音楽×AIの次なるフェーズへ――Apple Musicが「AIタグ付け」を要求

» 2026年03月08日 13時00分 公開
[ITmedia]

 生成AIの進化は、テキストや画像だけでなく「音楽」の分野にも大きなうねりをもたらしている。楽曲制作におけるAIツールの普及が進む中で、音楽ストリーミングサービス大手各社は、AIとどう向き合うのかという新たな課題と可能性に直面している。

 直近では、Appleが提供する「Apple Music」が、AIによって生成された楽曲に対する「AIタグ付け」の導入を発表した。一方、競合である「Spotify」は、リスナーの音楽体験を向上させるためのAI活用を積極的に推し進めている。

Apple Music

Apple Musicが導入した「AIタグ」とは?

 米BillboardMusic Business Worldwideなどが報じたところによると、Apple Musicはレコード会社や音楽配信会社向けの新たな配信要件として、AI利用の開示を義務付ける「AIタグ付け」を要求している。

 このルールでは、楽曲や関連コンテンツの制作において「重要な部分」にAIが使用された場合、指定のタグを付与することが求められる。具体的には以下の4つのカテゴリーが設定されている。

  • アートワーク(Artwork):アルバムジャケットなどの静止画、およびモーショングラフィックスの重要な部分の作成にAIを使用したケース
  • トラック(Track):音源(サウンド・レコーディング)そのものの生成にAIを用いたケース。このタグはトラック単位でのみ適用
  • 作曲(Composition):歌詞やメロディなど、作曲の重要な部分をAIで生成したケース
  • ミュージックビデオ(Music Video):アルバムに付属するミュージックビデオや単体のビデオにおいて、映像要素の生成にAIを使用したケース

 生成AIを活用すれば、誰でも手軽に高品質な楽曲を作れるようになった反面、著作権の問題や「人間のアーティストによる純粋な作品か、AIによる生成物か」を区別しにくいという課題が生じている。

 Apple Musicの今回の措置は、リスナーに対して透明性を担保するとともに、クリエイターの権利を保護し、プラットフォームの健全性を保つためのガイドラインと言えるだろう。

Spotifyは「リスナー体験の拡張」にAIをフル活用

 Apple Musicが「AIコンテンツの管理と透明性」に重きを置いたアプローチをとる一方で、世界最大手のSpotifyは「AIを使って音楽との新しい出会いを創出する」というリスナー目線でのAI活用を加速させている。

 その代表格が「AI DJ」機能だ。これは、ユーザーの視聴履歴や好みの傾向をAIが分析し、パーソナライズされた楽曲リストを、まるでラジオ番組のように「AI生成音声による気の利いたMC(解説)」と共に届けてくれる機能だ。

 従来のただのシャッフル再生とは異なり、音楽トリビアや選曲の理由を語りかけてくれるため、新しいリスニング体験を味わえる。

 さらに、ユーザーのプロンプトからプレイリストを自動生成する「AI Playlist」機能や音声での指示(一部言語のみ)も展開中だ。

2023年から導入されたSpotifyの「AI DJ」機能。日本での展開はまだなされていない

音楽×AIの次なるフェーズへ

 Apple MusicとSpotifyは音楽ストリーミング市場をけん引しているが、生成AIに対するアプローチにはそれぞれ明確なスタンスの違いが見て取れる。

 Apple Musicが導入したAIタグ付けは、急増するAI生成コンテンツに対して「ルールと枠組み」を設け、アーティストとリスナーが安心して利用できる環境を整備する「守り(=ガバナンス)」の側面が強い。

 一方のSpotifyは、AIを強力なパーソナライズエンジンとして捉え、音楽体験そのものをリッチにする「攻め(=ユーザー体験向上)」のツールとして活用している。もちろん、AI音楽の悪用事例は取り締まりを強化しているが、AI音楽に関する規制を特化しているわけではない。

 生成AIという強力なテクノロジーは、既に音楽業界にとって不可逆なものとなった。今後は、Appleが整備したような「透明性の確保」が業界標準になっていくと同時に、Spotifyが提示するような「革新的なAIリスナー体験」がさらに洗練されていくだろう。

 各ストリーミングサービスでは、日々AIで生成されるトラックの除外やタグ付け、アルゴリズムによる推薦から除外するツールの導入など、AIコンテンツの氾濫を抑制している真っ最中だ。

 「AIが作った音楽をどう扱うか」そして「AIを使って音楽をどう楽しむか」。PCやスマートフォンを通じて私たちが日々触れる音楽体験は、今まさに大きなパラダイムシフトの真っ只中にある。

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