「スマホの中身は見ないで」――デジタル遺品解析のプロが生前整理サービスを始めた“切実な理由”:古田雄介のデステック探訪(2/2 ページ)

» 2026年08月12日 12時00分 公開
[古田雄介,ITmedia]
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契約とサービスの限界を見据えて動く

 死後事務委任契約で難しいのは、遺族との折り合いのつけ方だ。この契約は本人の独断でも行えるが、遺族の考えに反する処理を含んでいると実現の難易度が跳ね上がる。例えば、「書斎のPCの中身は全部消してくれ」とお願いしたとしても、本人の死後にそのPCを所有している遺族の協力なしでは契約の履行は不可能に近い。

 デジ・タクセルの公式サイトでも「遺族がスマホの返送を拒否した場合、パスワードの通知は原則不可となります」とある。末吉さんも遺族への伝達には細心の注意を払う。

 「履行するにあたって最初のハードルになるのは、遺族の方にスマホを渡してもらうことです。ここをスムーズに進めるためにも、依頼者の方には弊社のサービスについてご家族にお伝えするようお願いしています。契約書類を分かりやすい場所に置いてもらったり、『金融系の情報はあのサービスに伝えてあるから』と託す側の情報を伝えてもらったりと、さまざまな形で依頼しています。どこまでを伝えればいいのかは個々の関係性や状況によりますし、怪しまれるご家族もいらっしゃると思いますから」

 また、細部の条項がバッティングすることもありうるだろう。本人は死後に消すつもりだったブログやSNSが、遺族に引き継がれている例は複数ある。さらに、遺族の意思が1つであるとは限らない。配偶者や子、親、兄弟の誰かが異を唱えたら、納得してもらうまで履行を一旦ストップすることもある。

 「資産性があるものに関しては、削除するのか、あるいは誰に託すのかなど、どこまで想定するかといった建て付けは悩みました。『認知していない子にこの資産を渡してほしい』や『金融資産リストにこれだけは入れないでくれ』みたいな依頼があったらどう対応するか。できる範囲で対応はシミュレーションしていますが、今後も弁護士に相談しながら都度チェックしていく形になると思います」

 その上で、サービスの技術担当者はこう補足する。

 「前提として、ご本人の生前の同意と契約があって初めて成り立つ対応です。こちらがメッセージの中身を見たり、取得したりすることを目的にしているわけではありません。実際にどこまでできるかは、各サービスの利用条件や法令、端末やアカウントの権限関係によって変わります」

 それでも想定しきれないケースは残る。線引きを見極めながら、どこまで依頼者の希望に沿えるのか。運用と検討を重ねていく構えだ。

 そしてもう1つ無視できないのは、サービスが存続する保証だ。デジ・タクセルのメインターゲットは40代から60代だ。厚生労働省の「令和7(2025)年簡易生命表」によると、40歳の日本人の平均余命は男性で42.29歳、女性で48.05歳だ。契約の履行が50年以上先になることも考える必要がある。

 末吉さんは、暗中模索の最中にあることを率直に打ち明けた。

 「ここはまだ答えが出せていません。弊社の存続を考えることはもちろんですが、それとは別に他の企業との提携や、社団法人を作って家族信託などの形で一定の運転資金をプールするなどのアイデアは練っています」

 このあたりの問題は企業の大小に関わらず、どうしても不確実性が残る。だから、不確実な将来への対応力をみるのが正しい姿勢だと思う。2019年に設立した同社は、経営方針として日本人の死亡者数がピークに達すると予想される2040年を重要な指標としている。年間170万人が亡くなるとされる同年に、IT技術を使って何ができるか。その逆算の中でデジ・タクセルは生まれた。

 契約できるデバイス数や託せるメッセージ数、サブスク解約数などは今後も変動する可能性があるし、新たなプランが追加される可能性も高い。マイナンバーカードとの連携も含めて、今後も柔軟に検討を重ねていくという。その変化に注目していきたい。

デジ・タクセルのスタンダードプランの内容一覧 デジ・タクセルのスタンダードプランの内容一覧
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