実はMicrosoftの教育分野に向けた取り組みは、Windows 10 Sの前から始まっていた。
1月には「Intune for Education」という教育機関向けのデバイス管理ツールを発表済みだ。パートナー各社が発売するWindows 10 S搭載デバイス(Windows 10 education PC)の189ドルからという価格設定についても、Intune for Educationが発表された英ロンドンでの教育イベントにてスタートしたキャンペーンに準じており、この戦略を補強する存在がWindows 10 Sとなる。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」とは言うが、学校で生徒らのデバイスを管理するのは教師であり、ある意味で教育指針の決定権も持っている。この教師の負担軽減をアピールすることが教育現場へ入り込む近道というのは正しい。
さらにMicrosoft自身は「Microsoft Office」という強力な生産性ツールを持っており、今回さらにグループチャットツール「Microsoft Teams」の提供も発表した。ビジネス向けチャットツールとして勢いがある「Slack」に対抗すべく、3月に一般提供が開始されたばかりのMicrosoft Teamsだが、これを含むOffice 365製品群をGoogleの「G Suite」対抗として提供できるのが同社の強みだ。
現時点でGoogle対抗をこの規模で打ち出せるベンダーはMicrosoftしかなく、実際に製品をそろえてきたのはさすがだと感心する。
Windows RTの中途半端さとは異なる管理機能の充実ぶりや、既存のOffice製品を含めてデスクトップアプリケーションのUWP化を自ら推進することで、Windowsストアの拡充を図っている点など、過去の失敗をきちんと分析して新製品に生かしたことは、教育分野の攻略で大きな武器になるだろう。
一方で不安を感じる部分もある。それは「低価格OSとしてのWindows 10 S」の位置付けだ。ここまでWindows Sは教育分野向けと説明してきたが、やはり安価なPCラインアップの拡充という狙いもあるように思える。
低価格なWindowsデバイスのラインアップを拡充するため、Microsoftは過去にWindows RT、Windows Phone、Windows 8.1 with Bingなど、さまざまなマーケティング施策を用意し、既存のOEMライセンスビジネスに大ダメージを与えない程度にOSの無料展開を進めてきた。
これらはプロセッサやスクリーンサイズなどで縛りを設けることで既存のWindowsとの差異化を図ってきたが、今回のWindows 10 Sは「Windowsストア」が縛りとなる。管理機能が重要な教育現場ではあまり問題がないだろうが、今後Windows 10 Sが一般向けに販売されたとき、この縛りは受け入れられるのだろうか。
アプリ開発側の視点では前述したDesktop App Converterが登場し、以前に比べればUWPアプリを展開するためのハードルは大きく下がっているが、いまだに「茨(いばら)の道」であることは、今回同時発表したSurface LaptopでMicrosoft自身が示しているように思えてならない。
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