とはいえ、やはりM5チップの本分はAI処理能力の高さにあると考える。
M5チップのNPU「Neural Engine」は16コア構成で、そのアーキテクチャに変わりはなく共通だ。Appleは「これまでで最速のNeural Engine」とうたっているが、クロックの向上やメモリ帯域の拡大で総合性能を高めているようだ。
Geekbench 6のCore MLベンチマークを細かく見ると、画像認識タスクのスループットはチップ比で2.5倍以上となっているのだが、これは先述のGPUコアに追加されたアクセラレーターによるところが大きい。
「Stable Diffusion」を用いたテキストからの画像生成や、大規模言語モデル(LLM)のローカル実行が格段に高速になっていることは確認できた。ただし、筆者がテストした製品は16GBメモリの構成であり、20Bクラスのより広大なLLMモデルは動かすことができなかった。
Appleは「毎日のAIワークフローを究極のレベルへ」として、大学での講義録音の文字起こしからクリエイターのAIツール活用、ビジネス分析でのローカル機械学習まで、幅広い用途で恩恵があるとしているが、これは今後の評価に任せたい。
一方で、「macOS Tahoe」に統合されたApple Intelligence機能では、M5チップの強力なAI処理能力を存分に味わえる。FaceTimeビデオでは通話中にライブ字幕が生成されるが、これは応答性を重視して音声認識と翻訳がオンデバイスで行われる。
写真の被写体認識は実感することが少ないだろうが、「Image Playground」(画像生成アプリ)での顔の表情や髪型の変更処理など、ちょっとした操作が滞ることがない。
ネット接続が不安定な環境でも、あるいはセキュリティ上の理由でクラウドにデータを送信したくない場面でも、動作条件を意識せずにAI機能を利用できることが、オンデバイス処理の良いところだ。
実際のところ、M5チップ搭載の14インチMacBook Proの体感速度向上には、演算パフォーマンスの改善だけでなくシステム全体でのデータ転送速度の向上も寄与している。
メモリ帯域幅は、M4チップの毎秒120GBから約30%引き上げて毎秒153GBになった。これはM3 Proチップの毎秒156GBに近い値だ。この性能向上は、CPUやGPUなどが必要なデータに滞りなくアクセスできるように“詰まり”を減らすための対策となる。
そしてメモリ帯域の拡大以上に効果のある改良がストレージパフォーマンスの強化だ。M5チップ搭載の14インチMacBook ProのSSDについて、Appleは「前世代比で最大2倍の高速化」とアナウンスしている。
実測値として、シーケンシャルの読み出しは最大毎秒6.5GB、書き込みは最大毎秒8.3GB程度を記録した。特に書き込みは安定しており、シーケンシャルであれば常に毎秒6.5秒をキープできる。
動画プロジェクトを外付けストレージでやり取りする場合、昨今は4K/8Kといった高精細(≒大容量)のデータが当たり前になってきた。4分の転送が2分に短縮されると考えると、何度も繰り返せば違いは大きい。
M5チップ搭載の14インチMacBook Proはシリーズのエントリーという位置付けなのだが、Apple Storeなどにおけるカスタマイズ(CTO)モデルではSSDの最大容量が2TBから4TBに引き上げられた。ただし、4TB構成へのアップグレードには約12万円の追加費用がかかるため、コストと必要性を慎重に検討する必要がある。
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