今回の発表会では、Apple Watchシリーズも刷新された。3万7800円(税込み、以下同様)で購入でき、Apple Watchの裾野を広げる「Apple Watch SE」も新しくなり、軽量化を実現している。
新モデルでの大きな特徴は皮膚温センサーだ。筆者自身も誤解していたが、体温計の機能ではないので注意が必要で、睡眠時にApple Watchをつけているとその間に計測される。
このコロナ禍で、我々は非接触の体温計を使って熱を測ることが増え、その計測値がいかにいい加減な指標かを学んだはずだ。外気温が暑ければその影響で熱くなるし、冷房に当たり過ぎれば下がる。冷水で一時的に体温を下げるなど、簡単にだますことができる、いい加減な指標ながら、これを測ることが日本の商業施設では「一応、コロナ対策をしています」という免罪符として大きな役割を果たしている。
だが、正確な心電図機能などに代表されるように、Apple Watchの健康機能はもっと本質に目を向けた設計になっている。この皮膚温センサーも、36.5度前後が平熱という基準の体温を測るものではなく、睡眠時に自動的に測られ、5日以上の計測を行うと、そこであなたの皮膚温の特徴を把握し、それ以後はその基準値と比べてどれくらい体温が上がったか下がったかの記録を続けてくれる。このセンサーの効果の最も分かりやすい事例が、女性の排卵期の認識だろう。
今後、それ以外にも世界中で進んでいるApple Watchを利用した医療研究などに応用される可能性が高い。
新Apple Watchのもう1つの特徴がiPhoneの説明でも紹介した車の衝突の検知で、同じ機能をApple Watchにも搭載したことで、iPhoneを持ち歩いていない場合でも衝突時の緊急連絡ができる。
Apple Watchには、既に「転倒検出」という機能があるので、これと合わせると立っていたり、歩いていたりした際の転倒や自転車での転倒、そして車の衝突まで認識できるようになっている(まだオートバイ事故には対応していない)。
他にも進化のポイントはあるが、それらを打ち消してしまうくらいに大きなインパクトがあるのが、突如、現れた最上位モデル「Apple Watch Ultra」の存在だろう。
これはアスリートや冒険家、ダイバーの利用を意識したApple Watchだ。100mの耐水性能を持ち、強力な防じん性能を持つチタニウムボディーのApple Watchは、見ただけでタフさが伝わってくる。
登山中に滑落などがあっても外れにくいアルパインバンドと、ウェットスーツの上からつけてもピッタリ固定でき外れにくいオーシャンバンド、そして気軽にトレイルランやハイキングに使えるトレイルバンドの3種類のバンドも用意されている(これに加えて従来の45mmタイプのApple Watchのバンドを使うこともできる)。
水中やグローブをつけて雪山登山などをしているような場合でも、重要機能を呼び出せるようにアクションボタンという物理ボタンが追加され、このボタンやデジタルクラウン(リュウズ)を使って、必要な機能の呼び出しや選択を行える。
重要な機能の1つに、コンパスウェイポイント(GPS位置情報を使った道標)を置く機能があり、iPhoneがなくても正確なコンパスと2つの周波数のGPSを使った正確な位置情報でナビゲートをしてくれる。
ほとんど重さの変化を感じさせず、少し分厚くなった本体には最長36時間(低電力設定では最長60時間)動作するバッテリーが内蔵されている。
万が一、冒険中に遭難した場合も、たどってきた道を折り返して戻る方法をガイドしてくれるトレースバック機能も搭載する。
一方、水に潜ると、それと同時にダイビングモードが起動して現在の水深や水温を表示してくれるダイビングコンピューターへと姿を変える。
それでいて価格は12万4800円からとかなり手頃で、高層ビルが立ち並ぶ都会でより正確な道案内をしてくれるアーバンな腕時計としても自然に手になじむ。
多くのデジタルテクノロジーが、「便利」を売り文句に、人々をより怠惰な方向に導いていたのと対照的に、人々をより健康的でアクティブな方向に導いてきたApple Watchだが、このUltraは、まさにその究極の姿だと感じさせる。
これだけでも既に十分過ぎる発表内容だが、今回、これに加えて世界的人気のヘッドフォン「AirPods Pro」も進化し、従来比で2倍強力になったノイズキャンセリングや、AirPods Proのタッチ操作で音量を調整する機能、長時間動作、そしてあなたの頭の形や外耳の形に合わせて空間オーディオの体験をさらに向上させるパーソナライズされた空間オーディオにも対応した。
AirPods Proを装着した状態で、iPhoneの画面の指示に従ってiPhoneを左右の耳に近づけたりすると、顔/耳の形で決まるあなた独自の音の聞こえ方を認識し、空間オーディオの体験を最適化してくれる。この機能も実際に試してみないと分からないので、実機が手に入ってから改めてレポートしたい。
今や世界中の多くの人にとってiPhone、Apple Watch、そしてAirPods Proは、ほぼ身体の延長といっていいくらい肌身離さず常に身につけ使い続けているものだ。
製品としての外観や操作画面はほとんど変わらないながらも、自分の身体の特徴により深くフィットし、より多くの安心を備えることで、もっとアクティブに活動し、きれいな写真や映像を撮ったり、騒音の中でも心豊かになる音楽を楽しんだりと私たち自身をよりアクティブにしてくれる、これがAppleらしい製品の進化のさせ方だ。
分かりやすく機能を追加しただけで、どんどん複雑になる進化と比べて、果たしてどちらが人生を豊かにするのか答えは明白だろう。
※記事初出時、一部表記に誤りがありました。おわびして訂正します(2022年9月2日8時40分)
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