「Amazon限定」がガジェット周辺で増えつつある理由牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2019年02月10日 08時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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 Blu-ray Discの映像コンテンツやゲームソフトでは、「Amazon.co.jp限定」の製品はすっかりおなじみだ。他の販売店にはない独自の予約特典が付いたこれら限定商品は、ついつい手が伸びてしまう魔力を秘めている。

 そんな「Amazon限定商品」だが、最近はノートPCやディスプレイ、HDD、メモリカードなど、PC周辺機器にも増えつつある。これらの製品は「Amazon.co.jp限定」と記されている他、型番の末尾にAmazon専売であることを表す「-A」などの識別子が振られていることが特徴だ。

 もっとも、Blu-rayなどのメディアと大きく違う点が2つある。一つは、オリジナルの製品と明確な違いがないこと。モノによっては、例えばオリジナルにないケーブルが付属するといった相違点もあるが、仕様などは全く同一、パッケージも説明書も使い回しであるケースがほとんどだ。

 そしてもう一つの特徴は、元になったオリジナル製品がAmazonでは売られてないケースが多いことだ。Blu-rayやゲームソフトでは、予約特典が不要な人のために、オリジナルの製品が併売されていることがほとんどだが、こうしたPC周辺機器では、独自型番の製品のみが販売され、オリジナルの製品は登録自体がないことも多い。

 メーカー視点で考えると、型番を分ければ在庫を他の販路と共有できなくなり、倉庫の負担は増える。両方の在庫を持たなくてはいけないのでキャッシュフローも圧迫される。PC周辺機器は2〜3年もたてば終息する製品が多いので、効率という意味でもよろしくない。

 こうしたデメリットがあるにもかかわらず、なぜわざわざ特定の販売ルートにだけ、独自の型番を付けた製品を販売しようとするのか。Amazonに限らず、大手通信キャリア向けのアクセサリーなどでも最近増えつつあるこの現象について、今回は見ていくことにしよう。

独自型番にすることで別の販売ルートからのクレームを防ぐ

 結論から書いてしまうと、これら「独自型番製品」は、オリジナル製品の価格相場を維持するのが主な目的だ。

 これはAmazonに限らずどの販売店にもいえることだが、特定の販売ルートでのみ製品が大幅に値引きされると、他の販売ルートが黙っていない。「どうしてあの量販店だけ安売りして、ウチは高いんだ」と、メーカーに食って掛かるわけである。

 実際には利益を削っているだけで、卸価格は同じだったりするのだが、中には客寄せや他店つぶしなどを目的に、卸価格を下回る価格を付けて販売するケースもある。これがクレームの元になるわけだ。

 例えば、量販店Aが安売りしているのを、量販店Bが発見してメーカーにクレームを入れる場合、クレームを付けられるメーカーの営業担当も、量販店Aがなぜ安いのか、事情を把握していないことが多い。社内でヒアリングをして初めて事情が分かるわけだが、こうした事態が繰り返し発生すると、量販店Aと量販店Bの営業担当者の間でも、ギスギスが発生することになる。

 「いや、量販店Aに安く卸しているわけではなくて、量販店Aが勝手に値引きしているんですよ」と、営業担当が毎回説明したとしても、絶えず疑惑の目は向けられる。こうした量販店は、同じような施策を繰り返し行うので、その度にこうしたギスギスが発生するのだ。

 何より、現実的に「量販店Aの方が量販店Bよりも安い」という事実は変わらないので、量販店Bは安くないというイメージが顧客の間で醸成されるとともに、量販店Bの社内で担当バイヤーの評価も下がる。そうなると量販店Bでは、「ロクに対策も取ろうとしないあのメーカーの製品はもう取り扱いをやめてしまえ」という論調になる。ある意味、量販店Aの狙い通りになっているわけである。

 ここで登場するのが、冒頭で述べたような、特定の販売ルート、ここで言うと量販店Aに対してのみ独自の型番で製品を卸すという施策だ。こうしておけば、量販店Bに卸しているのとは別の製品であるという口実が成立し、直接価格が比較されることがなくなる。メーカーはクレームを付けられることがなくなり、また価格調整の自由度も増すというわけだ。

 中には、独自型番の製品には何らかの特典が付いていて、しかもオリジナルの型番よりも安いというケースもあるが、型番が別であれば、意外なほど風当たりは弱くなる。独自型番を付けているくらいだから、毎月それなりの数量を売る契約になっていて、その分、卸価格も安いのだろう……と、別の販売ルートを諦めさせるさせる効果があるというわけだ。

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