―― TOKIUMは導入支援や運用支援に力を注いでいますね。
黒崎 多くのSaaS導入や運用に共通している課題は、専門知識を持った人がいる企業は利用しやすいのですが、デジタルにあまり詳しくない人ばかりの企業だと、効果が最大限に発揮されなかったり、あるいはだんだん使われなくなってしまったりということが起きがちであるという点です。
一律に提供されるマニュアルだけが配られて、それを読んでやってほしいというSaaSが多いこともその一因となっています。企業ごとに困り事は違うため、本来は、そこにフォーカスした対応が必要です。
また、忙しい経理部門の人たちが、全社員に向けて使い方を指導するといったことも現実的には不可能です。TOKIUMは導入支援や運用支援に力を注いでいますから、その部分も当社に任せてもらえば済みます。当社の社員が直接支援することも可能です。
―― 新たなサービスとして、2024年6月から「TOKIUM契約管理」の提供を開始しました。この狙いは何ですか。
黒崎 TOKIUM契約管理は、電子帳簿保存法の要件を満たした上で、締結済みの契約書の管理に特化したクラウド契約書管理サービスです。紙の契約書はTOKIUMに郵送するだけでスキャンを代行し、取引先名や契約期間などの契約内容を、GPT-4oが自動で抽出し、データ化します。そして、紙の契約書そのものは、TOKIUMが保管します。
もともと、契約書の管理は支出を最適化するという観点から行うべきであるという課題意識を持っていました。経理部門の人たちに聞くと、請求書の金額はなぜその金額なのか、来月もこの請求書が発生するのかということが分からないことが多く、それを営業部門の担当者に確認するといった作業がよく発生しています。
しかし、その作業は時間と工数をかなり無駄にしています。また、請求書の内容は、契約書を見れば理解できるのですが、経理部門には契約書が保管されておらず、請求書と契約書をひもづける作業も煩雑となっています。こういったことに悩んでいる企業が多く、そこに当社が貢献できると考えました。
大手企業からは、グループ全体の契約書を預けたいという商談もいただいています。契約管理業務の効率化だけでなく、企業のガバナンス強化を実現し、契約内容を元にしたコスト削減の取り組みにもつなげることができます。
この2年間でTOKIUMのユーザーは1500社増加し、現在、2500社が当社の製品を利用しています。上場企業は250社以上ですが、規模や業種を問わず幅広く利用していただいています。
新たなお客さまに対してTOKIUM契約管理を切り口にした提案を行う一方で、既存のお客さまにも積極的に提案をしていきたいと思っています。2500社のうち、TOKIUM経費精算と「TOKIUMインボイス」の両方を利用しているお客さまは約50%です。そうしたお客さまに、3つめの製品としてTOKIUM契約管理を併用していただくことで、複数の製品を利用するお客さまを増やしていきたいですね。
―― インボイス制度の施行や電帳法改正も追い風になっていますか。
黒崎 インボイス制度の施行だけでなく、コロナ禍で働き方が変化したこと、ペーパーレス化に対する動きが加速していること、2024年10月1日から郵便料金が値上がりするといった要素も組み合わさって、TOKIUMを導入する機運が高まっているのは確かです。
ただ、インボイス制度では、領収書に記載されたインボイス発行事業者の登録番号の扱いなどによって現場の業務が増えていますし、電帳法の改正も現場のニーズに合わせてどんどんいい方向には向かっているものの、それに合わせた対応が追いつかないという課題もあり、ベンダー任せにしたいといった動きが見られています。
今はデジタル化やペーパーレス化に向けた過渡期であり、そこでは当然ながら課題も生まれます。現場の作業が増えるといったことも起こるでしょう。これが落ち着くまでに5年ぐらいかかるかもしれませんね。とはいえ、ここにも当社のビジネスチャンスがあると思っています。
インボイス制度も電帳法も、ペーパーレス化やデジタル化する際にも課題があったり、作業が面倒だと思ったりしたら、それらは全てTOKIUMに任せてください、TOKIUMが過渡期のエラーは全て吸収しますという気持ちで、サービスを提案していくつもりです。
制度が改正されて現場がスムーズに動くようになったら、TOKIUMのサービスを解約すればいいわけです。そのときには、また別の課題が生まれているかもしれませんし、きっと、そこにも当社は新たなサービスを提供することになるでしょう。
日本の企業はDXが遅れていると言われ、デジタル(D)には関心が高いが、トランスフォーメーション(X)がうまく行っていないとも言われます。その点では、当社はデジタル化を支援する会社というよりも、トランスフォーメーションを支援する会社だといえるかもしれません。
―― TOKIUMは、ソフトウェアを提供するデジタル企業ではないと。
黒崎 純粋なテクノロジーカンパニーやデジタルカンパニーではないですね。SaaS「も」やっている企業という感じでしょうか(笑)。ソフトウェアの力だけでなく、そこにハードウェアや人の力も組み合わせてオペレーションの強さを生かし、SaaSだけでは解けない課題を解決することができます。当社が大手企業に選ばれる理由はそこにありますと思っています。
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