Appleが2018年10月に発売した「iPhone XR」。製品の評価はさておき、発売から1カ月で拡販のためとみられる値下げが発表されたり、またサプライヤーに対して生産数削減の指示を出したというニュースが流れたりと、売れていないことが強調されがちだ。
その一方で、調査会社CIRPのレポートによると、2018年11月はiPhoneの売上高の32%が、このiPhone XRによってもたらされている。これはiPhoneの全ラインアップの中でもぶっちぎりでトップの成績であり、売れていないどころか、むしろ売れているようにもみえる。
しかし今年に入り、Appleは自ら2019年第1四半期決算における売上高予想の下方修正を発表し、「期待ほどiPhoneの買い替えが進まなかった」と説明した。
このように、全く同じ製品でありながら、ある方面からは「売れている」という情報が、また別の方面からは「売れていない」という情報が出てくるのは、このiPhone XRに限らず、注目度が高い製品では珍しくない。
これらの真贋(しんがん)は、きちんと情報の出どころを確認すれば、100%白黒つけるところまでは行かなくとも、ある程度の判別が可能だ。しかし最近はそれらを報じる側も、知識がないのか故意なのか、どう判断してよいのか、その基準を失っているようにみえることもしばしばだ。
今回は販売店とメーカー、そしてそれ以外の第三者によって全く異なる「売れている」「売れていない」の意味についてみていこう。冒頭でiPhone XRを挙げたが、以下はiPhoneに限った話ではなく、あくまでも一般的な考察ということで、ご理解いただきたい。
販売店にとっては、製品が売れているかいないかというのは、単純に販売数を指していることがほとんどだ。レジを通過して客の手に渡った数が多ければ「売れている」だし、少なければ「売れていない」になる。
なので販売店では、店員はもちろん、アルバイトやパートの人に至るまで、「売れている」「売れていない」は、立場によって多少の相違はあるにせよ、感覚的に把握できている。実際にモノが目の前を通過しているのだから、これほど分かりやすいことはない。
これに対してメーカーの「売れている」「売れていない」は、販売計画に対しての達成率であることが多い。出荷数量がたとえ月に1K(1000個)を下回るほど低空飛行であっても、それが事前に策定された販売計画の数値をクリアしていれば「売れている」だし、月100K(10万個)出荷されていても、計画が未達であれば「売れていない」と扱われてしまう。
なぜメーカーでこのような扱いになるかというと、それは販売計画で設定した数によって、仕入れの計画も決まってくるからだ。製品の原価は、事前に設定した販売計画から仕入れの計画が決まり、それによって原価が決まる。つまり一定の数を売らなければ、前提となる原価が変わってくる。販売数が次の仕入れの原価に影響しない販売店とはわけが違う。
もし販売計画が未達となると、既に仕入れた部材をどうにかして処分・転用する方法を考えたり、あるいは外部のサプライヤーで予定していた追加生産を、慌ててストップしたりしなくてはいけなくなる。
逆に言うと、特定の製品が「売れていない」というニュースが出てきたときに、こうした関連企業が発信源で、その内容が生産数を減らしただとか、パート従業員を解雇したとか、そうした具体的なアクションを伴っていれば、それは信頼性が高い情報ということになる。
もっとも、当初想定していた生産計画に沿って減らしただけの場合もあるので、内部のリークであることが前提だ。そもそも製品は、毎月必ず同じ数量が生産されるものではないからだ。またリーク情報は発信者の顔が見えないため、それ自身がデマという可能性も考慮しなくてはならない。
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