レビュー
» 2018年09月18日 19時00分 公開

AI時代に向けたこれからのiPhone――林信行の「iPhone XS」「iPhone XS Max」実機レビュー (2/3)

[文:林信行、写真:落合陽一,ITmedia]

Macにすら迫る高い性能

 さて、そのiPhone XS、XS Maxの性能を試そうと性能検証用のGeekBench 4というベンチマークプログラムを動かしてみた。CPUに関しては15%ほど高速ということで、ほぼ公称値通りの結果だった(ただし、Appleによれば50%ほど電力消費が下がっているそうだ)。

 一方、GPU性能に関しては50%近くも上がっている(iPhone Xが15426に対して、iPhone XSが21784、iPhone XS Maxが23098)。計測方法が少し異なるため(iPhoneではMetalという技術を使うが、MacではOpenCL)直接の比較はできないが、最新の2018年版のMacBook Proにも匹敵するスコアで驚いた。この薄く小さいガラス板の中に、その何倍も大きく重いPCに比肩する性能が凝縮されているというのは驚き以外の何物でもない。

 肝となる機械学習(AI)で効果を発揮するニューラル・エンジンの性能は今のところGeekBenchなどのアプリでは計測ができない。Appleの発表によればiPhone Xが毎秒6000億回の計算をしていたところが、iPhone XSおよびXS MaxのA12 bionicでは5兆回で、最大9倍近い性能を発揮するという。

 今、iPhoneで処理に時間がかかることの1つにARアプリが挙げられる。地面や机の天板を認識するなどの処理に時間がかかることがあるが、この部分などは処理速度9倍向上の恩恵を一番受ける部分だ。

 製品発表会ではゲームやバスケットボールの分析をするアプリが紹介されたが、A12 bionicによってこれからどんなアプリが登場してくるか期待が高まる。もしかしたら、この点でもMac越えの性能を発揮するかもしれない。

 これから爆発的に増えるであろう、CoreMLを使ったAI系アプリ。iPhone XSとiPhone XS Maxは、その無限なフロンティアを切り開くという役割においても、もはやMacすらも超えた存在感を発揮していくのかもしれない。

全く新しいアプローチの強烈なカメラの進化

 新しい頭脳、A12 bionicがどんな可能性の扉を開いてくれるかは、少し先の話になってしまうが、iPhone XS、XS Maxを購入したユーザーが、すぐに恩恵を受けられるのがカメラ性能の向上によるメリットだ。

 そしてこの部分に関してもiPhone XS、XS Maxは、写真撮影が自慢だったiPhone Xすらをもはるかに上回る性能を発揮している。そして、この進化の仕方が面白い。

 これまでカメラ性能の向上というと、画素数が増えたり、F値が下がったり、望遠性能が上がったりと定量できる変化の基軸しかなかった。

 しかし、iPhone XS、XS Maxは、これまでのiPhone Xと同じ画素数、レンズ性能もほぼ同じ。それでいて撮れる写真の描写が格段に向上しているのだ(実はこれこそ衰退してしまったコンパクトデジタルカメラが目指すべき進化の方向性だったのかもしれない)。

 「いったいどういうことか?」と思う人もいるだろう。AppleはAI時代の全く新しい写真表現という領域を開拓し始めたのだ。センサーの読み出し速度が速くなったことを利用して、HDR撮影時に瞬時に露出を変えた写真をこれまでの倍撮影して、色のグラデーションが美しく出るように(人間の印象に残った像に近くなるように)写真を合成している。

 この「SmartHDR」という機能がものすごく、例えば、何げなく写した風景に映り込む逆光の太陽とディスプレイの映像もしっかりと見せながら、暗くなっている部分までつぶさずにしっかりと描写してくれる新次元の写真表現を可能にしている。

左からiPhone X、iPhone XS、iPhone XS Maxの作例。3機種で夕景を撮影してみた。川沿いを歩く2人組などがiPhone Xではどう撮影しても潰れてしまったが、iPhone XSやXS Maxではきれいに描き出された。Super HDRの威力を感じる(iPhone XSとiPhone XS Maxの画質はあまり変わらないので、以降はiPhone XとiPhone XS Maxの2機種だけで撮り比べている)
左がiPhone X、右がiPhone XS Maxの作例。暗い部屋に展示された美術品を部屋の暗さを生かして撮影した。iPhone Xでは明暗の差を拾いきれず明るい部分が色飛びしてしまったが、iPhone XS Maxは色飛びを起こさずに納めてくれた(「NORITAKA TATEHANA RETHINKー舘鼻則孝と香りの日本文化ー」展より/協力:九段ハウス)
左がiPhone X、右がiPhone XS Maxの作例。barに並べられたボトル。こちらもiPhone Xでは色飛びしてしまった(協力:Intersect by LEXUS)

