Oculus Questから考える「スタンドアロン型VRデバイス」が開くビジネスの可能性西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(1/2 ページ)

» 2018年11月03日 06時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 9月26日、Oculusは米・サンノゼで開かれた開発者会議「Oculus Connect 5」で、新しいスタンドアロン型VRデバイス「Oculus Quest」を発表した。同社の発表がゲームに集中していることもあり、Oculus Questについても、ゲームへの応用が注目されている。

Oculus Connect 5で発表された「Oculus Quest」。発売は2019年の予定

 だが、VRの可能性はゲームだけに止まらない。むしろ、ビジネスでの利用について、大きな可能性が広がっている。

 今回はOculus Connectなどで取材した内容をベースに、「スタンドアロン型VRデバイスがB to Bビジネス環境をどう変えるのか」について改めて語ってみたい。

VRはまず「訓練」で生きる

 VRの本質の1つは「自分が別の世界に入ってしまうこと」だ。ゲームは別世界に没入するものだから、相性がいいのも当たり前といえる。

 Oculus Connect 5でも、話題はどうしてもエンターテインメントが中心だった。テクノロジーを生かす分かりやすい方法であり、人々の投資意欲も大きい。何より心が沸き立つので、モチベーションを高めやすい。デベロッパーはもちろん、取材しているプレスにとっても、見たこともないようなエンターテインメントの可能性にはドキドキするものだ。

 だが、「別世界」とは、本当に「違う世界」ばかりとは限らない。例えば、転職をしたとする。転職先の仕事で体験する風景は、転職前から見れば別の世界。そうした風景を理解し、仕事のやり方を身につけるのも、「自分が別世界に入って作業をする」ことに他ならない。このように考えると、VRは職業訓練に向いていることがよく分かる。

 そのため、VR導入をビジネス的側面で見ると、いわゆるエンターテインメントコンテンツの制作よりも、業務系アプリケーションの開発、中でも「トレーニング」向けのものを開発するところが少なくない。個人向けのエンターテインメントは、機器の普及台数が少ない間は大きなビジネスになりにくい。

 過去のゲーム機の例を見ても、プラットフォームとしては、一国で数百万台を超えて「さらに伸びていく」段階にならないと、多数の企業を維持する産業に成長するのは難しいだろう。本連載がエンターテインメントではなくB to B分野でのVR・ARにフォーカスしているのも、こうした傾向を踏まえてのものだ。その中で、VRの価値を最大限に生かせるものは何かか、というとトレーニング……ということになるのだ。

 実際にはもう1つ、VRでのビジネスが活発な部分があるのだが、それはまたあとから述べることとしよう。

Walmartが「Oculus Go」を大量導入

 Oculus Connectでの言及は少なかったものの、Oculusとビジネストレーニングという意味では、Oculus Connect に合わせ、非常に興味深い発表が行われている。米国の小売り大手のWalmartが、店員のトレーニングのために、1万7000台のOculus Goを導入したのだ。

WalmartはOculus Connect開催直前に、トレーニング用途としてOculus Goを1万7000台、試験的に導入すると発表した

 同社が導入するのは、主に店舗での品出しや管理などのトレーニング向けのものだ。Walmartがどのように研修にVRを使うかは、以下の動画から一部が分かる。

 なぜ彼らがこうした機器を導入するのかといえば、やはり「体を動かして自分でトレーニングできるから」だろう。Oculus Goは片手だけだがハンドコントローラーがあり、自分で実際にそちらの方向を向いて操作する必要がある。こうして体を動かすことで、理解はさらに高まる。

 しかも、こうした機器はコンパクトであるが故に、講習の時間や場所の制約が小さい、という利点もある。機材が大きいと一斉講習とせねばならないが、小さければ、必要な場所に配り、それぞれの事情に合わせて講習ができる。

 Walmartの規模だと、1万7000台の導入にもかかわらず「テスト運用である」のが面白い。同社は米国で最も多くの従業員を雇用している企業でもあり、2017年のデータによれば、パートタイムの雇用者を含めた従業員数は230万人(!)にも及ぶ。

 こうした試みが成功すると、同じような発想で機器導入をする企業も出てくるはず。いろいろと制約はある機器だが、比較的シンプルなだけに開発も進みやすく、企業向けの大量導入は検討しやすい機器である。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月28日 更新
  1. Synology「BeeStation」は、“NASに興味があるけど未導入”な人に勧めたい 買い切り型で自分だけの4TBクラウドストレージを簡単に構築できる (2024年03月27日)
  2. 「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック! (2024年03月26日)
  3. ダイソーで330円の「手になじむワイヤレスマウス」を試す 名前通りの持ちやすさは“お値段以上”だが難点も (2024年03月27日)
  4. ダイソーで550円で売っている「充電式ワイヤレスマウス」が意外と優秀 平たいボディーは携帯性抜群! (2024年03月25日)
  5. ミリ波レーダーで高度な検知を実現する「スマート人感センサーFP2」を試す 室内の転倒検出や睡眠モニターも実現 (2024年03月28日)
  6. 次期永続ライセンス版の「Microsoft Office 2024」が2024年後半提供開始/macOS Sonoma 14.4のアップグレードでJavaがクラッシュ (2024年03月24日)
  7. 2025年までに「AI PC」を1億台普及させる――Intelが普及に向けた開発者支援をアップデート ASUS NUC 14 Proベースの「開発者キット」を用意 (2024年03月27日)
  8. いろいろ使えるFireタブレットが最大7000円オフ! Echo Budsは半額以下で買える! (2024年03月26日)
  9. 15.5万円の有機ELディスプレイ「MPG 271QRX QD-OLED」に指名買い続出 (2024年03月25日)
  10. サンワ、Windows Helloに対応したUSB Type-C指紋認証センサー (2024年03月27日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー