製品が突然売れ始めるケースの中には、本来の用途とは異なる使い方が判明し、別のユーザー層から注目を集めるケースがある。それが価格に起因するものであれば、相乗効果によってあり得ないレベルの売れ行きとなることもしばしばだ。とある音楽プレーヤーが突如として売れだしたのには、その典型的なパターンだ。
これは2004年に起こった事例で、記憶装置の一種であるマイクロドライブが非常に高価だった当時に、そのマイクロドライブを内蔵した携帯音楽プレーヤー「CREATIVE NOMAD Muvo2」が、単体でマイクロドライブを購入する相場よりも安く手に入ることが判明し、パーツ取り、もしくは転売のためだけに購入するユーザーが続出した事例だ。
当時は単体で買うとバルクでも4万円台半ば程度だった4GBのマイクロドライブが、音楽プレーヤーとしては2万円台半ば程度で買えるということで、常軌を逸した価格だったことが分かる。これらは裏技として紹介されたことで瞬く間に知れ渡り、その音楽プレーヤーが市場から姿を消すという事態を招いた。まだ十数年前の出来事ということで、実際に参加した人もいるだろう。
もともとWindowsユーザーに人気が高かったこのNOMAD Muvo2。音楽プレーヤーとして当時絶頂期だった「iPod」に対抗するために赤字で出荷していたのか、それともこの価格でも少なからず利益が出ていたのかは、いまも不明なままだ。
もっともこうしたケースでは「市場を破壊されては困る」と考える部品メーカー(この場合はマイクロドライブのメーカー)の意向によって、契約数量をもって製品の供給がストップされるのが普通だ。このケースも例外ではなく、ほどなくしてマイクロドライブを流用できない対策済みモデルに差し替わり、ブームは終息してしまった。
結果として後に残ったのは、オークションに大量出品された、マイクロドライブを抜き取った「ガワ」や、マイクロドライブ狙いで購入したものの使えないことが分かって手放された「対策済みモデル」の山だ。当時の口コミ掲示板を見ると、オークションで「ガワ」を見つけたユーザーが、どうやって使うのかを質問している様子が残されていたりするのが面白い。
この件が前述のフロッピープラケースやHDDの例と異なるのは、当初はマイクロドライブ狙いのユーザーが自分用に購入していたのが、途中から小遣い稼ぎのための転売の色合いが濃くなっていったことだ。今、大いに問題になっている転売にまつわる動きが、この当時からうごめいていたことがよく分かる。
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