さて、この独自型番には、もう一つの目的がある。それは自社内での在庫確保だ。
周辺機器やアクセサリー類のように単価がそれほど高くない製品は、倉庫内の在庫は販売ルートごとに決まった数が割り当てられるのではなく、共通在庫として奪い合いになる。いち早くオーダーを取ってきた販売ルートに対して在庫が割り当てられ、商談の成立が遅れると在庫がなくなっていた……というのは日常茶飯事だ。
法人系の大口案件であれば、一定の在庫を確保してから商談に臨むなどの対応が取られるが、毎日少しずつの量を出荷していく量販店ルートでは、こうした施策は難しい。「法人の大口案件が発生したせいで量販店向けの在庫が品切れを起こした」というトラブルもしょっちゅう起こり、そのたびに営業担当は、販売店に頭を下げて回ることになる。
その点、特定の販売店向けの独自型番にしておけば、在庫を独占でき、他の販売ルートに在庫を横取りされることがなくなる。オリジナル型番が在庫切れでも、その量販店向けの独自型番は潤沢に在庫が残っている……というわけだ。
もちろん、型番が増えると在庫管理や発注のプロセスが複雑になるので、購買担当にとっては極力避けたい施策でもあるが、その販売ルートが会社にとって重要で、品切れが許されない場合は、こうした施策はやむを得ないものとして許可されやすい。前述のように、価格の問題でクレームの要因になっているという事情がここに加われば、その傾向はさらに強くなる。
冒頭で紹介したAmazonに限らず、有力な量販店に対しては、取引量が増えるにつれてこうした独自型番が作られるケースが増えていき、それと並行する形で、元になったオリジナル製品は扱われなくなっていく。Amazonなどでは独自型番とオリジナルとが併売されているケースもなくはないが、それはここまで述べたような事情を知らない末端の出品者が、自前で登録したようなケースに限られる。
こうして誕生した独自型番の製品は、あくまでもメーカー側の事情によって型番を分けているだけなので、外観上はオリジナルと全く見分けがつかなかったり、既存のパッケージにシール対応しただけという形になりがちだ。わざわざパッケージや取説まで作り直すとコストが合わないし、サポートも煩雑になる。
見た目にはほとんど違いのない、型番だけがその販売ルート向けに独自に取得した製品が売られているのは、こうした事情によるものだ。ユーザーからすると、価格が安いか高いかの違いだけで、どちらを買っても問題はない。
ただし、こうした独自型番のPC周辺機器などは、将来的にその製品を中古で買い取りしてもらう場合、データベースにその型番がないという理由で、査定が渋くなる可能性があることは、頭に入れておいた方がいいかもしれない。
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