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» 2018年12月03日 06時00分 公開

鈴木淳也の「Windowsフロントライン」:2019年に「Windows on Snapdragon」が離陸すると考えられる2つの理由

Qualcommのイベント「Snapdragon Tech Summit 2018」を目前に控えた今、うわさされる次世代Snapdragonや「Chrome on ARM Windows」といった話題から、「Windows on Snapdragon」の2019年を占ってみよう。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 Microsoftは11月15日(米国時間)、Visual Studio 15.9の正式版と64bit版ARM(ARM64)の開発に必要なSDKとツールの提供を開始した。同時に、Microsoft StoreでのARM64アーキテクチャ向けアプリの申請受付も始めたと発表した。

 以前、本連載において同社は2019年にビジネス向けを主軸にスローペースでの普及が続く「Windows on Snapdragon(Always Connected PC)」のリブートに向けた展開について取り上げたが、2018年末に登場するSnapdragon SoC(System-on-a-chip)のハイエンド向け新製品と合わせ、少しずつ状況は動きつつある。

Microsoft StoreがARM64対応アプリの受付を開始

 これは、Windowsの公式BlogでWindows Kernel Teamのシニアプログラムマネージャーであるマーク・スイートギャル(Marc Sweetgall)氏が報告している。

 詳細は「Windows 10 on ARM」のページでもまとめられているが、まずVisual Studio 15.9へのアップデート後に「Visual C++ compilers and libraries for ARM64」が追加されているかを確認しておく。アップデート後はUWPプロジェクトで構成可能なコンフィグレーションにARM64が出現しており、これでアプリ開発プロジェクトにおいてARM64向けのコンパイルが可能となる。

 もちろん、既存のプロジェクトをARM64用にコンパイルすることも可能だ。Windows on Snapdragonデバイスでのサイドロード機能を利用したリモートデバッグのほか、既存のx86(x64)アーキテクチャ向けのバイナリと組み合わせてのマルチインストーラの提供、Microsoft Storeを以外でARM64版Win32アプリケーションの配布などが用意されている。

 筆者の偏見かもしれないが、Windows on SnapdragonというとUWP(Universal Windows Platform)でかつMicrosoft Storeによって管理が厳格化されている印象があったが、さまざまな提供方法が選択可能な点で、柔軟なアプリケーション配布方法を必要とするビジネスニーズを重視した様子がうかがえる。

arm Visual Studioを15.9にアップデートすると、ARM64用ライブラリが追加されているのが分かる
arm 構成可能なプラットフォーム先としてARM64が追加されている

 このARM64対応は、2017年12月5日に米ハワイ州マウイ島で開催された「Snapdragon Tech Summit 2017」において、米MicrosoftのWindows & Device部門の担当コーポレートバイスプレジデントであるマット・バーロー(Matt Barlow)氏が説明していたものだ。

 つまり、1年越しでようやく対応が実現したことになる。Windows on Snapdragonではパフォーマンス上の理由から32bitであるx86アプリのエミュレーションのみに対応し、64bitであるx64アプリの動作には対応していない。「それでも(ゲームを除く)大部分の既存アプリはエミュレーションで動作可能」とWindows担当ジェネラルマネジャーのエリン・チャップル(Erin Chapple)氏は語っていた。

 一方で消費電力などの面から、効率動作のために同デバイス上でのアプリはARMバイナリのネイティブ動作が望ましいともしており、パフォーマンスの制限につながる「ARM32での動作」の解消は早期に実現する必要があった。ゆえに、これまで“ならし運転”だったWindows on Snapdragonは、2019年にようやくギアを1段階上げての路上走行へと移ることになる。

Windows on Snapdragonを後押しする2つの気になる動き

 実際、これを支援する動きが2つある。1つは前述の記事中でも触れた「次世代Snapdragonの登場」で、2018年12月4日〜6日にハワイのマウイ島で開催されるQualcommの製品発表イベントでお披露目される見込みだ。

 次期Snapdragonについては、一部で「Snapdragon 8150」などの名称でウワサが出ているが、実際にこのタイミングで出てくるのは、2018年夏に登場した「(PC市場向けを念頭に置いた)Snapdragon 850」とは異なり、ハイエンドスマートフォンからタブレット、そしてPC用まで、幅広い用途をカバーするSnapdragonの“フラッグシップ”にあたる製品だ。

arm 2018年12月4日〜6日にハワイのマウイ島でQualcommのイベント「Snapdragon Tech Summit 2018」が開催される。ここでは、新SoCのリリースが見込まれている

 Qualcommは、2019年中に5G対応のスマートフォンが市場投入されることを目標に開発を進めており、2019年内での搭載製品リリースを目指した次世代Snapdragonもまた「5G対応」をセールスポイントに掲げることになる。そして筆者の予想だが、この次世代Snapdragonを搭載した最初の製品はPCではなく、おそらくスマートフォンである可能性が高い。

 だが、PCとスマートフォンの境目が曖昧になりつつあり、フォームファクタ次第ではPCと遜色ないパフォーマンスを実現しつつあるスマートデバイス向けSoCの世界において、そのフラッグシップ製品がPCの世界に投入されることは、新たなパフォーマンス競争が始まることも意味する。

 もう1つの動きは、たびたびウワサになっている「Chrome on ARM Windows」の話だ。Windows 10のデフォルトブラウザである「Edge」が人々の注目を集められず、企業向け用途にいたってはInternet Explorerがいまだに強い勢力を維持する世界において、Chromeの安定したシェアの高さは業界の要になっている。だが、アプリの動作環境に大きな制限があるWindows on Snapdragonはその実力を発揮できていないともいえ、今後ビジネス市場への拡大を含む広範囲なユーザー獲得において障害の1つになり得る。

 こうした中、最近になって話題に上っているのが「ChromeブラウザのARM版Windowsへの移植」で、2018年10月に米カリフォルニア州サンタクララで開催されたARM TechConにおいて、Qualcommの製品管理担当シニアディレクターのミゲル・ヌネス(Miguel Nunes)氏がAndroid Authorityで同計画について説明している。

 また9to5Googleによれば、オープンソースである「Chromium Gerrit」において、最近になり「Chrome for Windows 10 on ARM」に関するコミットが活発化していることから、Google、Microsoft、Qualcommの3社を巻き込んだChrome移植プロジェクトが本格化しつつあるとも考えられる。いずれにせよ、ARM64アプリの開発環境整備はこれを後押しするもので、2019年はその成果の一部が見られるかもしれない。

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