新型「iPad Pro」がM3チップをスキップした理由 現地でM4チップ搭載モデルと「iPad Air」に触れて驚いたこと本田雅一のクロスオーバーデジタル(5/6 ページ)

» 2024年05月09日 13時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

クリエイターを支えるために大幅改良された「Neural Engine」

 M4チップのNeural Engineは、M3チップと同じ16基構成だ。しかし、そのピークスループットは2倍を超える38TOPSに引き上げられている。

 現時点において、Appleはスループットが向上した理由を明確にしておらず、そもそもどの演算精度で「38TOPS」の性能を発揮できるのかも説明していない。「謎多きNeural Engine」ともいえる。ただ、Appleの新しい純正アプリは、このNeural Engineをうまく活用し、極めて印象的な性能と機能を実現している。

Neural Engine M4チップのNeural Engineは、M3チップと変わらない16基構成だ。しかし、先述の通りピーク性能は16TOPSから38TOPSと2倍超に引き上げられている

 詳細は実機をレビューした際に紹介したいが、音楽制作アプリの「Logic Pro」であれば、精度が驚くほどに高いAIによる自動伴奏機能が用意された。調整次第でまるで人間が演奏しているかのようなグルーブ感を伴う伴奏を付与できる。

 さらに、仲間内でラフに録音したセッションを入力するだけで「ボーカル」「パーカッション」「ベース」「それ以外の楽器」といった感じで各トラックを驚くほどにクリーンに分離して、分割されたステムデータに仕立ててくれる。 自動伴奏機能と組み合わせれば、弾き語りで作った自作の曲に、まるでプロフェッショナルのようなバウンスを加えるなんてことも可能だ。

 そのスピーディーさは、実際にデモンストレーションを見て、自分自身で試した人にしか理解できないかもしれない。

Logic Pro Logic Proでは、新しいNeural Engineを使った新機能を利用できる(しかも爆速で)

 動画編集アプリ「Final Cut Pro」では、 動画中の「背景」と「被写体」の自動分離や、タイトルを始めとするエフェクトの挿入にAIが使われる。その際に、Neural Engineが力を発揮する。

 よく似た機能は、他でも見たことがあるかもしれない。しかし、新しいiPad Proで動くFinal Cut Proでは、ほとんど待たされることなく、リアルタイムに実行される。そして、Apple Pencil Proを用いて自由にエフェクトを動画に加えていく様子は、明らかに従来のiPadの能力を超えるものだった。

カメラ Final Cut Proといえば、iPhoneまたはiPadをリモート(テザー)カメラとして運用する「ライブマルチカム」機能にも注目したい。今回のイベントのハンズオンでは、iPhoneを使ったテザー撮影のデモンストレーションが行われていた

 昨今Intelが「AI PC」というキーワードを多用していることからも分かるように、最近はハードウェアの中にAI(厳密にはAI処理に特化した演算エンジン)を統合する動きが盛んだ。元をたどると、このトレンドはスマートフォン向けSoCから始まったもので、Appleはその“元祖”ともいえる。

 Appleはその取り組みをiPhoneで行ってきたのだが、「AI」ではなく「機械学習(ML)」という言葉で表現してきた。その最も大きな目的は、冒頭でも少し触れたコンピューテーショナルフォトグラフィーの実現にあった。

 一方、今回M4チップに搭載された新しいNeural Engineは、クリエイターが製作するイラスト、動画、音楽などの創作活動をやりたいと思うことを“プロアクティブ”に支援する――Appleのアプリを見ていると、そのようなことができるようにすべく、Neural Engineの性能基準を大幅に見直したように思える。

 では、AppleはなぜM4チップをMacで採用しなかったのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年06月01日 更新
  1. iPhoneへの「マイナンバーカード」にまつわる誤解を解く プラスチックカードより安全だが課題もある (2024年05月31日)
  2. 会話が禁じられた謎のメタバース空間「ぷらっとば〜す」なぜ炎上? 内閣府の孤独・孤立対策強化月間企画だが…… (2024年05月30日)
  3. 税込み5万8800円で買える「10.9インチiPad(第10世代)」の実力を最新iPad Proユーザーが改めてチェックした (2024年05月29日)
  4. AMDからGPUなしCPU「Ryzen 7 8700F」&「Ryzen 5 8400F」が登場 (2024年06月01日)
  5. 全面ガラス張りで高級感もあるAndroidポータブルデバイス「AYANEO Pocket S」誕生 (2024年05月31日)
  6. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  7. 約3万円台半ばでペン付きのAndroidタブレット「Lenovo Tab M11」を試す コンテンツ消費には十分なスペック (2024年05月28日)
  8. Z世代はオンラインと現実社会の人格ギャップに悩んでいる? レノボが「デジタルウェルネスキャンペーン」を展開する理由 (2024年05月30日)
  9. マウス、GIGAスクール構想に準拠した11.6型2in1ノートPC「MousePro T1-DAU01BK-A」の販売を開始 (2024年05月30日)
  10. パスワードの「定期的な変更は不要」だが注意点も 総務省がサイバーセキュリティサイトで呼びかけ (2024年05月28日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー