Oculus Questから考える「スタンドアロン型VRデバイス」が開くビジネスの可能性西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(2/2 ページ)

» 2018年11月03日 06時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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ゲームデモから見える「本格的VR訓練」の可能性

 こうしたことは、低価格であることを重視したOculus Goよりも、2019年に発売を予定している「Oculus Quest」で加速される可能性は高い。Oculus Goは自分の位置は検知できず、向きだけを検知する「3DoF」(DoF:degree of freedom)であるため、現実に近いインタラクションの実現は難しいが、Oculus Questは自分の位置も判定する「6DoF」だ。しかも、ハンドコントローラーは「両手」になる。より実際の状況に近い講習ができるので、価値が高まるだろう。

 そして、B to B向けにも役立つであろう要素を、Oculus Questのデモとして用意されたゲームで見つけた。「Dead and Buried」というゲームのOculus Questバージョンである。教室2つ分くらいの広い領域で、Oculus Questを装着した6人が入り乱れて撃ち合いを行うシューティングゲームだ。現実に存在する段ボールを認識し、VR空間内でも「障害物」として表示される。

シューティングゲーム「Dead and Buried」
風景を見ると、段ボールが置かれた場所を動き回っているだけだが、VR空間内では撃ち合いが起きている

 これだけでも素晴らしいのだが、B to Bを考えると、もう1つの要素が大きい。

 プレイしている場所のすぐ近くで、プレイヤーとは別のスタッフがiPadを抱えて移動している。実は彼は「カメラマン」。iPadをカメラのように構えて動くと、iOSのARKitで位置が把握され、このゲームのVR空間が撮影され、他人に「見える」のである。

VR空間内の撮影を、iPadを抱えた人が「カメラマン」のように行う。こうしたやり方は、ゲームだけでなく訓練などでも生かせる

 これは、Oculus Questが備えている特別な機能、というわけではない。実際の空間の情報を共有し、iPadのような端末を「外部確認用」として併用する例は少なくない。だが、Oculus Questのデモとしてわざわざ用意されたのは、それだけこうした技術に可能性が大きく、開発支援をしていきたい……とFacebookが考えているからだ。

 B to B向けの研修アプリを作ったとしよう。「Dead and Buried」で行われたような仮想空間共有と、仮想空間の「ライブビュー」ができれば、研修の振り返りや指導に大きく役立つと考えられる。

 現在も、既に力のあるデベロッパーは独自に同様の機能をソフトに実装していたりするが、プラットフォーム側での開発支援があれば、利用はもっと広がるはずだ。そしてこの要素は、また別の「B to B」にも役立つ。

スタンドアロンで「アトラクション向け」のコストが下がる

 B to BでのVR市場として、企業研修以外に活発なのが「エンターテインメント施設への導入」だ。要はゲームセンターのゲーム機や遊園地のアトラクション導入と同じ考え方である。最終的にはコンシューマーに楽しんでもらう「B to B to C」モデルだが、機材やソフトの納入先は企業だし、企画も納入企業と共同で行うB to Bモデルになる。

 来場者が自由に歩き回れるVRアトラクションは既にあるが、背中に背負うタイプのPCを活用するものが多いため、機材導入コストと毎回のオペレーション負荷が大きい。そのため、自由度が高いものを作ろうとすればするほど、導入負担が大きくなる。

 今回Oculus Connect会場で、「The Void」というVRアトラクション提供企業が米国で展開している、スターウォーズを扱った「Star Wars: Secrets of the Empire」というアトラクションを体験した。非常に素晴らしい工夫にあふれた、面白いものだったが、「これはいくらになるのだろう……?」と思ったのも事実だ。

 だが、Oculus Questのような機器ならば、コストをぐっと削減できるだろう。これは、アトラクションとしいてのVRの可能性を広げる意味で、極めて大きな意味を持つ。

 低価格機材というと個人向けが注目されるが、実は企業向けも見逃せない。iPadがレジなどに向けた業務端末として多数導入され、決済サービスを結果的に普及させているのと同じような効果を、Oculus Questのような「低価格で高付加価値なVR機器」がもたらす可能性は高い。

 それは、同じような機器を扱うどの企業も分かっていることだ。LenovoがGoogleと協力して開発した「Mirage Solo」はアスクが企業向けサポートを付けて販売するし、HTCの「VIVE FOCUS」は、商業利用のための「アドバンテージパック」を販売する。

 こうした流れは、VRがまずは個人以上に、企業市場で注目されている証なのだ。

※記事初出時、VIVE FOCUSアドバンテージパックの販路について誤った記述がありました。おわびして訂正いたします(11月6日14時00分訂正)


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