 新次元の写真表現というともう1点。2つのレンズを使って被写体と背景を区別し、きれいなボケ感を出して一眼レフカメラで撮ったような効果を出す「ポートレート撮影」機能は、これまでのデュアルレンズiPhoneにもあった人気の機能だったが、iPhone XS、XS Maxでは、あとでそのボケ具合を強めたり、弱めたり調整できるのだ。

 具体的には、F値がいくつのレンズだとどれくらいのボケ感になるかといったことが機械学習されており(AIが習得しており)、スライダーで絞り値を選ぶと、そのボケ感を再現してくれる(この後から深度調整をする機能に対して、Apple公式の呼び方がないので便宜上「ボカシ変更」機能と呼ぶ)。

 撮影した後に被写界深度を変える、というこの「ボカシ変更」機能も、写真の楽しみ方を根本から変えてしまいそうだ。ちなみに既に記したが「ボカシ変更」機能は一応、普及機のiPhone XRにも搭載されている。しかし、こちらは人を撮影した場合に限り、機械学習(AIの認識機能)で人の形を認識して背景と区別する、という方式であり、人以外を撮影した場合には効果を発揮しない。

 実は筆者がこの「ボカシ変更」機能で実用的だな、と感じたのが、窓ガラスに貼られた絵を撮影したときだ。ソーシャルメディアに投稿する際に、この絵をきれいに見せたいのだが、そのまま投稿してしまうとガラスの向こう側に置かれた商品や人が邪魔で絵がきれいに見せられない。ここで試しに「ボカシ変更」機能を使ってみたところ、なんときれいに店内の商品などをぼかしてガラスに貼られた絵だけを浮き立たせることができた。

ガラス窓に貼られたステッカーをポートレート撮影して被写界深度を撮影後に調整してみた。上の文字の部分にまでボカしがかかってしまったが、背景のボカしを強くすることでステッカーをよりハッキリと浮き立たせることができた。人物しかボカシを変えられないiPhone XRではできない編集だ

 ちなみにポートレート撮影した写真の照明効果を後から変えるポートレートライティングの機能も、もちろん継承されており、こちらの効果も別途加えることができる。

インカメラのTrueDepth Cameraでも、ポートレートモード撮影ができるということは、後から被写界深度を変更することができる、ということだ

 残念ながらこうした人物以外の「ボカシ変更」処理ができるのは、今のところ、iPhone XS、XS Maxの特権となっており、Instagramでの写真発信などが生活の大事な一部になっている人には、SuperHDRと「ボカシ変更」機能だけで、iPhone XS、XS Maxに切り替える十分な理由になりそうだ。また、新しいセンサーのおかげで、フリッカーを軽減したり、自動ホワイトバランス調整がよくなったりと、その他の基本撮影性能も向上している。

 なお、これらのポートレート撮影機能が、メインカメラだけでなくインカメラ(FaceTimeカメラからTrueDepthカメラに呼び方が変わった)でも実現している点はiPhone Xと一緒だ。

 さて、iPhone XS、XS Maxでは動画撮影機能も大幅に進化している。何よりもうれしいのは4つのマイクを使って、縦横どちらに構えても音声をステレオで録音できることだ。新しいスピーカーのおかげで、その音を立体的に再生できる点も素晴らしい。撮影できる映像のダイナミックレンジも広くなり、撮影した映像の見栄えも格段に向上している。

 こうして撮影した映像を映し出すディスプレイそのものが格段にきれいになっているのもiPhone XS、XS Maxの魅力だ。

 iPhone XRやその他のiPhoneが搭載する液晶ディスプレイとは一線を画す、発色がよく、黒の沈み方もきれいな有機ELディスプレイが採用されている。HDR撮影した写真の広いダイナミックレンジをより楽しめるようにしたディスプレイには、新たに「Super Retina Display」という名前が与えられ、比べてみた感じ(個体差もあるかもしれないが)iPhone Xと比べて、発色の明るさそのものも大幅に進化している印象を受けた。

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