2018年、クラウドが主役の世界でハードウェアの価値はどう変わるか本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2018年01月03日 08時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 今さら……と思うかもしれないが、まずは人とコンピュータの関わりについて当たり前のこと、そして少しばかり昔の話から書き始めたい。

 2017年末のコラムで「パーソナルコンピューティングの定義が変化してきた結果」として、PC、タブレット、スマートフォン、それぞれの位置付けが変化してきたという話を書いた。その背景には「個人」と「コンピュータ」を掛け合わせたときに求められる機能が、どんどんインターネットの向こう側……すなわちクラウドに染みだしている流れがある。

 もちろん、「現時点」という時間軸では、デバイスごとの性能や機能にも差異化要因はある。そうでなければ、「どれを買っても同じ」になるからだ。まだそこまでは進んでいないが、パーソナルコンピューティングの核となる部分がデバイス側のコンピュータの中にあるのか、それともクラウドを構成するサーバコンピュータ側にあるのか。そこを真剣に考え始めると、既にかなりの部分がクラウド側にあるようにも思える。

 それは「2017年は珍しくPCを買わなかった」という前回の話とも少しだけ関連する話題だ。

時間をかけて進んできたクラウドシフトの影響

 アプリケーションの核がネットワーク側に向かうといっても、いきなり全てがネットワークサービスになるわけではない。始まりは2000年ぐらいだったから、17年ほどの時間をかけてゆったりとアプリケーションのサービス化が進み、現在もメガトレンドとして業界は動き続けている。

 そのことを最初に実感したのは、実は初代「Mac mini」が2005年に発売されたときのことだ。バージョンアップを重ねて、そこそこ使えるようになりつつあったMac OS Xを試すため、低廉で小さなMac miniを買ってみたのである。すると、すぐに慣れてしまい、デスクではMac、出先では薄軽モバイルPCの多いWindowsというマルチプラットフォーム体制となった。

Mac mini きっかけは「Mac mini」だった(画像は2014年発売の現行モデル)

 すぐに慣れることができたのは、必要なアプリケーションがMacでもそろう上、ネットワークサービスを通じての連携などが、特に問題なく行えたからに他ならない。今では想像もできないが、90年代のMacは得意分野はあったもののソフトウェアの網羅度が低く、一度Windows PCで環境を整えてしまうとMacに引っ越すことは困難だった。

 ところが実際に運用を始めてみると、意外にもMac+Windowsを併用しても困らなかったのだ。時代がネットワークサービス……当時クラウドという言葉はなかったが、クラウド時代へのシフトが確実に進み、アプリケーションはソフトウェアから「ソフトウェア+サービス」の時代へと移り、その結果、特定のプラットフォームへの依存度が下がっていたからだ。

 そして90年代には活発だった「MacとWindowsのどちらが優れているか」という議論も、徐々になくなっていった(2006年にIntelプロセッサ搭載のMac、およびWindows OSをMacで動かせるBoot Campが登場したことも関係するが)。

 その気になればMacとWindowsの両プラットフォームを交互に使っても、あるいは片方から片方に乗り換えても(操作の慣れなどを除けば)少しばかり頭をリセットするだけで同じように使えてしまう。プラットフォーム乗り換えへのハードルが下がったことで、プラットフォーム選択の重みも軽くなったのだ。

 こうしたことは「クラウド時代のPCユーザー」には当たり前のことだ。しかしコンピュータ業界全体がWindowsへと傾倒し、WindowsのAPIとMicrosoftの開発ツールへの依存度が高かった時代を経験している身としては、ほぼ死にかけていたMacというプラットフォームに活力が戻り、WindowsでもMacでも、それどころか今やiOSやAndroidベースの端末でも不自由なく仕事ができている現状にあらためて驚いている。

 そして、その背景にあるのがクラウドへとアプリケーション価値が吸い込まれる長期トレンドというわけだ。

 視点を変えて俯瞰(ふかん)すると、Chromebookで十分という層も、スマートフォンで全部をこなしてしまうという層も、はたまたタブレット向けプロセッサを用いた薄軽ノートPCのユーザー層も、さらにはx86エミュレータを搭載するARM版Windows 10に興味を持つ層も、全てはこうした時代の流れが生んだものだと言える。

iPhone X 「スマホで十分」という層が増えてきた背景にも、クラウド化の流れがある(画像は「iPhone X」)

 さらにもう少し視点を変えると、その視野には「スマートスピーカー」のトレンドも入ってくる。

 米国市場の約1年遅れで日本でも流行し始めたスマートスピーカーだが、現時点での実用度はともかく、クラウドの中で多様に存在しているアプリケーションへのPC、スマートフォン、タブレットとは別の接触点として現れた製品ジャンルとも言えるからだ。

 2017年はよく「スマートスピーカーははやるのか」という質問を一般系媒体の編集者などからされたのだが、スマートスピーカーがはやるかどうかよりも、パーソナルコンピューティングの中で生まれた多様なアプリケーションがクラウドへと流れ込んだ昨今、クラウド内のアプリケーションと人間の間を取り持つ機器は多様化が今後も進んでいくと予想する。

Amazon Echo 米国から遅れて流行し始めた「スマートスピーカー」(画像は「Amazon Echo」)
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