新型「iPad Pro」がM3チップをスキップした理由 現地でM4チップ搭載モデルと「iPad Air」に触れて驚いたこと本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/6 ページ)

» 2024年05月09日 13時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 Appleが行った新しいiPadシリーズの発表は、実に多くの情報を含んだものだった。その全体像は、発表された製品のレポート記事にある通りだ。

 発表に伴うスペシャルイベントは米国のニューヨーク、イギリスのロンドン、そして中国の上海(翌日開催)の世界3拠点で行われる大規模なものになった。事前のうわさ通り「iPad Pro」が刷新された他、M2チップを搭載した上で13インチモデルも追加された「iPad Air」、そして日本では1万円値下げされた「iPad(第10世代)」など、iPadに焦点を絞ったとは思えないほどに“盛りだくさん”だったといえるだろう。

 イベント会場に設けられたハンズオンコーナーで新しいiPad Proに触れた際、筆者はあまりの軽さに驚いた。しかし、その進歩はハードウェア面にとどまらない。スペックやちょっとしたフィーリングだけでなく、クリエイターをサポートする“全く新しい”ツールとして進化していたのだ。

 その一例が、動画編集アプリ「Final Cut Pro」と音楽製作アプリ「Logic Pro」のiPad版に新たに実装された、機械学習と推論アルゴリズムを用いた画期的な機能である。イベント取材の結果も踏まえて考えると、これは昨今のAIトレンドに対するAppleなりの“回答”が含まれているのかもしれない。

 かつて「iPhone 11 Pro」が新しい機械学習と推論アルゴリズムを用いた画期的な写真画質(いわゆる「コンピューテーショナルフォトグラフィー」)の出発点となった時と同様に、新しいiPad ProとFinal Cut Pro/Logic Proは“新しい進化”の出発点になると感じられた。

 ……と、前置きが長くなってしまった。今回の発表内容は、いろいろいな切り口で論じることができるが、全てを網羅すると論じるべきことがぼやけてしまう。この記事では、刷新されたiPad Proについて、ロンドンでのイベント取材を通して分かったことをまとめていこうと思う。

ティム・クックCEO スペシャルイベントは世界3カ所で行われたが、プレゼンテーション自体はApple本社での収録で行われたようだ

「M3チップ」が出て間もないのに「M4チップ」を投入したのはなぜ?

 ロンドンでのイベントは、同市の中心部にあるバタシー発電所(Battersea Power Station)の跡地に作られてた巨大な複合施設で行われた。旧バタシー発電所は、イギリスの発展を支えた、歴史ある火力発電所だった。

 1930年代に建設されたバタシー発電所は、現在に至るまでレンガ造りの建築物としては世界最大の規模を誇る。その威容は、多くのポップ/カルチャー作品の創作にも取り込まれている。例えばピンク・フロイドが1977年に出した社会風刺性の強いアルバム「アニマルズ」では、この発電所の上空を豚が飛ぶカバーが目を引いた(2022年にはアルバム・アートワークが同発電所でリテークされた)。1965年のビートルズ出演映画「ヘルプ! 4人はアイドル」でも建物全体がフィーチャーされていた。

 再開発された施設には、Appleの英国法人(Apple United Kingdom)も入居している。今回のイベントは、この歴史的建造物にある室内テラスが会場となり、建物のバルコニーには多くのApple社員たちも顔を出して、その発表内容に注目していた。

旧バタシー発電所 ロンドンの旧バタシー発電所は、再開発されて複合施設として運用されている。本文にもある通り、現在でもレンガ作りの建物としては世界最大規模を誇る
スペシャルイベント会場 スペシャルイベントは、旧発電所内部に造成された室内テラスで行われた。会場を取り囲むバルコニーには、Appleの現地法人の従業員も顔を出していた

 今回のイベントのテーマは日本語で「何でもあり。」だった。通常、Appleがスペシャルイベントを行う際は、報道関係者を米国(多くの場合は本社のあるカリフォルニア州クパティーノ)に集める。しかし今回、米国以外の報道関係者はロンドンに集められた。

 その理由は、イベントの内容を振り返ると見えてくる。今回はiPadシリーズのラインアップだけでなく、新開発のSoC「M4チップ」、その性能を生かしたソフトウェア技術、新たな周辺機器である「Apple Pencil Pro」など、発表された事項は多岐に渡り、見る人に多様な“切り口”を与えるものだったからだ。

 これだけの内容を一カ所で体験させることは、なかなかに難しい。

前座にグレッグ・ヨスヴィアク氏 ロンドン会場では、イベントの前座としてグレッグ・ヨスヴィアク氏(マーケティング担当シニアバイスプレジデント)が登壇した

 まず、新しいiPad ProのSoCに注目したい。出てそれほど時間のたっていないM3チップを“スキップ”して、新しいM4チップを採用したのははぜなのだろうか。

 端的にいうと、M4チップは新しいiPad Proをターゲットとして開発されたSoCだからだ。

 一般的なSoCは、多様なメーカーが採用することを想定して汎用(はんよう)的に設計される。その点、Appleはデバイスに求められる性能や機能を“逆算”してSoCを設計している。つまり、M3チップは新しいiPad Proのお眼鏡に“かなわない”要素があったということだ。

 M3チップと比べると、M4チップはディスプレイコントローラーに変更が加えられている。これは新しいiPad Proの2層構造の有機ELパネル(タンデムスタックOLEDパネル)を制御するためだ。そしてNeural Engine(NPU)はコア数こそ16基で変わりないものの、ピーク時のスループット(実効性能)が18TOPSから38TOPSと2倍以上に引き上げられている。

 ディスプレイコントローラーの変更と、Neural Engineの処理パフォーマンスの向上――これが、新しいiPad Proを実現するために欠かせなかったからだ。

Neural Engine M4チップのNeural Engineは、実効性能がM3チップの最大2倍以上となっている
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