せっかく著名デザイナーを起用したのに長続きしない製品の裏事情牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2018年05月09日 14時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
work around

 メーカーが新製品を作るにあたり、社内にいる自社のデザイナーを使わず、社外の著名デザイナーを起用することがある。起用自体が話題になることに加えて、機能だけでは似たり寄ったりの製品ジャンルであれば、他社との差異化要因にもなる。また、そのデザイナーのファンが製品を買ってくれることで、販売数が上積みできる可能性も出てくる。

 もちろん社外のデザイナーを起用するとなるとデザイン料の支払いが発生するわけだが、全く未知のジャンルの製品であればまだしも、一定のボリュームが売れることが分かっている製品、それも単価が高いIT系の製品であれば、原価的にもそう負担にならない。何より一定の知名度があるデザイナーであれば、普通に広告を出すよりも宣伝効果が見込める。

 もっとも、軽い気持ちで社外の、かつ高名なデザイナーを起用すると、トラブルに発展することも少なくない。事実、社外の著名デザイナーを起用した製品は、あまりシリーズが長続きすることなく、いつしかフェードアウトしていくことが多い。なぜうまくいかないケースが多いのか、そしてそれにもかかわらず社外のデザイナーを起用するケースがあるのはなぜか。今回はそんな裏事情を見ていこう。

「形状が変わったからデザインを直して」が通用しないデザイナー

 デザインを発注するメーカーと、それを受ける社外のデザイナーとの間でトラブルが発生するパターンは、大抵決まっている。ほとんどは、納品後のデザインの修正にまつわるものだ。

 中でもIT系のハードウェアは、この種のもめ事が何かと発生しやすいジャンルだ。分かりやすいように話を単純化して説明すると、例えば設計の段階では正方形を前提としていたのが、実際にサンプルが上がってきて試験を繰り返していくと、どうやらこの形状ではダメで、横方向にやや伸ばして長方形にせざるを得ない、といったことが起こる。

 この際、既に発注していたデザインが、正方形を前提としたものであれば、それを修正するためにデザイナーへと差し戻すことになる。製品デザインの世界では、こうした修正は当たり前なのだが、畑違いの分野しか経験のないデザイナー、特に著名なデザイナーであればあるほど、こうした変更依頼に拒否反応を示すケースが多い。「俺のデザインにケチをつけるのか、けしからん」「なぜ途中で前提条件が変わるんだ。おかしいではないか」というわけだ。

 もしこれがスマートフォンやPCのアクセサリー類であれば、デザインを優先し、製品の仕様の側を変更することもできなくはないが、ハードウェア本体の場合、ボディーの試作を行って初めて放熱に問題があることが判明し、熱を滞留させないためには形状そのものを変えざるを得ないという結論に至ったりと、思ってもみなかった問題点が発覚することが多い。

 こうしたケースにおけるデザインの修正は、当然起こりうるケースとして条件に含めておくべきなのだが、発注するメーカーの側にとっては当たり前過ぎることだけに、うっかり説明を忘れ、後日デザイナーともめるというのはよくある話だ。費用の上積みでも最終的に折り合いがつかず、デザインがお蔵入りになってプロジェクトがポシャることもしばしばだ。

 あるいは、納品済みのデザインをメーカーの側で変更することで同意を得ていたが、最終的に元デザインから懸け離れたデザインになってしまったせいで、発売にはこぎつけられたものの、デザイナーの名前を使うことを拒否され、何が売りなのか分からなくなることもある。

 まれに、そのメーカーが販売していた従来製品とは異なる、見るからにスタイリッシュな製品が突然登場することがあるが、実はそれらの製品は、外部デザイナーを起用したものの、発表前になって名前が出せなくなってしまった製品、というケースがあったりする。

トップダウンによってデザインプロジェクトが崩壊

 もっとも、こうしたトラブルは、いかに畑違いのデザイナーであっても、代理店などを介して契約しているケースでは、まず起こり得ない。代理店と組んでいる時点で過去にも類似の案件を経験しているわけで、代理店側もノウハウをある程度熟知している。追加費用の有無やスケジュールでもめることはあっても、根本的なところで話が通じずプロジェクトが破綻に至る心配はまずない。

 ではどこでトラブルが起こりやすいかというと、あまりこの手のビジネスに詳しくないデザイナーと、主に直接契約を結んだ場合だ。なぜそうしたケースが発生するのかというと、ずばりトップダウンだ。

 社外デザイナーを起用することを目玉とした製品を企画し、それを開発会議にかけた際、「そんなデザイナーは聞いたことがない。もっと知名度が高いデザイナーを探せ」とか「新鮮味がなさすぎる。俺の知り合いにいいデザイナーがいるから紹介してやる」などと、決済権を持つ取締役などが横やりを入れてくるケースがある。

 つまり「デザイナーを起用した製品」という枠組みはそのままに、デザイナーだけをすげ替える羽目になる。その場合、上の要求に沿うデザイナーを探したり、あるいは押し付けられたりするわけだが、ここで厄介なのは、そうした社外デザイナーは必ずしもこうした製品デザインに長けているわけではないことだ。つまり前述のようなトラブルが起こりやすいわけである。

 特に、トップダウンで社長や取締役が己のパイプで著名デザイナーに話をつけ、実際の交渉だけが開発部に丸投げされるようなケースでは、コンセプトデザインの絵は上がってきたものの実務レベルの話し合いがまるでかみ合わず、最終的にプロジェクトが破綻したり、何とか製品はリリースできたものの当初のコンセプトは見る影もなくなったりすることが多い。

 そうこうしているうちに一連の泥仕合でメーカー(の開発部)が疲弊してしまい、その後予定していた第2弾、第3弾の製品が発売されることなく、後継製品でのデザイン流用や販促物などでの利用も許諾が得られず、そのままフェードアウトしてしまうこともある。

 メーカー社外のデザイナーを起用した製品が長続きしない裏には、こうした事情があることがしばしばだ。

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