「電子国家」なのに不便? エストニアに住む日本人が見た、電子国家の本当の意味:tsumug.edge(2/3 ページ)

» 2019年05月31日 15時00分 公開
[tsumug edge]

では、エストニアの電子国家とは何か?

 エストニアの電子サービスとして紹介されることが多いのは、ネット投票だったり電子カルテ、学校と親の電子連絡票だったり電子裁判などだろう。また、最近では「e-Residency」で外国人を部分的に国民化している。

tsumug e-Residencyのキット
tsumug 中にカードとUSBリーダーが入っており、それをPCと接続することで手続きができる

 エストニアは、みんながVRヘッドセットをつけていたりAIが友達だったりするような国ではない。上記のようなサービスが整った国だ。そしてこのサービス群に共通するものは、「安全で信頼できる個人情報管理」だ。

 個人が複数回投票できたり、実在しない人物が投票できたりしてはネット投票の意味がない。医療情報は漏えいした瞬間に保険会社の社員がクビどころでは済まないセンシティブな情報だ。子供の学校での情報もかなりデリケートで、学校とその子供の親だけで共有する。そこに手違いがあってはいけない。漏えいがあってもいけない。裁判で証拠のねつ造や判決の手違い、改ざんがあってはいけない。外国の資産家が自分の情報を偽ってマネーロンダリングできないように、ちゃんと身元をチェックできないといけない。

 日本では、こういった個人情報やその認証を安全に電子化できておらず、そのため僕らは日常的に結構不便を強いられている。

 例えば、携帯電話を解約する時、契約者本人が電話口に出ないと解約できない。僕の親の介護サービスを申請する時は、わざわざ親を役場まで車椅子で連れていかなくてはいけない。「本人確認のために」かなりの時間を奪われている。でもそういうルールがなければ不正利用がはびこってしまうのも事実。安全にはコストがかかっている。

 この「安全で信頼できる個人情報管理」は、一介の企業が行うことはできない。企業がパスポートを発行したり、出生登録や死亡届を受け付けられないようにしたりだ。逆にいうと、もし将来、企業が発行するパスポートが認められれば、その企業はすでに国家になりつつある、といえるかもしれない。国の根幹が国民だとするなら、その国民に関するデータは国そのものともいえる。それを守るのはやはり国家だ。つまるところ、国家の代替できない役割とは「個人情報銀行」であることではないだろうか。

 国民の安全を守るために防衛力、軍事力が必要だとすると、国民の一部である個人情報を守ることはむしろ国家として必要不可欠だ。エストニアの個人情報銀行を支える技術として、よく取り上げられるのがX-Roadだ。分散したデータベース間の情報共有を安全に行う技術で、Academy of Science of Estonia(エストニア科学学会)が設立したCybernetics研究所を前身とするエストニアの企業Cyberneticaが導入した。今エストニアにある個人情報サービスはこれに加えて、国産スタートアップであるGuardtimeが提供するブロックチェーンのサービスなどをAPIなどで活用している。

X-Roadの紹介動画

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2026年11月06日 更新
  1. メーカー自身がバックドアを仕込み、犯罪集団に“販売” 乗っ取られたTV用端末130万台超、Googleが遮断 日本の警察庁も参加 (2026年11月05日)
  2. Windows PC向けゲームの「ロード待ち」はなぜ起こる? 背景に過去との「互換性」 (2026年11月05日)
  3. 画面は見やすく広告なし! 睡眠モニター機能はどう? Amazonの新型スマートクロック「Echo Time」の使い勝手と気になる点 (2026年11月06日)
  4. 月1200ドルのAIコストが電気代20ドルで済む? NVIDIA「RTX Spark」搭載PCのデモで見えた“ローカルAI”の実力 (2026年11月04日)
  5. 価格は約9万円に上昇、それでも“買い”か? DJIの360度カメラ「Osmo 360 II」を初代と比べて分かったこと (2026年11月05日)
  6. “コーヒー香る”PC&スマホスタンドがMOFTから登場 新「Coffee Collection」2製品の実用性をチェックした (2026年11月04日)
  7. ミュンヘン市はなぜ再びオープンソースソフトウェアへ回帰するのか? 脱Microsoftを巡る欧州の最新事情 (2026年11月04日)
  8. 耳をふさがないEDIFIER「Comfo Bass Pro」は朝から夜まで充電不要 1万円強でLDACとDolby Audio対応、在宅勤務の“つけっぱなし”にピッタリ (2026年11月06日)
  9. エレコム、“しろちゃん”の表情で充電状況が確認できる小型パネル内蔵Type-Cケーブル (2026年11月04日)
  10. アイネックス、デスクトップPCの電源操作を手元で行える有線リモコン (2026年11月05日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー