2000円”だったものが“月額360円または年額3100円”、プレミアムは“月額480円または年額4000円”だったものが“月額600円または年額5200円”に値上げとなった。
Evernoteプラン比較 | |||
---|---|---|---|
改定前 | 改定後 | 機能の変更 | |
ベーシック | 無料 | 無料 | 同期できるデバイスを2台に制限。有償プランのパスコードロック機能を解放 |
プラス | 月額240円または年額2000円 | 月額360円または年額3100円 | 特になし |
プレミアム | 月額480円または年額4000円 | 月額600円または年額5200円 | 特になし |
無料で“ほぼ”フル機能を使えることがEvernoteの特長だったのに、なんということか! と思った人は多いかもしれないが、冷静に状況を考えれば無料でサービスを提供し続けられることのほうが不思議だったともいえる。
無料でサービスを提供し、一部の人からは有料で金を集めるというのは、いわゆる「フリーミアム」モデルと呼ばれるものだ。このビジネスモデルについてはWIRED編集長のクリス・アンダーソン氏が「フリー」という書籍で解説しているが、端的に言えば、「多くの人に無料でサービスを提供し、より高い機能やプレミアムなものが欲しい一部の人にある程度の価格でサービスを提供することで、トータルで収益を上げる」というもの。
なぜEvernoteは値上げせざるを得なかったのか? というと、比率と分母の予想をしくじったということだろう。比率というのは、無料ユーザーと有料ユーザーの比率のことだが、さらに問題なのは分母、つまりユーザー数の想定だ。
先進国では既に飽和しているスマートフォン市場の伸びだが、後進国では加速度的に市場が伸びている。その爆発的に増えるスマホの多くにEvernoteがインストールされるとしたら、その数は実に膨大なものになりそうだ。しかも、有料で使用するユーザーの比率は先進国のそれとは大きく異なるだろう。Evernoteはあまりに世界的に使われるようになったことで、経営陣が想定した比率を超えてしまったのではないだろうか?
また、Evernoteの有料コースはプレミアムとプラスの2つ用意されているが、当初はプレミアムだけであった。プレミアムとプラスではプレミアムのほうが料金が高い。このあたりからも、集金がうまくいっていないことが推測される。そして、今回はこの2つのプランの値上げも行われたわけだ。Evernote社はその名前通りにEvernoteが主力製品で、そこから利益を上げる必要がある。こういったことから、今後、Evernoteの価格が上がることはあっても、下がることはなさそうに思える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.