2023年6月、ずっとうわさされていた米Appleのヘッドセット端末「Apple Vision Pro」が発表されました。価格が高すぎて(3499ドル、約50万円!)とても一般に普及するものではありませんが、VRやMR(複合現実)というジャンルの認知度は一気に高まるだろうと感じました。
そんな状況の中、VRヘッドセット界をリードしている米Metaの新製品「Meta Quest 3」が発売となりました。この分野に強い期待を寄せている私は、発表と同時に予約して購入。それから約1カ月、どこまで仕事に使えるかを中心に試用してきました。
従来モデルからあるデメリット、特にヘッドセット自体の「重さ」や「目の疲れ」に対する改善はさほどありません。しかし、MRを活用した機能が使えるようになったことで、ついに普段から使えるデバイスとしての道が開けたと感じます。
このQuest 3には投資する価値があると感じたので、早速さまざまなアクセサリーなどの使用環境を整えて本格的に使い始めています。
なお、当記事の一部はQuest 3で取得したスクリーンショットを貼り付けていますが、実機で見えるMR部分はもう少し粗く感じます。また、実機ではもっと平面に見え、視野角は広くスクリーンショットに映っていない範囲も見えています。ご留意ください。
ITコンサルを手掛ける(株)グロリア代表取締役。15年勤めた前職の野村総合研究所では、高い品質が求められる金融系システムを担当。大規模プロジェクト、開発、保守、運用など、情報システムに関するさまざまな経験の他、マネジメントや要件定義、システム設計、プログラミングといった知識も持つ。現職では大企業、中小企業、個人事業主と規模を問わず、自身のノウハウ全てを使って企業や組織のITを支援している。大のガジェット好きで、常に仕事にうまく生かせないものかと考えてしまう癖がある。モットーは「神は細部に宿る」。2児の父。主な著書に『情シスの定石』『図解即戦力 システム設計のセオリーと実施方法がこれ1冊でしっかりわかる教科書』(いずれも技術評論社)。連載:「目指せ↑ワンランク上の仕事術」デジモノ探訪記
SoCのスペックアップや本体のスリム化など、Quest 3は新モデルとしていろいろなトピックはありますが、仕事で活用する機能といえばなんといってもMRです。
MRとは、現実とデジタルを融合させた空間のことです。Quest 3の場合、カメラを使って取得した現実世界の画像の上にバーチャルなものを配置して実現します。
上記のようにカメラで捉えた画像をヘッドマウントディスプレイに投影することをパススルーと言いますが、Quest 3はこのパススルーがカラーになりました。(Quest 2はモノクロでした)
完全に仮想世界に没入するVRとは違い、MRは現実世界をベースとして使えます。もちろん解像感は現実より劣りますが、装着したまま自由に歩き回れるほどです。こうしたMRを活用したアプリも次々に登場しています。
仕事でVRを活用する恩恵と言えば、まずは拡張ディスプレイとしての用途でしょう。私は普段、5つのディスプレイを使って業務をしています。そのため、ノートPC+モバイルディスプレイといった環境では、やはり生産性が落ちます。
その環境を実現するマシンはハイスペック機である「Mac Studio(2023、M2 Ultra)」です。多くのディスプレイに表示するためにはハイスペックなマシンが必要なのです。Windows機であっても複数枚のグラフィックボードを装着する必要が出てくるでしょう。相当な気合いを入れないと構築できない環境だと感じます。
そこで登場するのが「Quest 3+Immersedアプリ」です。接続元となるMacやPCにもソフトをインストールし、同じアカウントでログインすることでMacやPCのディスプレイとしてQuest 3内に表示できます。これがなんと最大5画面までデスクトップを表示できるのです。
このImmersedアプリは、初めて体験するとびっくりするくらい良くできています。無料版だと3画面までですが、3画面でも十分という方は多いでしょう。サブスクリプションプランであるPro版にすると5画面使えますが、ImmersedのMarketplaceをよく見ると「買い切りで5画面まで使えるオプション」もあります。私はこちらを購入しました。
このようなバーチャルディスプレイを常用するには3つのポイントがあると個人的には考えています。
1つ目は当然、ディスプレイがキレイに見えること。文字が読めないと話になりません。この点、Immersedはまったく問題ありません。1920×1200の5画面を作っても動作し、いわゆるインチに相当するような画面サイズは自由に大小できます。
2つ目はMRができること。これは人による部分があると思いますが、私は完全にバーチャルな空間で仕事をするのは苦手です。例え開放的な風景があったとしても、仮想世界なので閉塞感を感じてしまいます。また、近くに人がいたとしても気がつけないためストレスになります。実際の机との位置関係なども感覚が合いませんので、ある意味目隠しをして別空間にいるような形になります。
ImmersedはMRに対応しています。例えば、バーチャルディスプレイ以外の部分についてカメラが捉えた現実空間を表示できます。パススルー性能は手元がゆがんで表示されることがあるなど、ややイマイチな部分はありますが、十分合格点には達しています。Apple Watchの通知表示も読めるほどです。
そして3つ目ですが、PCへの入力、つまりキーボードやマウスがそのまま使えることです。MRで表示できれば実物が見えるので、実物がそのまま使えます。よくバーチャルキーボードのような機能を持つアプリがありますが、やはりバーチャルは物理に劣ります。
iPadの画面キーボードが物理キーボードより使いづらいのと同じですね。いくら画面数があっても入力にストレスがあると全く意味がありませんが、普段使っているキーボードやマウスを使って操作ができますので全く問題ありません。なおImmersedは、VRモードであっても特定の空間エリアを切り抜いてMR表示することができます。本当によくできたアプリだと思います。
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