Apple Siliconはなぜ「オンデバイスAI」に強いのか? NVIDIA「RTX Spark」との比較で読み解くシリコン設計の哲学:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/5 ページ)

» 2026年06月08日 14時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 WWDC(World Wide Developers Conference) 2026の開催を前に、AppleでApple Silicon(自社設計半導体)担当のシニアプロダクトマネージャーを務めるダグ・ブルックス氏に話を聞く機会を得た。テーマは「オンデバイスAIを支えるシリコン設計の考え方」だ。

 今、半導体業界ではAI(人工知能)に最適化したシリコン設計をめぐる競争が激しさを増している。CPUとGPUが同じメモリ領域を共有する「ユニファイド(共有)メモリ」のアーキテクチャを採用する動きが各社に広がり、その流れはより鮮明になってきた。先日NVIDIAが発表したWindows PC向けSoC「RTX Spark」は、その何よりの“証拠”といえる。

 2020年のMacにおけるApple Siliconへの移行以来、Appleが築いてきた共有メモリの優位は、オンデバイスAIの時代において多くの「フォロワー」を生み出している。

 今回話を聞いたブルックス氏は、システムエンジニアとして1994年にAppleに入社し、長らくMacのハードウェアに携わってきた。M5チップファミリーにおいても、アーキテクチャの“意図”を語る役割を担っている。半導体自体の設計者ではないが、半導体の価値をいかに製品価値に反映しようとしているのかを語れる人物である。

共有メモリ AppleがMacを自社設計の「Apple Silicon」に移行してから間もなく6年を迎える

iPhoneの「Face ID」から始まった推論エンジンの系譜

 インタビューの内容に触れる前に、Apple SiliconがオンデバイスAIに最適化されてきた歴史を簡単に振り返っておきたい。

 Mac向けの初代Apple Siliconである「M1チップ」の登場時はまだ、推論処理は今日のような「生成AI」の文脈では語られていなかった。しかし、Apple Siliconにおける推論処理の最適化は10年近い歴史の“厚み”がある。

 その源流は、2017年の「iPhone X」に初めて搭載された顔認証システム「Face ID」のための処理モジュールにある。同機種のSoC「A11 Bionicチップ」に初めて載った「Neural Engine」(NPU)は当初、Face IDや「Animoji」の処理など、ごく限られた用途にのみ使われていた。

 それはやがて、iPhoneの新機能を実現する“独立した”プロセッサモジュールとしてブランド化され、カメラ画質の向上を支え、専用フレームワーク「Core ML」を通して機械学習の応用全般へと裾野を広げた。ユーザーインタフェースや機能を磨き上げながら、今日のオンデバイスAIへと連なっている。

Core ML Core MLによって、Apple SiliconのNeural Engineを機械学習に使いやすくなった

 つまりApple SiliconのAI機能、すなわち推論能力は世代ごとに求められる機能への最適化の積み重ねであり、その時々のバランスに合わせて実装形態を変えてきた。昨今では、その能力は「CPU」と「GPU」、そして「Neural Engine」へと分散され、これらを共有メモリによって結合している。

 そして直近では、オンデバイスでの「生成AI」、さらには「エージェンティックAI(エージェントAI)」への最適化に歩みを進めつつある――これは筆者自身の見立てだが、まずこの見方を示した上で、ブルックス氏に話を聞いた。

 するとブルックス氏は「その多くは初期の時代に始まった」と振り返った。

 Neural Engineは、当時の製品開発で必要とされた「非常に限られた領域の機械学習タスクを解決するため専用アクセラレーター」として導入された。その後、これを「Core ML」という形で(機能を)公開し、開発者がNeural Engineに手を伸ばせるようになると、応用は一気に広がった。

 世代を重ねるごとに推論能力は向上し、電力効率も改善し続けている。とりわけAIの領域は“演算”への需要が尽きることがない状況にある。

 世代ごとに求められる機能へ焦点を絞って最適化する傾向にあるApple Siliconだが、必ずしも「現在の形」を目指し、一貫して開発されてきたものではない。

 しかし、半導体業界の技術トレンドと製品開発における目標を両にらみしつつ、Neural Engineだけでなく、CPUコアやGPUコア、さらには各種アクセラレーターを組み合わせることで、ワークロードごとの最適化と分散を進めてきた。電力効率を保ったまま、現在はオンデバイスAIに焦点を当てた構成へと進化している。

A11 Bionic 今振り返ると、iPhone X(やiPhone 8シリーズ)に搭載されたSoC「A11 Bionicチップ」が現在のApple Siliconの“流れ”を決定付けたのかもしれない
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