突然“売れ始めた”PC周辺機器やサプライ用品の裏で何が起こったのか牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2020年11月30日 16時30分 公開
[牧ノブユキITmedia]
work around

 PCやスマートフォンの周辺機器およびサプライ用品は、本体機器の動向によって売れ行きが大きく変わる。大ヒットの恩恵を被ってボロもうけのこともあれば、本体機器の突然の終息によって、ニーズのなくなった在庫の廃棄を余儀なくされることもしばしばだ。

 もっともこれらはある程度「そういうもの」として、当初から余分な利益を乗せて販売されているため、メーカーのダメージはあまりない。そもそも本体機器のライフサイクルを見ていれば、次のモデルチェンジに向けていつから在庫を絞り始めればよいか、おおむね予想できるからだ。

 ところが、こうした製品サイクルとは無関係な外的要因によって、爆発的に売れるようになったり、また逆に売れなくなったりするケースがまれにある。最近でいえばコロナ禍におけるWebカメラの品薄化がまさにそうだ。

 他業界では、天候などの要因や、テレビで取り上げられたことがきっかけによる突発的なブームで、店頭の在庫が一気になくなることはよくあるが、PCやスマホの業界はそうした要因はもともとあまりないだけに、いざそうした事態に直面すると、右往左往する羽目になりがちだ。

 今回から2回に分け、この四半世紀の間に、飛ぶように売れ始めたケース、およびピタッと売れなくなったケースをそれぞれ紹介する。今回は前編として、製品が突然飛ぶように売れ始めたケースを紹介する。

バルク品の登場で突如として売れ筋に 「フロッピープラケース」

 最初に紹介するのは、今や懐かしいフロッピーディスクを収納するプラケースだ。初期のフロッピーディスクは1枚ずつプラケースに封入された状態で販売されており、フロッピーディスク1枚を買えば、プラケースも必ず1枚付いてきた。それ故、破損などの場合を除けば、プラケースが単体で売れる余地は全くなかった。

FD 突如売れ始めた3.5インチフロッピーディスクのプラケース(写真はエレコムの「PK-10」)

 それがガラリと一変したのは、フロッピーディスクが1996年を境にプラケース添付をやめ、25枚や50枚という単位で、バルクで売られるようになったことだ。筆者も手元に正確な資料が残っていないのだが、業界団体の主導により、当時フロッピーディスクでは大きなシェアを持っていた花王などを中心に、一斉にプラケースなしのバルク品の販売を始めたのをよく覚えている。

 この影響で、それまでせいぜい破損時の交換用として、数枚セットで店頭販売されていたフロッピーのプラケースが、何かが取りついたかのように爆発的に売れ始めた。プラケースが付属しなくなった以上、プラケースなしでの収納に切り替えればいいだけのように思うが、既にプラケースありの収納に慣れていたユーザーは、収納方法を統一すべく、プラケースを買い足した方が合理的と判断したのだろう。

 こうしたことから10枚パックや50枚パックなど、プラケースのまとめ売りも盛んになったわけだが、ときを同じくしてCD-ROMの台頭などによりフロッピーディスクの市場そのものが縮小、撤退するメーカーも相次ぎ(前出の花王も1998年にはフロッピーディスク事業を終息している)、並行してプラケースの売り上げも下降線をたどり、数年も立つと市場そのものが消滅してしまった。

 中にはプラケースを製造しすぎたメーカーもあったのか、行き先のなくなったフロッピープラケースが卓上カレンダーの収納ケースとしてノベルティ業界に大量に流れたこともあった。まだブロードバンドが到来するよりも前、2000年前後ならではの、牧歌的な出来事だったといえる。

大きな声では言えない理由? 出荷台数が増えた「HDD」

 一般的にHDDは、PCの販売台数と連動して出荷台数が上下すると相場が決まっている。インタフェースはIDEからSATAなどへと切り替わり、さらに現在はPCに搭載する記憶装置としてはSSDに取って変わられたとはいえ、コンシューマー市場においては、この傾向は現在も変わらない。

 ところがこれがある時期、PCの販売台数とはあまり関係なく、加速度的に出荷台数が増えたことがある。それはP2Pファイル共有ソフト「Winny」が大きなブームになっていた、2004年から2005年ごろにかけての話だ。

 Winnyでは、大量のキャッシュを持っていればいるほどファイル共有の効率が増し、目的のファイルを手に入れられる確率が高くなる仕組みだったため、大容量のHDDを用意してキャッシュにし、最終的に別のHDDに移して保管するという使い方が生まれた。

 それが合法か違法かは本筋から外れるのでここでは触れないが、それ以前は、大容量のHDDがあっても保存するファイルがないという状況だったのが一変し、HDDがあればあるほど有利という状況が発生した。その結果、大きな声で理由はいえないものの、ユーザーが大容量の外付けHDDをこぞって買い求めるという事態が発生した。

 この影響によるHDDの出荷台数増について、メーカーは「Winnyの影響です」とは一言も語っていないが、それらしき痕跡はあちこちに残っている。例えば2006年時点のメルコホールディングスの決算報告書では、ストレージ製品が前期比で9.2%伸びたことについて「PCユーザの動画利用すすみHDD需要増」という遠回しな表現で、その伸長の理由を述べている。

 またアイ・オー・データ機器は2006年の事業報告書で、ストレージ部門のHDD製品について「売上高で前期比約15%、数量で約40%」増えたとしており、かなりの活況ぶりだったことがうかがえる。ちなみにPCの販売台数が伸びるのはOSのモデルチェンジのタイミングだが、この前後に行われたOSのモデルチェンジは2006年のWindows Vistaくらいで、この伸長ぶりはやはりWinny抜きでは考えにくい。

 ちなみにこの時期、一部のメーカーから登場して人気を博したのが、動画ファイルをネットワーク経由で読み込み、テレビで再生できるネットワークメディアプレーヤーだ。建前上はDLNA対応レコーダーで録画したテレビ番組や、自前で撮影した動画ファイルの再生用ということになっているが、これらがWinnyにより大量に流通した動画ファイルの活用の一翼を担っていたことは容易に想像できる。

 その後、Winnyの作者である金子勇氏の著作権法違反幇助の疑いによる逮捕(後に無罪が確定)や、プロバイダ各社がWinnyのプロトコルを遮断するようになって一気にブームは去ったが、それと歩調を合わせるようにしてこうしたネットワークメディアプレーヤーも数を減らしたのは、実に皮肉というほかはない。

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